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プリキュアになれると思っていた

この路線の電車に乗る時は決まってコッチ側の窓が見えるように座る。真っ白で厚みのある雲と眩しい青色。夏の空。
今日の景色にピッタリな曲を見つけた。


良いと思う景色ほど写真を撮ることが難しい。
「いいなあ」と感じたらしばらくそのまま景色に溶けていたいけれど、溶けているうちに遠ざかってしまうし、写真として写したものと、この目に映っていたものの「違う」に落胆してしまうことが多い。私に写真の技術が無いことも要因か。それに電車内で向かいの窓に向かってカメラを構えるにはなかなかに度胸がいる。

何者かになろうとするほど、なりたかったものの輪郭が鮮明になる。

プリキュアになれると思っていた。

カメラの前で歌い、踊り、全身で音楽を魅せるアイドルに、自分たちの音楽を創り、発信し、アツいMCをするバンドマンに、なりたかった。

どこかでずっと私は、表現をする側の人間になると思っていた。

でも実際、今の私は顔も名前も描かれないモブキャラになっている。表現をすることに想いを馳せながら受け手であり続けることしかできないのだろうという予感に背中を思い切り蹴られる。


高校時代の先輩がバンド活動をしている。最近はドラムが脱退したらしい。
先輩はいつか大きなハコを埋めるのだろうか。


ひとつ、ひとつ、ぽつり、ぽつりの「いいね」にしがみついて、自分の輪郭を保とうとしている。

小説が書けるわけではない。
歌詞を綴れるわけではない。
ただ、感じたこと思ったことを、忘れないように消えてしまわないように書き留めることしかできない。

認められたい。
何者かでありたい。


ビニール袋が風にふかれて舞っていた。
ワンピースを着て、赤いパンプスを履いて、思うままにクルクルとまわってはねているようだった。
美しかった。

美しいものを美しいと思える気持ちは捨てないでいたい。
私の美しいは誰かにとっては醜いかも、気にも止められないかもしれないけれど、私が美しいと思うことできっとまだ死なずにいられるものがある。
なんて、何も持っていない私に何かを付与されたところで何も変わらないか。



広く深い夏の空の前では何もかもが無力だ。

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