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投資って何ですか、吉田喜貴さん (後編) #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版

上記のポッドキャストのテキスト版です。rennyさんの最後のまとめが、私にとっては大発見でした。

もしかしたら吉田さんにとって投資とは何ですか?と掘り下げると、読書が出てくるかもしれない。

また「投資先をどのように探していますか?」のQ&Aのところで、少し照れがあって話せなかった話と、もっと面白い投資事例があったのに話し忘れた!という部分を補足しています。


renny:前編では「投資ってどういうことなんでしょうか?」「どういう大きな投資をしましたか?」「どういう投資が嬉しかったか?」というような話をしてきました。後編の最初の質問は「投資での成功と失敗」。先に失敗から行くのもどうかと思いますが、吉田さんにとって失敗した投資はどんなものがありましたか?


失敗した投資はどんなものですか?

吉田:失敗したなぁと思うのは、本当に最初の頃ですね。2000年の春に投資を始めて日経マネーの目標株価を信じて、ITバブルの高値で掴んじゃったのが一番の失敗です。

renny:前編で「投資を楽しむ」という考え方のお話をされたと思うんですが、その失敗の定義は、楽しむ余地がなかったと言うか、金銭的にうまくいかなかったのもあるし、学びを得るものも何もなかったっていうこともあるのか、そこらへんはいかがですか?

吉田:得るものもなかったですね。得たものと言えば、その手の情報を信じちゃいけないっていう教訓でしょうか。

renny:なるほど。でも最初はまだ誰しも起こり得るし、ただそれで投資なんて金輪際やらないぞと思う方もいらっしゃるじゃないですか。でも吉田さんは失敗だって思われて、その後長い間、投資を続けられるわけですけれども、その失敗が糧になっていたから、次はうまいことやろうとか、ある種の資産になってた、ってことなんですか?

吉田:その頃は大学4年生で、今では信じられないぐらい真面目な人間だったんですよ。失敗したのは勉強が足りなかったんだ!っていう考え方をして。ちゃんと学ばずに雑誌を鵜呑みにして投資したからいけなかったんだと捉えて。その後めちゃくちゃ勉強するようになり、これまで本もほとんど読んだことなかったのに、読むようになったり。

renny:吉田さんのブログを拝見していると、すごくたくさん本をお読みになっていますが、投資をやったからこそ、本を読むようになったということですか?

吉田:そうですね。それまでは推理小説以外は読んだことがなくて。

renny:投資がそこまで変えたっていうことですかね。

吉田:はい。いろいろ読んでいくうちに、経済関係の本も面白いことに気が付いて、そこから歴史にも手を広げ、なぜか物理学や脳科学まで気になりはじめて…

renny:ブログを拝見してると、あの本をどうやって探してこられるのかな、そんな本聞いたことないな、っていうような本をよく読まれてる印象ですけど、あれは本屋で店頭に並んでいる話題の新刊とかっていうところにある本ではないですよね?

吉田:そうですね。本屋の平積みで売られている本は読まない方がいい。

renny:なるほど。その辺もちょっと投資家気質が出てる感じですね。ブログで紹介されてる本なんかは、実際どうやって巡り合われるんですか?

吉田:どうやってるのかな。いやぁ、自分でもよくわかんないんです。

renny:たとえばAmazonとかのレコメンドっていうわけでもないんですよね。

吉田:あれも当てにならないですね。同じジャンルの本ばっかり読むことになってしまうから。

renny:投資の本だってそうですけど、ジャンルが違う本でも、本屋さんに行くと、すごい数の本が並んでるじゃないですか。その中でこの本っていうふうに選ばれる本が、平積みは選ばないとおっしゃってると、一体どうやって選ぶんだろうと。

吉田:うーん、どうやって選んでるんでしょうね。本の中で引用されているのがきっかけになるパターンは結構あるんですよ。

※補足…関連しそうな話では、10年以上前にとある読書会に呼ばれて、どうやって読書の幅を広げていくかお話ししたときのこんな資料があります。https://pixy10.org/121201.pdf

renny:なるほどね。投資とちょっと離れちゃったので元に戻しまして、投資の成功について。成功の定義もいろいろあると思いますが、何かこれで成功したという事例はどんなのがありますか?

成功した投資はどんなものですか?

吉田:投資そのものでこれといったものはないです。でも投資を始めたから、人生が成功したみたいな話はたくさんあります。最初にITバブルで失敗して勉強しなかったからだと、なぜか税理士試験まで受けちゃって、それで無職から税理士事務所で仕事をするようになったのはある意味成功だし。以前のポッドキャストで非公開企業の株価を争った裁判の話をしましたが、ああいう発想になるには、やっぱり株式投資してないと、企業価値にいろんな計算方法があるなんて考えもしなかった。あとは前編の株式投資の一番リターンの話ですが、鎌倉投信がきっかけで結婚するみたいなのも、投資関連の成功。何かお金で成功したっていうイメージがあんまりないですね。

renny:吉田さんのこれまでの人生の中で、鍵になるようなことが、きっかけは何だったのかたどると、投資だったというようなことが結構多かったってことですよね。

吉田:そうですね。

renny:誰しもがそういうふうになるとは限らないとは思うんですけれども、ただ違った形で、たとえば吉田さんのケースだと奥様と知り合われたとか、キャリアに繋がったとかっていうのはあると思うんですが、自分の今いる世界から見えてるものと違うところに目線を向けたり、実際そこに足を踏み入れたりすることで、それまで知らなかったところに行くきっかけをもらえるってとこがあるんでしょうね。

吉田:うん。あとこれは大事なところですが、積立投資をしてほったらかしてればいい、という投資法ではこういう成功は絶対に得られない。

renny:だからそういうのはもはや投資とは言えないかもしれないですよね。お金がどういうふうに使われているのかに目を向けていないと、当然、違うところ目線が行くなんてことはないですよね。資産が増えた以外のものを得ようと思うと、ほったらかしではちょっと無理かもしれないですね。

吉田:そうですね。

投資判断の過程で大事にしている基準、譲れない基準はありますか?

renny:投資の成功や失敗、思い出深い投資についてお聞きしてきましたが、吉田さんが投資の際に、これは大事にしているとか、これは譲れない、というような基準みたいなものをお聞かせいただけますか?

吉田:あまりお金を追いかけないことですかね。いつ頃からそう言ったり、書いたりしているのか思い出せないんですが「投資リターンは人生のオマケ」っていうのが家訓みたいになっていて。金銭的なリターンを追い求めるよりも、投資を通じて得られる知的好奇心を追っかけていると、楽しいし、結局お金もついてくるみたいなところがあるので。実際に投資判断のときに使っているか、というのとまた違う話になっちゃいますが。

renny:でも吉田さんの場合は、知的好奇心をリトマス試験紙というか、そういうのを常に活発である状態にしておいて、そこでビビッと来るか来ないかっていうのが投資の基準なんじゃないかなと思ったりしたんですけど。

吉田:そんな感じかもしれないですね。

renny:だからこそ、僕らではその本どこから選んでいったんですか?みたいな本をお読みになって、知的好奇心がいつも何か沸いてくるというか、すごくアクティブで、その知的好奇心がアンテナになって、投資機会を吸い寄せるというか磁石みたいなものがあるんじゃないかなと思います。

吉田:なるほど。自分じゃわからなかったです。

renny:やっぱり普段お読みになってる本で、こういう投資が面白いんじゃないか、この分野にどんな会社があるんだろう、とかそういうきっかけみたいなことが出てくるんじゃないかなと思うんですけどいかがですか。

吉田:直近で今月から調べ始めた会社に、デクセリアルズっていう会社があるんですけど。元々は今年の初めにうちの母が人間ドックで健康診断を受けて、最近、骨量が減ってきたと診断されたらしくて、それで再生医療で骨を強くするみたいな話ってないのかな、と思って、本を読んだりして調べていたんです。その頃たまたまテレビでオルソリバースという会社の社長が出てきたんですね。綿状のものを患部にくっつけておくと骨が再生するっていう再生医療の会社で。なんだこの会社は?と調べ始めると、この会社は非上場でしたが、ここと業務提携していて、株式の15%ぐらいを持っているのがデクセリアルズだったんです。

renny:デクセリアルズってそんなことやってたんですか。たしかソニーの関連会社でそれがMBOか何かで非上場化した会社だと記憶していて、どちらかというと半導体関連の会社という捉え方をしてました。

吉田:電子部品の会社なんだけど、たぶん将来のための選択肢をいろいろ持つために、そういうところと組んでるんだな、面白そうだなと思って、今調べ始めたところなんです。

renny:なるほど。お母さんの人間ドックからそういうふうな展開を見せるわけですね。

吉田:日常の中でこれ面白いなっていうものの中から投資先を見つけてくるんです。

renny:事前にデクセリアルズの名前はあげていただいて、何がきっかけなんだろうと思ってたんですが、まさか再生医療とは思わなかったので意外です。だから投資をするかどうかの基準は、知的好奇心を刺激してくれるか、投資がきっかけで何か新しいものに出会えないか、みたいなところなのだと思います。さっきのマネー誌で失敗された話からすると、投資を始めた当初から、こういう基準をお持ちでもなかったと思います。基準の変遷みたいなものが、三つか四つぐらいに時代が分かれていたりするものでしょうか?

その基準は時間とともに変化していますか?

吉田:やっぱり最初の頃はお金が欲しいっていうのがメインだったんですけど、なんでか分かんないですけど、30歳前後そういうのが急になくなるんですよね。

renny:それは順調にパフォーマンスというか、資産額が順調に増えたからですか?

吉田:もちろんそれもあるでしょうね。ある程度の資産規模になってくると、他のところに目が向くようになって。私が30歳の頃ってリーマン・ショックの直前ぐらいで、あの頃、サブプライムローンってやつがなんか怪しいぞ、ということで、ドルに流れていた資金がなぜか商品市場に流れていって、商品先物取引が流行りはじめたんです。穀物価格も高騰したので、この影響でご飯が食べられなくなって死んじゃう人も出てきたりするんじゃないか?と思ったときに、投資の仕方によっては、自分のお金が誰かの命を奪うこともあるのだと気付かされて。だから、お金ばかり追いかけてるのはどうなのか?とか、自分が分散したリスクは結局社会全体にリスクをバラまいてるんじゃないか?とかっていろいろ考えるようになって、単なるお金儲けのための投資を離れて、少しずつ視野が広がっていったんです。

renny:なるほどね。確かに僕らが投資信託や株式を新しく買う行為は、たとえば例えば大手の会社が新規事業をやるために、どこか別の会社を買収するっていうことと行動自体は一緒じゃないですか。買収することは、その事業を自分の中に取り込むことだと思うんですよね。結局、僕らの投資も同じなんだから、だから投資しているファンドにいろいろな会社が入っている場合でも、その先に会社が自分の一部になっている面があると思うんですよね。やっぱり自分の一部である以上は、どういう事業をやっていて、どういう人たちの役に立とうとしているのかを知る責任みたいなのってあるんじゃないかな。全世界を見た場合に投資できる人はすごく恵まれた環境にいる人である以上、何かそこに責任みたいなものがあるんじゃないか。僕もそういうことを数年前にふと思ってですね。もう少し自分が持っている資産の中身、そこに関連する会社とか事業をできるだけ理解しようと務め、最低限会社の名前ぐらいは知っておきたいなと思うようになりましたね。だから前編でお話した金融教育の文脈でいくと、騙されないようにすることも大事ですが、ここだったら安全という橋だけを渡るのではなく、リスクが取れるような状態にある人は、もうちょっとそういうことを考えてもいいんじゃないかと思ったりします。

投資家としての目標は何ですか?

renny:次の質問は吉田さんの周囲の方から寄せられた質問で「投資家としての目標は何ですか?」ということで、難しい質問だと思うんですけれども。

吉田:投資を始めた頃はバフェットさんみたいになって、最後はサッカークラブを買収しようと思っていました。そんなレベルにはなれずに挫折しましたが。でも最近メルカリが鹿島アントラーズを買収したときの金額が意外と安くて十何億円程度でしたよね。日本のクラブはそんなに安かったのか、もっと頑張ればよかったなぁと思ってみたり。

renny:あれは株式価値が17億円で経営権取った後は、その後のなんやかんやが大変だから、十数億では済まないビジネスだと思うんですよ。そういう昔は目標をお持ちになってたのが、今はどんな感じなんですか。

吉田:もう今は生涯学習みたいな感じで。わかりそうでわからないものを追い続けるっていうのがもう楽しくてしょうがない、という目標なのか何なのかよく分からないですね。

renny:わかりそうでわからないものは例えばどんなものですか?

吉田:本当の企業価値はいくらか?みたいなものは、その最たるもので、計算できそうで全然計算できないみたいなところがあったりするし。

renny:なるほどな。そうですね、企業価値は一つに市場が決めてくれますが、価値は人それぞれだと思いますし、天気次第で変わるっていうものではないと思いますけど、でも今の地球温暖化というような地球環境の変化まで考えると、企業価値評価に影響してきそうですよね。

吉田:長い目で見れば見るほど関係してくるものが多くなって難しいです。

renny:だから将来のキャッシュフローをどれぐらいの率で割り引くかもすごく難しいというか、長期で予想するのがすごく難しい世の中になってるのかなと思います。まさか回転寿司であんなことをする人が出てくるなんて、予想もしないですからね。一寸先は闇というか、あれで株価は一時的に下がるかもしれないですが、あれで企業価値が毀損されたかというとまだ分からないですし、将来次第なのかなという気もしますしね。僕の投資家としての目標は最近すごく簡単になってきていて、死ぬまで投資家やりたいなっていうのが目標。あともう一つは目標というか希望ですが、もちろん僕が天寿を全うできれば一番いいですが、何かの形でいなくなったときに、今僕が持ってる資産を、奥さんと2人の子供が引き継いでお金に変えてしまわずに、そのまま相続してくれたらなというのが、それが投資家としての目標というか希望なんですよね。それで彼らが相続財産を種銭にまた投資をして、いつかサッカークラブを買うとか…、そういうふうなことを何か残せたらなということは、希望というか目標として持ちたいなと思っています。

投資先はどのように探していますか?

renny:最後の質問は「投資先はどのように探していますか?」で、さっき少しデクセリアルズのお話が出たんですけど、他にはどんな例がありますか?

吉田:よく日経新聞を読むとか、ネット証券のスクリーニング機能を使うだとか、という話をする人が多いですが、私は一切やりません。好奇心からたどって出会ったものが投資対象になる感じです。実際に投資した会社だとノエビアという化粧品会社。これは妻がきっかけで。昔から化粧品業界に投資はしてたんですね。言い方は悪いですけど、原料は水みたいなものだから、利益率が高くてこれは儲けもんだなと。でも多くの化粧品会社はブランドを維持するために多額の広告費をかけていますが、ノアビアはほとんど広告もせず、年によっては化粧品事業で世界一利益率が高かったりするんですよ。

補足:ちょっと恥ずかしくて収録では話せなかったノエビアに興味を持ったきっかけ。結婚して間もない頃、妻がノエビアのサロンでパーソナルカラー診断を受け、化粧をしてもらって帰ってきたら、あまりにキレイになってビックリ! その感動がきっかけでノエビアを調べはじめたのでした。はじめは利益率に着目した化粧品業界でしたが、とくに結婚後にその社会的意義を実感させられました。

renny:そういえば資生堂にも投資されていましたよね。

吉田:資生堂の株価がかなり上がって、ちょっと割高かな?と思い始めていたので、一部売却してノエビアに乗り換えていったんです。

renny:デクセリアルズやノエビアの例を挙げていただきましたが、他の投資先でもう売却されたものも含めて、よくこんなのを見つけ出したなんて自分でも後から思うと不思議だったなという事例はありますか?

吉田:意外とテレビ番組のテレ東のカンブリア宮殿を見て投資してうまくいったケースは多いです。

renny:そこは結構ベタですね。

吉田:昔投資したのはアリアケジャパンという会社で、番組を見てこんな会社あるんだ!と気が付いて、それがきっかけで投資して3,4倍になったのかな。

renny:スープ関係の会社でよね。カンブリア宮殿で見て、決められたっていうことなんですか。

吉田:それまで全然知らなかった会社なので。「食」に関心があるから、食いついたのかもしれない。

renny:なるほどな。でもそれもたまたま吉田さんご本人の興味や関心といった琴線に触れた、大きかったんじゃないですか。

吉田:そうですね。積極的に探しに行くっていう感じじゃなくて、待っているというか。

renny:さっきのお話あった、知的好奇心を常にたくましくしておけば、向こうから寄ってくるかもしれないって感じじゃないですかね。

吉田:そういうところありますね。(補足;もっとおもしろい事例を話すのを忘れていました。アニメを観てインテルからNVIDIAに乗り換えました。詳しくは↓)

最後に。吉田さんにとって「投資とは?」

renny:いやあ、そういう投資ってあるんですね。僕は投資信託の月次レポートをずっと漁ってる感じで、投資って何ですかって質問はたぶん答えがないと思うんですが、そういうことを積み重ねていって、何か面白いことに出会うとか、面白い人と出会うとか、そういうことが投資の醍醐味なのかなと最近すごく思います。吉田さんもこれからもすごく面白い投資機会を見つけられるんじゃないかな、と感じましたけど、今日全体通じて吉田さんはどんな感想をお持ちになりましたか。

吉田:うーん、うまく話せたかな。

renny:いやでも本のお話が印象的で、幅広い分野の本を読むことで、好奇心が新しい発見や新しい投資機会を吸い寄せてくるのかな、と思いましたよ。

吉田:やっぱり思いもよらない知識を得るには、本を読むのが一番良いのかなって思います。

renny:僕もいつも同じような本を読んでいていけないな、とは思ってはいますが、とは言っても積んでいる本があるので。

吉田:図書館を活用するといいですよ。今の図書館は予約しておくと、カウンターに本を用意しておいてくれるんで、それを日々取りにいって返して、年間300冊は借りてきて、真面目に読むのは100冊みたいな感じですね。

renny:なるほど。だから、もしかしたら吉田さんにとって投資とは何ですか?と掘り下げると、読書が出てくるかもしれない。

吉田:あー、そうかも!

renny:今日はこういう締め方でいいかなって思いました。


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