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投資って何ですか、吉田喜貴さん (前編) #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版

このポットキャストのテキスト版です。


renny:1月のポッドキャストの最後の方でお話ししましたが、今年度の抱負として、初心者の方に月次レポートの読み方等々、何がわからないか教えてください、という呼びかけをしました。それと並行して、今、新NISAをきっかけに投資が少し注目されつつあるのかなということもあって、改めて「投資って何だろう?」「投資ってどういうことですか?」ということをインタビューしていくようなアイディアを思いつきました。今日はこの場を借りて、「投資って何ですか?」という企画のブレーンストーミングみたいなものを吉田さんとやってみたいと思います。

なぜ「投資」教育ではなく、「金融」教育なのか

renny:最初のお題です。2022年度から高校の家庭科の授業で金融経済教育というカリキュラムが組み込まれました。ふと思ったのですが、なぜ「投資」教育じゃなくて「金融」教育なのかなと。投資教育と金融教育っていう言葉を聞いていると、個人的にはイメージするものが少し違ってきますが、吉田さんはどう思われますか?

吉田:なんとなく大きい丸が金融で、その中の一部に投資があるのかな。金融っていうと保険とかも入っているイメージですね。

renny:なるほど。ライフプランや家計を考える上での選択肢として、資産形成もあれば保険もあって、まさかのことに備える、というイメージですかね?

吉田:たしかファイナンシャル・プランナーの試験でも、保険で1科目あったんじゃないかな。投資で1科目、保険で1科目、相続関係で1個とかだったから、家のお金のやりくりのすべてを学びましょう、ということなのかな。(※補足:FP試験は全部で6科目…金融資産運用、不動産、ライフプランニングと資金計画、リスク管理、タックスプランニング、相続・事業承継)

renny:なるほど。ファイナンシャル・プランナーみたいな捉え方をすると、金融教育の方がフィットするのかもしれないってことですかね。個人的には金融というと、お金のあるところからお金の足りないところへ融通してそれをぐるぐる回して価値を作るとかいうか新しいものを作るのが金融のイメージとしてあります。だから金融という言葉にはどこか客観的で主体性がないように感じるんです。一方、投資というと自分で決める、自分の意志みたいなものがあると思うんです。でも金融教育と言われると、世の中こうですよということを学ぶ感じで、何か自分で決めるというニュアンスがちょっと少ないような気がするんです。偏見ですかね?

吉田:日本に限って言うと、金融というとそうなっちゃうのかな。金融はなんとなく銀行のイメージが強いから。

renny:金融というと銀行が最初に思い浮んで、証券は出てこないですよね。30年ぐらい前の就職活動の感覚でいくと、金融業界を志望というときに、証券が入ってたかというと怪しい。

吉田:なんとなく銀行のイメージが強いから、そこから抜け出して、株式投資とかっていう雰囲気を入れたいなら、金融という言葉を使わない方がいいのかもしれないですね。

renny:金融教育のカリキュラムをすべて把握してるわけじゃないですが、さっき吉田さんがおっしゃったみたいに保険や相続とか、家計の目線でどういうふうにうまく行動するか、というところに主眼が置かれてるとしたら、どうしても受身…受身とまでは言わないですけれども、リスクがあるようなことに取り組もう、という方向に興味が向かわないんじゃないかなと。

吉田:騙されないための最低限の知識みたいな。

renny:そうですよね。もちろんそういう知識もすごく大事だと思います。先日とあるイベントでUSJを再建した森岡毅さんの講演を聞いたんですが、日本がこの何十年か停滞していた理由の一つは、リスクを取るべき人がリスクをとってなかったから停滞を招いたんだ、という指摘をされていて、なるほどなと。リスクを取るってどういうことなのかといえば、それまさに投資にも繋がるようなことだと思います。投資ってどういうことなんだっけ?という話は人それぞれだと思うんですが、僕は大学を卒業するまでにそれを考える機会がなかったなぁと。経済系・商学系の学部だったら、そういう機会があったのかもしれないですけれど、残念ながら大学を卒業するまで投資を学ぶ機会はなかったように思うんです。もちろん家計管理や騙されない知識をつけることも大事だとは思うんですが、高校生は失敗できる時間というか、時間というすごい資本、資源を持ってる人には、リスクってこうやって取るんだよ、ということを学ぶ機会があってもいいと思うんです。

吉田:なるほど。何か別の科目になりそうですね。

renny:でもさっきの森岡さんの話から考えると、やっぱりNISAの枠を増やしたところで何も変わらないというか、大きな変化にならないんじゃないかな、と思ったりするんですよ。

吉田:NISAの枠を増やすだけじゃ、販売会社の力が強くなったりして、あまり良くないことになりそうな気が。。。

renny:地獄絵図とまでは言わないですけど、ちょっと気持ち悪いというか何か想定外のことが起こるような。例えば3年たってみたらこんなはずじゃなかった…となる可能性っていうのはありますよね。

吉田:そうですね、なんかなんとなく嫌な感じがある。

そもそも投資とは?

renny:なにか魂がないというか。これは何らかの副作用が出てくるんじゃないかなと思っています。投資教育というお話をしましたが、投資ってそもそもどういう行動というか、どんなことですか?と問いかけられたら、吉田さんはどんなふうにお答えになりますか?

吉田:わからないなぁ。わからないから漢字の成り立ちから納得してるようなところがあって。白川静という学者が作った漢字一字一字の意味を解説している辞典を読むと、投資の「投」という漢字は、左側は「手」を表していて、右側(殳)は飾りのついた杖を意味している。その杖を手に取って悪霊を祓うというのが「投」の成り立ち。投資の「資」の方は、上は「次」で下は「貝」。中国の古代王朝の殷・周は内陸部にあったから、海岸で採れる貝はお宝だったんです。だから「資」は次なるお宝というイメージです。

renny:どちらかというと今とか過去のものじゃなくて、将来とか未来とかっていうイメージになるんですかね。

吉田:そうですね。文字の成り立ちから判断した投資の意味合いは、悪いものを祓って、将来のお宝を手にする行為っていうような感じになります。

renny:なるほど。悪を打ち祓った上で、次なる宝物を手に入れるもの。

吉田:投資は大体、欲が出ると失敗するので、自分の中にあるそういうものを追い出すイメージです。

renny:なるほど。祓う悪は、内なる悪、欲ですか。

吉田:でも投資の心づもりみたいな話で、投資って何だろう?という説明にはなっていないですね。

renny:投資って何だろうと考えたとき、「資」が次の宝物とご説明していただきましたが、次の宝物になるようなものを差し出す(投げる)という考え方もできるのかな。だから今の大事なものを差し出して、代わりに次の宝物になりそうなものを手に入れるみたいな。だから「資」は必ずしもお金に限らず時間やスキルとか、あとは勘違いにも似た思い込みとか、そういう中で生まれ、いわゆる情熱、やる気、関心を、どこかにボンと振り向けるという感じで。企業会計でいうとバランスシートの右から左に、つまり資本を元手にして資産を手に入れるみたいなのが、投資なんじゃないかな。そういう意味でお金に限らないのかなと。だから、投資って何ですか?と聞くと、人それぞれいろんな話が出てくると思いますが、吉田さんのさっきの内なる悪を祓うとかいうのも、何かどこか自分で決めるというか、主体性がないと成り立たないものかなと思います。アドバイスを参考にするもの大切ですが、最後に決めるのは自分だ、みたいなところが、投資にはあるのかなと思いますがいかがですか?

吉田:そうですね。だいたい人の話を聞くと失敗します。一つの意見を信じ込んじゃって、そのまま行くのは絶対失敗するパターンです。

これまでで一番大きな投資って何ですか?

renny:そうですよね。そういう自分で決めることが大事、投資ってどういうことなのか?という流れの中で、この収録前にいくつかの質問を用意して、吉田さんとやり取りしていたのですが、そのなかで吉田さんがピンと来なかったという質問に「これまでで一番大きな投資って何ですか?」というのがありましたが、どのあたりがピンとこなかったのですか?

吉田:株式投資の話だと捉えると、自分にとって大きいと感じた投資は、やっぱりその時に持っていた資産の額に対する割合なのか、金額の大きさなのか考えていたら、よく分からなくなっちゃって。

renny:なるほど。さっき思い込みとか関心のようなのも資本じゃないか、と話をしましたが、そういう観点でこれは絶対すごい!とか、この会社は面白い!とかドキドキって言い方がいいのかどうか分からないですが、これは面白い!と思って投資された会社はどんなところですか?

吉田:意外とないかもしれない。そこまで想いを強くしちゃうと、失敗したときに逃げにくくなっちゃうから。

renny:なるほど。そこまでならないのは、どこかブレーキというか自分で何かそうじゃないだろうというような問いかけをご自身でされているような感じですか?

吉田:そうですね。のめり込まずに一歩引くっていうのが大事かな。

renny:なるほど。まだ巡り合ったことがないってことなんですかね。

吉田:強いて言うとサンリオかな。昔、ライセンスビジネスに転換した時があって、そのタイミングで投資した時は、これはいけるという確信がありましたね。

一番思い出深い投資って何ですか?

renny:そうなんですね。それに続いてお尋ねしてた質問が「一番思い出深い投資って何ですか?」。先ほどの質問は投資をする前の話でしたが、次は投資をしてから、これはよかったよねと思った投資は、どういうのがありますか?

吉田:ジワジワ良さを実感してきたのが、トヨタ自動車。なんか有名すぎて若干つまらないですが。日本の歴史や文化をずっと学んでいるですが、トヨタ自動車の経営戦略はその伝統に乗っかってるイメージがあって。今は欧米の自動車メーカーは電気自動車一色じゃないですか。

renny: EVシフトに走ってるという話は、ちょうど今日、下山さんがツイートで拡散されてたんですが、三井住友DSアセットマネジメントがトヨタのレポートを出されいて、その中でトヨタがEVシフトに対して、全方位でどれでもいけるみたいなことをやってるという解説が結構面白かったです。

吉田:その全方位でやるっていうのが日本らしいなと思って。欧米は善悪二元論みたいな感じで、白黒はっきりさせないと動けないところがある。でも日本は決断が曖昧とかって言われることもあるけど、うやむやのままでも物事をとりあえず進められるところがあって(「間」の文化みたいな)、トヨタがEVも水素自動車もやるみたいなところってなんか日本っぽいなって。少し昔の話をすると、欧米が次の時代はガソリン、ディーゼル、EVのどれだ?とゴチャゴチャやっていたときに、トヨタは間をとってハイブリッド車を出して成功して。日本的な発想で世界の大企業になっている会社ってなんかいいなって、ジワジワとトヨタの面白さが分かるようになってきました。

renny:あと吉田さんがよく言われるテーマで、日本ってその小さいものを作るのが得意で、今の強い産業に反映してるんじゃないか?というお話をされてましたが、そういう観点で、印象に残るような投資はありましたか?

吉田:結局、最近は電子部品とか精密機器に投資する方向に進んだ感じで、思い出深いってほどには、まだなっていないです。

renny:なるほど。さっきサンリオのお話で、ライセンスビジネスの話をされていましたが、その方がこの会社は儲かりそうだと思われたってことなんですかね。

吉田:そうですね。元々は物販とテーマパークがメインの会社だったのが、ライセンスビジネスをはじめて、例えばキティちゃんをアレンジしてグッズを作っていいですよ、その代わりライセンス料をもらいますよ、みたいな形にしたことで、世界中からいろいろな形でお金が入ってくる会社に変わるな、という局面があったんですよね。

投資の結果で得た資産、リターンで、これはよかった、嬉しかったものはなんですか?

renny:なるほどね。ちょっとまた次の質問の移りたいのですが、「投資の結果で得た資産、リターンで、これはよかった、嬉しかったものはなんですか?」

吉田:たぶん変な回答なんですけど。お金が関係する話ではなくて、投資をしていたから結婚できたっていうようなところがあるので、一番のリターンは妻なんです。

renny:それは以前に吉田さんの過去の投資遍歴をお尋ねしたときに、お聞きしたんですけど、奥様と知り合われたきっかけが投資だったんですよね。そういうこともあるんですもんね。僕も投資の結果、資産というのはもちろんお金も得たとは思うんですが、こうして吉田さんとお話をする機会とか、いろんな会社や事業のことを知るとか、それが今まで全然繋がってなかったものがこういうことだったんだ、と繋がる瞬間が増えてきたからかもしれないですけど、繋がりやすくなったなぁと感じるんですよね。吉田さんがブログで書かれてた、スティーブ・ジョブズの“Connecting the Dots“の話。

renny:あのDotsっていうのを、投資をすることで増やせるんじゃないかなと思ってて。もちろん資産が増えることも大事だと思うんですけどDotsが増える、吉田さんが奥様と出会われたのも一つのDots。そういうことって、やっぱり吉田さんみたいに、個別の会社に投資されている投資家の方が経験や投資利益が積み重ねることによって、“Connecting the Dots“みたいな感じが増えてくるんじゃないかと思うんです。

吉田:そうですね。投資を続けてある程度のところまで来ると、あんまりお金のことに興味なくなってきて。あ、でも昔からかもしれない。そもそもブログに「投資を楽しむ♪」って名前つけたのは、「株式投資を通じて世の中を見つめて楽しむ」って言葉を縮めたものなんです。株式投資で世の中のことがわかっていくのが楽しいみたいな感じ。その名前つけたのが十五、六年前ななんで、投資をはじめて三、四年の頃からそんな感じでしたね。

renny:三、四年ぐらいでもう“Connecting the Dots“みたいな感覚があったっていうことですか?

吉田:そうですね。世の中のことがどんどんわかるようになって楽しいなって。

renny:なるほどなぁ。その境地にたどり着くには僕はずいぶん時間がかかったような気がしています。

後編に続く


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