ベトナムは中所得国の罠から抜けられるのか【GRIPSウェビナー:ベトナムの生産性向上と残された課題】

ベトナムの生産性動向と残された課題 
Xu hướng năng suất của Việt Nam và những thách thức (những vấn đề)còn tồn tại
中所得の罠を突破するのが困難な理由と解決法の提案
Lý do khó thoát khỏi bẫy thu nhập trung bình và đề xuất giải pháp

10月に、GRIPS(政策研究大学院大学)主催で、大野教授とTrần Văn Thọ名誉教授によるベトナムの生産性動向についてのウェビナーがあった。内容が面白くて、このウェビナーの話をベトナム人の経済学部の先生に共有したところ「ベトナムは、人口動態の『ゴールデンタイム』を逃した。もう高齢化が始まっている」と言っていて、経済発展が凄まじいこの国の、また新たな視点を見た気がした。確かに、と思ったのは、以前ユニクロがホーチミンに初出店するニュースにベトナムが沸いた時、少なくとも数名のベトナム人記者がこのニュースを「悲観」して捉えていた。なぜなら、ベトナムはいつまでたっても、グローバルサプライチェーンに乗れていない現状があって、日本、台湾、韓国、タイ、マレーシア、東アジアだけではなく東南アジアの隣国の渦に巻き込まれている印象も、多々ある。街に溢れる、隣国の料理やカフェ、衣料ブランド、化粧品、電化製品・・・日本のODAで完成した、インドやインドネシアのメトロ開通ニュースも。ブランディング力、それは、生産性向上にも繋がる、中長期的なマインドセットと覚悟が必要なもの。そうでなければ、いつまでたっても、この国は労働力輸出国、低位中所得国の罠から抜け出せないのかもしれない。

ベトナムに降り立った際に、「中所得国の罠」という言葉を聞いたが、よりこの言葉の意味するものや歴史、今後の課題について、このウェビナーからより深く学びきっかけを頂いた気がする。同時に、物流網が改善され、新幹線やメトロが開通していく光景があるのかもしれないそう遠くない未来は、メコンデルタにいて、何か「得るものと失うもの」を体験するような、少し複雑な気持ちにもなりながら。

このウェビナーの内容が面白かったのと、また先生も経済学ということでとても興味を持っていたので、引き続きこのウェビナーの内容をもとにベトナム語の勉強を進めていこうと思う。

大野健一GRIPS教授
・ベトナムは1986年ドイモイ改革 
・30年で、めざましい工業化と経済成長を遂げたが、原動力は外からのインパクト(貿易、投資、援助、海外送金)と公共投資(都市不動産やODA)だった

・生産性や競争力は、期待したほどの躍進はみられなかった。
・質的向上よりも量的拡大の効果が大きかった。

ベトナムの生産性レポート

経済省とJICAからも部分的な資金支援、ベトナム商工会(VCCI)や日本大使館の継続支援あり。

労働生産性:Năng suất lao động

ベトナム総計当局(GSO)
ベトナムの1991年~2015年の労働生産性の伸びは4.5%(東アジアでは中位程度)このままでは、低位中所得(1人当たり2540ドル、2019年)から高位中所得は難しい。

製造業の労働生産性停滞
ベトナムのような高成長の新興工業国では不可解な現象

教授の仮説
・外資部門の労働生産性低下と低迷
・製造業と外資では、所属企業にかなり重なりがある

→EDI構成が顕著にかわったから?設備や技術を要する鉱物・エネルギー採取
→韓国や台湾勢による輸出志向・労働集約型の大人数作業(衣料、靴、電子組立等)が激増
→国内価値創造への期待度・支援度は異なる

・外資側もベトナムを単純作業とする国として位置づけされているのか?

・ルイスモデルの転換点、ベトナムではいつなのか?

・ベトナム農工労働移動が加速しない理由は?
1. 農村にもすでに労働不足が発生している?
2.労働者に近代工業が要求する技能が欠けている?
3.労働移動を防げる何らかの障害がある?

画像1

・1990年代半ば、ベトナム人は優秀だと言われた、が、すでに高齢化が始まる。(→これは、まさにベトナム語の先生が恐れていること)

・この間、ミドルマネージャー、科学者、経営者、技術者などの高度な人材が充分育成されなかった
・職業訓練を受けないワーカーの比率が高まっている(製造業・建設で56→66%、サービスで31→56%(2007年→2013年))

・北部ベトナムでは、2015年前後に職業訓練短大への志願者が激減した。労働不足が進行する中で、進学して技術を学ぶより就職した方がすぐに給料がもらえる為。

・上流方向(原材料や部品)には、一定の参加上昇がみられるが、下流(販売・ブランドなど)は低迷。

・ベトナム:過剰投資 商業は投資よりもTFPの動向に左右される
・1%のGDP増を支えるためにどれだけの投資が必要かを示す。高いほど投資効果は悪い。

2015年:ILOがベトナムの生産性の低さを指摘
・JICAや日本生産性本部は長年VNPIに対して、多くの専門家派遣や協力案件を実施してきたが、目にみえる成果はまだ出ない

・多くの国々が日本の生産性ツールを学習・実践しているのに、国全体の政策導入はまだない

・日本の協力を得て、能動的に生産性を学び成功した例として、1980年代の
シンガポールを紹介

・1995年から、産業研究や知的支援を行ってきた(25年)
→韓国、台湾、シンガポール、香港の政府とは違い、ベトナム政府のやる気や能力の不足、および責任者の不在に阻まれ、各案件ともあまり成果が出ていない

・ベトナムで顕著な成果をあげたのは、服部大使が2003年に開始した『日越共同イニシアティブ』くらいか(企業にとっての個別障害のリストアップ、改善実施、モニタリング、評価)

Trần Văn Thọ 元早稲田大学名誉教授

・2008年頃ベトナムは低位中所得国の水準に達した
・ベトナム共産党・政府の目標:2030年に高位中所得、2045年に高所得国
日本の高度成長期(1955-1973)についての書物をベトナム語で準備中
生産性の向上が持続的発展の条件

【メモ】
そういえば、上記を読んでいて思い出したけれど、ベトナムでは航空便就航や年間イベントスケジュールの公表、開会式のニュースは至るところで見られ、目標の設定は年間を通して(今なら、2030年、2045年)文章に記載されているのだけれど、いざ航空便の就航が延びた場合や、停止された場合、日程や場所に変更された場合、年間目標が達成していなかった場合、なぜかもともと無かったことになっているケースが多かった・・・。上記にも、必ず2020年までの目標もあったはず。それはどこへ・・・?

・人口ボーナスはいつまで続くか→人口予測に基づく1つの見方は2045年まで

・日本の高度経済成長の経緯
明確な発展ビジョン、産業政策、インフラの整備、市場の整備、
民間企業の主導で積極的技術導入によるイノベーション。投資が投資をよび、市場を支える(零細企業でも銀行からお金が借りられた)
構造転換による生産性向上

労働輸出を卒業するべき
・繊維、衣類、電機だけではなく、食品の高付加価値などに注力を
・コロナ感染世界への食料供給など、食糧生産基地として有望
・雇用確保のため工業化と共に情報技術等のサービス産業の発展も必要
・米中摩擦、コロナリスクなどで中国からの生産工業のシフトというFDIの新しい波がベトナムにとって好機

【メモ】マネジメントに関して、カントーの各旅行会社の人材育成(人数や年齢構成なども)に関してアンケート調査が必要かもしれない

・ダナン市の観光業についての質問
・外資との連携も含めた開発議論

・ベトナム人からの質問:ベトナムにはODAの出資は必要か?円借款が多く入っているがゆえ案件が進まないのではないか?
ト教授:ODA卒業を主張(あと5年内に)(韓国は20年以内に卒業)

ト教授「国内予算の投資は浪費して、海外資源に依存するのはおかしい。そしていづれ卒業する必要性があると主張。」

・・・などなど、とにかく様々な方向からこの国を見る面白い視点と、自分の経験も含めて、この労働生産性をテーマに、ベトナム語で議論を進めたい。改めて、経済学の先生で良かった。

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