新しい展示様式(後編)
新しい展示様式とは、もちろん新型コロナウイルス感染症の専門家会議の提言「新しい生活様式」になぞらえたものですが、今後、ウイルスとの付き合いが長期化していくことで、私たちの生活や、行動そのものを変容していくことが必須なのであれば、他にも多くの細分化した「新しい○○様式」を考える必要があるだろう、と思った訳です。例えば僕たちの仕事だと、新しい小売店様式とか、新しいイベント様式とか。
オフラインとオンラインを織り混ぜる
自粛期間中で、オフラインである場所が休業を余儀なくされる、または開けていても人が来ない(もしくは呼べない)ことで、その替わりとしてオンラインで補完する(例:小売店がECサイトを開設する、イベントをオンラインで開催するなど)という発想に行き着くことは、もちろん理解できるものの、緊急事態宣言も解除された今、新しい展示様式では、まず、以前のように「大勢の人に来て貰うこと自体が難しい」という前提に立つ必要があります。
その上で、展示を構成する要素を細かく分解し、それぞれに対して、これはオフラインのままで良い、でも、この要素は新たにオンラインで、という風に振り分けて混ぜ合わせ、再構築していくことで、これを機に、今まで当たり前のように定型化していた展示の在り方を更新したい、と考えました。
要素分解(今までの展示様式)
さて、今までの展示の姿を要素分解して、ざっとオフラインとオンラインに分けてみると、大体、下記のようになるでしょうか。
■オフライン
○作品展示
○DM送付
○芳名帳・名刺受け設置
○ハンドアウト・リーフレット(展示解説)・POP設置
○プライスリスト設置
○アーティスト在廊
○ギャラリーツアー開催
○ギャラリートーク開催
○パーティー・レセプション開催
○スタッフ接客・作品購入対応
, etc…
■オンライン
○ウェブサイト掲載(展示風景)
○プレスリリース・メールマガジンでの情報配信
○SNSでの情報配信
, etc…
再構成(新しい展示様式)
そして、改めてオフラインとオンラインの要素に振り分け、一つ一つを見直していきました。当然オンラインに託す要素が多くなりましたが、例えばDM送付はそのまま残しつつ、新たに展示サイトのQRコードを掲載するなど、部分的に手を入れ直している部分もあります。
最も悩んだのは、様々なオンライン展覧会やイベントを観察していて、3Dや動画を導入するべきか?ということ。ただ、実際に色々と見てみたところ、3Dは空間を回遊するゲーム感覚が強く、展示作品の鑑賞という点では物足りず、空間の没入感もオフラインと比べて遠く及ばない。映像は、これまたしっかり作り込まないと、途中で飽きて見る気が失われがち、という理由で、まずはシンプルに、展示風景の掲載画像数を増やし、展示の開始早々にアップすることにしました。そして、閉廊日には無人展示や、アーティストのオンライン在廊を実施するという新たな試みも。
以下、◉印が変更した要素です。
■オフライン
○作品展示
◉DM送付(展示サイトのQRコード掲載)
○芳名帳・名刺受け設置
○プライスリスト設置
◉スタッフ接客・作品購入対応(キャッシュレス決済の導入推進)
◉閉廊日に無人展示の実施
, etc…
■オンライン
◉ウェブサイト掲載(展示風景の画像数を増やす)
○プレスリリース・メールマガジンでの情報配信
○SNSでの情報発信
◉noteで展示解説(ハンドアウト・リーフレットのオンライン化)
◉ECサイト開設(プライスリスト・POPのオンライン化)
◉アーティストのオンライン在廊
◉ギャラリーツアーのインスタライブでの開催
◉ギャラリートークのインスタライブでの開催
◉パーティー・レセプションのZoomでの開催
オフラインでの感染予防対策
そんな訳で、会期前や会期中に準備すべきことは総じて増えましたが、ただ、展示自体に興味を持って頂いても、どうしても距離的に脚を運ぶこと自体が難しい方にとって、オンライン上で展示の概要をほぼ掴めることは、純粋に良いことだなぁと思えました。さらに、わざわざ脚を運んで、実際の展示を見に来られる方のために、考えつく限りの感染症予防対策を取ることにしました。以下、その際のチェックリストです。ちなみに、小売店舗やギャラリーなどの一部で採用されている来店予約制は、折角、見に来たいと思われている方に、余計な手間とスケジュールの調整を課してしまうことになるので、一度、検討はしてみたものの、却下しました。
・基本編
□ 1, 少人数での来場のお願い
□ 2, 来場時のマスク着用のお願い
□ 3, 体調が優れない場合、来場自体を控えるお願い
□ 4, 会場内で体調が悪化した場合、スタッフへの申し出のお願い
□ 5, 会場が混雑した際、入場制限の実施
□ 6, 除菌用アルコールポンプの設置。手指の消毒の徹底
□ 7, 入場の際の検温の実施
□ 8, 会場内の換気
□ 9, ドアノブの消毒
□10, スタッフのマスクとフェイスシールドの着用
□11, 決済場所にアクリル板の設置
手がけていた展示の開催で、2月の半分程、シンガポールに滞在していたのですが、多くの施設や店舗、またレストランに入る際にも、5の手指の消毒と、6の検温が徹底されていて、その管理されている感に、却って安心を覚えたこと、また9のフェイスシールドは、自粛期間中に、新宿のヨドバシカメラ店頭でスタッフさんが着用している姿を見て、近未来的でカッコイイなぁと思い、空間にも相性が良いので、色々探してこのシールドを採用しました(日本でもここで買えます)。
・応用編
□12, イソジンのど飴の設置
□13, 希望するお客様へのフェイスシールドの貸し出し
□14, 会場内にソーシャルディスタンシング(2m)の表示
イソジンのど飴は、手指の消毒だけじゃなく、うがいする感も欲しいよね、とスタッフから声が上がり、採用(とは言え、買って食べて見たら普通にのど飴でしたが、ネーミングに消毒感があるので残しています)。フェイスシールドは店舗側のスタッフのみ着用している姿を、良く見かけるので、お客様でも被ってみたい方とかいないかな?と思い、貸し出しも行うことにしました。
2mの距離は、ちょうど入口にあるベンチがサイズぴったりだったので、そこにテープで表示。
ひとまずは色々と試行錯誤しながら、良かった部分は残し、改善すべき点はしっかり見直していくことで、自分たちなりの新しい展示様式を探っていければ、と思います。
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