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都合のいい女


新しい靴を買った次の日、雨が降ると恋が叶う。

小学生の頃に知ったジンクスだ。

あの頃、魔法的で不思議でちょっとドキドキするおまじないやジンクスにすごく興味があった。
親には知られたくなかったから、おやつ代のお小遣いを貯めて、こっそり本屋でまじない&ジンクスの本を買い、机の奥の方に閉まって保存していた。そして家族が寝静まった夜、コソコソと本を取り出してページをめくったのだった。
まるで真夜中のカプセルに閉じこもっているみたいな感覚。部屋のカーテンを開けると、その日の形をした月が私を優しく見下ろしてくれる。それは、自分だけの秘密の時間だった。
だからこそ意味があったのだと思う。


おまじないでは大抵の場合、持ってない道具を使うものは断念していた。でも、手に入れるのが難しいほど効果があるように思われたし、その分たまたま持っていた道具でしっかりおまじないを出来た時は、本当に叶う予感で心躍らせていた。

結果としては、いつも微妙な位置で叶っていた。
明日、好きな人と話ができる。
そう思った次の日、本当に好きな人と話ができた。ただし、ちょっとした挨拶だけだけど。
月に願えば、美人になれる。
そうしたらだんだん自分が綺麗になっていく気がした。ただし、思い込んでいるだけの可能性が大いにあったけど。
これで、彼からメールが来る。
そう思ったら1ヶ月後くらいに本当にメールが来た。ただし、その相手とは前からメールをしていたのだけど。

ジンクスはもっと簡単だ。見つけてしまえばいいのだから。

髪の毛が一本勝手に結ばれてると、誰かに思われている。
五つ葉のクローバーを持っていると失恋する。
千円札を逆さまに財布にいれていると、お金が貯まりやすくなる。
実際にはクラスの誰かはいつも私のことを好きだったし、五つ葉は誰も持ってなかったし、お金はお年玉を使わなかったら結果的に5千円くらい貯まった。


おまじないやジンクスは、いつもちょっとだけ信憑性があって、ちょっとだけ私を裏切った。解釈によって叶ったようにも叶ってないようにも思えた。でも、その距離感だからこそ、私は虜になれたのかもしれない。なによりも、夜の秘密の時間が一番大切だったから。


さて、21歳になった私は昨日、新しい靴を買った。
きっかけは、暖かくなってきたので冬の間愛用していたブーツが鬱陶しくなり、そろそろ足元を涼しくしたいと思ったのだ。

普段使いできる、暗色でまあまあお洒落な靴。

近所のデパートを1時間ほど歩き回って、ようやく気に入ったものを見つけることができた。

お店の人に靴を包んでもらっていると、唐突にあのジンクスが頭に浮かんできた。

新しい靴を買った次の日、雨が降ると恋が叶う。

なんとなく気になってスマホを開き、天気予報を調べてみる。 明日の日付の欄には、雨の天気を示す傘マーク。どうやら私の恋は叶うらしい。


今朝、目が覚めて部屋のカーテンを開けると、気持ちのいい晴天が広がっていた。暖かくて爽やかで、思わず深呼吸をしようとする。
あれ、そういえば、今日は雨のはずじゃなかったっけ。
深呼吸をするのをやめて、すかさずスマホを開くと、昨日の傘マークは何処かに行ってしまって、代わりに晴れの天気を示す太陽のマークがあった。


まあいいのだ。
私の恋はすでに叶っているのだから。


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