1.一冊の本



ある町に、トウヤという少年は住んでいました。

トウヤの住む世界では、子どもたちも働きます。
トウヤの仕事は清掃と靴磨きです。

毎日仕事をし、終わったら家に帰って食事をします。食事はひとりですることがおおいです。
両親も毎日遅くまで仕事をしているからです。

この日も仕事を終え、家に帰り簡単な料理をつくって勢いよく食べた後、皿洗いをし自分の部屋に行きました。

そこからはトウヤの至福の時間です。

トウヤには憧れているものがありました。
それは、世界を旅することでした。

世界のいろんな景色、生き物、そこでの出来事が記された旅行記を古本屋から見つけてから、毎日ページをめくり、思いを馳せていました。

森に住むドラゴン

妖精の歌が聞こえるという湖

渡れる虹

本当にそんな場所あるのか、本当にいるのか、そういった思いで読みながら想像するたびに、トウヤの心はワクワクし、いつか自分も町を出て、実際にこの目でいろんなものをみてみたいと思っていました。

しかし、決してそのことは両親には言いませんでした。

この世界ではやりたいことや夢を口にするだけで、なぜか大人は恐れた顔を見せるのです。

それは、本の伝説があるからでした。

一度トウヤが初めて旅行記を見つけて来た時に思わずそのことを母親に話すと、

母は驚き不安そうな顔で、トウヤを見つめたのでした。

その時にトウヤは

こういう話はしてはいけないんだなと感じたのです。

旅行記をとじると、トウヤはベッドに横になりました。

トウヤは、伝説の本にも強く惹かれていました。

伝説がほんとなら、なんでも叶えられる。そしたら冒険に好きなだけ行けるし、仕事をしなくても生きていけるかもしれない。旅だけできたら、なんて最高なんだ。

トウヤは反対されるとわかっていても、その本のことが忘れられずにいるのでした。

両親は、トウヤが夕食も終える頃に帰って来ます。
ですが、2人とも疲れていることが多く、家の中でほとんど会話はありません。

トウヤの用意した夕食を食べ、寝る支度を済ませるとさっさと寝てしまいます。
唯一寝る前にだけは2人ともトウヤの頭を撫でたり、頬にキスをし

「おやすみなさい。」

と告げます。

「おやすみなさい。」

トウヤも挨拶を返しますが、本当は今日あった話を聞いてほしいし、絵本の読み聞かせをしてほしい。家族3人であたたかい飲み物を飲みながら、ゆっくり話がしたいと思っていました。

しかし、両親2人が毎日遅くまで働いていて疲れていること、その中でもトウヤのことは2人とも大事に思っていることがわかっていたトウヤは、なにも言わずにいるのでした。


そうしてトウヤはこの日も、ひとりぼっちの夜を迎えるのでした。

トウヤは夢を見ました。
先の見えない広い森の中にいました。鳥のさえずりが聴こえ、陽の光が優しく森に降り注いでいました。

森の中には一本の道が迷いなく伸びていました。トウヤはゆっくりとその道を進んで行きました。

森の中ほどまで行った時、トウヤには聴こえました。
誰かが歌っているのです。
声のする方に進むと、森が開け円形の広場に出ました。
そしてその中央に石でできた祠が一つ立っていました。
石には苔が生えていて、そこだけ時間の流れを感じました。

歌声はまだ響いています。それは森中から響き渡っていました。
そしてトウヤは祠の中に見つけたのです。石の台の上に、古びた本が1冊置かれていました。一目見て、トウヤにはそれがあの伝説の本だとわかりました。

歌声は止みません。どんどん、強くなっているようにも聴こえます。
トウヤの心臓も強くドキドキ鳴っていました。
そして、トウヤはゆっくりと本に手を伸ばしました。触れるか触れないかのところまで来たので、思い切って手を伸ばしました。

しかし、本は目の前にあるのに触ることができません。まるでそこだけ透明な映像が流れているかのように透けてしまいます。

何度も、何度も挑戦しましたがだめです。

そして両手で本をつかもうとした瞬間、はっと目が覚めたのでした。



✳︎ひとこと✳︎

最後まで読んでくださりありがとうございました💐

この物語は夢を語ること、叶えることを忘れてしまったある世界での
トウヤという少年と一冊の本の物語です。

今後も夢や家族、子どもの様々な想いなど
よりリアルに、共感できるものになれるよう書き記していきたいと思います。


次回も楽しみにしていてください😊

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