黒猫
"この猫は稀に見るほど大きくて美しく、全身真っ黒で、驚くほど利口だった。"表題作のゴシックホラー短編、黒猫(1843年)他、アッシャー館の崩壊(1839年)推理小説初期の作品、盗まれた手紙(1845年)などを含め1992年に発刊された本書は後世のドストエフスキーやコナンドイル、江戸川乱歩や谷崎潤一郎など日本文豪への影響が強く感じられる傑作集。
個人的には、暑さも本格到来する中、めくるめく幻想的な恐怖小説の世界へと、ひとときの涼を求めて逃避しようと子供時代から何十年ぶりに本書を手にとりました。
さて、本書は前述の通りに著者の幅広い作品が収められているわけですが。まず大人になってからの再読で全体を通して印象に残ったのは、故意に地域性を排し、さらには語り手たちすら明らかにされない事で作品たちが獲得している【時代を超越した普遍的な魅力】でしょうか。(ジャンルは違いますが、ちょっと星新一作品を思い浮かべました)おかげで短い作品達にも関わらず、作中世界に洗練された文章と共に違和感なく自然と入り込む事が出来、何とも悦楽にひたる事ができました。
また、お恥ずかしながら。黒猫他のゴシックホラー作品は既読でしたが。【世界初の推理小説にして、世界初の名探偵】C・オーギュスト・デュパン(さらに余談的には『ゴリオ爺さん』のヴォートランのモデル、ヴィドックの影響がここにも!びっくり)が活躍するシリーズは今回初めてで。"まんまシャーロック・ホームズじゃないか!"と読み終えるまで思っていたら【こっちが元祖】という事を知って、1人ちょっと恥ずかしい気持ちに襲われたり。
著者作品を一まとめに楽しみたい誰かや、幻想的な短編集を探す誰か。あるいは初期の推理小説の雰囲気を知りたい誰かにもオススメ。