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『投資家の日常は、いとをかし。』 #2 2024年1月 後編 テキスト版

前編はこちら↓

こちらのポッドキャストのテキスト版です。



橘玲、安藤寿康「運は遺伝する」

renny:前編では年明けからの出来事について、いろいろなお話をさせていただきましたが、このポッドキャストでは過去に読書の話をたくさんしていて、吉田さんは最近お読みになった本で、面白かったなっていう本があったら教えてください。

吉田:昨年11月に出版された「運は遺伝する」という、橘玲さんと行動遺伝学の安藤寿康さんの対談本。橘玲さんは昔、資産形成の方面の著書で有名だったので、ご存知の投資家さんも多いと思いますが、最近は取り扱う題材が変わってきていて、最先端の科学をわかりやすく紹介するみたいな方向に移ってきてるんですよ。この本のテーマは遺伝。研究がだいぶ進んでいて、人生における遺伝の影響はかなり大きいものなんだよ、と紹介されていて、今後この分野が身近になってくるんだろうなっていうような印象を受けました。ちょっと前まではこういう話をすると、優生学やナチスだと勘違いされがちだったんですけど、DNAの研究が進むと科学的な裏付けもとれてきて、個々人が持って生まれた遺伝的な素質が自然に発揮できる方法や場所を探すことができれば、1人1人が自分らしく生きることができて、幸せを感じやすくなるんじゃないかみたいな話でした。

renny:いわゆる生物学に当たるようなもんだと思いますが、原始的な遺伝学というとメンデルの法則の種を交配とか、血液型の話とかは、原始的な遺伝学だったと思うんですけど、吉田さんお話されてたのは分子生物学的というか、DNAとかそっち寄りの研究がで、人の行動への影響を研究がされているという認識でいいんですか。

吉田:そうですね。一卵性双生児が別々の環境に育っても、能力的に同じ部分はどこなんだ、と比べて研究するところから始まっていて、それをDNAレベルでさらに研究を進めているようなイメージですね。

renny:さっき吉田さんおっしゃった通り、それこそ優生思想に繋がりかねないのかなというところは、昔からある議論だと思うんですけれども。

吉田:この分野の話がこれから増えてくると思うんで、中途半端に聞きかじってると「優生学だ!けしからん!」といって炎上させる側になっちゃうと思うから、このあたりの話をちゃんと学んでいかないといけないなと思いました。

renny:個性とか向き不向きとかっていうのは、遺伝的にある程度、DNAレベルまで解析すると。ある種の性格診断みたいな、そういうようなのに近い面があるっていうことなんですかね。

吉田:そうですね。だから何が本当に向いてる仕事がわかったりする可能性はありますね。

renny:よく会社の研修ですごいたくさんの設問にチェックをつけるテストをやらされるんですよ。脳みそがこんな感じになってますとか緑とか青とか塗られてたりした結果が出てきて。DNAじゃなくて単純に問診でやってるわけですけれども、そういうことをDNAレベルでやろうとしてるアプローチなんですよね。

吉田:そうですね。そういうテストがなくなって、代わりに出てくるものになるんだろうなって思います。

renny:ある程度データというか、そこから出てくる傾向の確からしさとかは、それなりに検証って進んでいるような感じなんですか?

吉田:今はまだ海外のデータが主で、これから日本人のデータを集めていかないと、日本ではどうか分からない、みたいなことが書かれてましたね。

renny:資産運用のことをいっぱい書かれてた橘さんが、そういう方面に関心が向かうっていうのが、なかなか興味深いですね。でもアプローチとしては資産運用の話も、情緒より科学という感じの人だったように記憶するんで、根本は変わっていないのかもしれないですね。

アクティブ投資への過度な批判の根幹に二元論?

renny:次の話題ですが、僕も自分でやめときゃいいのにって、よくわかってるんですけれども、SNS、Xなんか、ついつい「アクティブファンド」というワードでサーチしちゃったりするんですよね。そうするとオールカントリーのファンドに1日で1000億円集まっちゃうような世の中なんで、非常に風当たりきついというか、なんでこの人はこんなに自信を持って、アクティブファンドを批判できるんだろうと驚きを感じることもあって、それこそアクティブファンドの悪口を書くと、どっかからポイントがもらえるんじゃないかと思えたり…。たぶんこういう傾向はなくならないんだろうなとは思うんですけれども。僕が不思議なのは、本当に痛い目をあった人がアクティブファンドにはもうこりごりです、と言われるのは何となく分かりますが、そうでもない人が、そこまでアクティブファンドを批判する思考の順序というか、論理が理解できないのですが、そのあたりについて吉田さんはお考えになったことってありますか?

吉田:これはたぶん、二元論、善悪二元論の方法で、そういう切り方をすると、私たち人間は考えやすいんじゃないかな。年末年始に読んだ本で鹿島茂さんの「思考の技術論」に、デカルトの「方法序説」以来、私たち人間はどのように「知」の方法を築いてきたのかが書かれてるんですね。その中で二元論という世界を分けて考える、対象を分けて考えるっていうのが、物事を捉えやすくしてきたところがあると指摘されていました。私も二元論的な考え方はあんまり好きじゃなかったから、嫌だなと思ってたんですけど、二元論が基本的な思考法らしいんですよ。だから自分がインデックスファンドを信じているとするならば、対立するものを作って、自分選んだものの方がいいものだって考えたい。だからその敵として、アクティブファンドは置かれちゃってるっていうことなんだろうなって思いますね。

renny:たしかに二元論にした方が判断しやすいし、行動しやすいのは確かかもしれないですよね。どちらかが正しくて、どちらが正しくないとかっていうふうに整理がつくと、正しいことをすればいいっていうふうになるでしょうね。そういう意味では、正しくないことに対しては正しくない、と自分の中だけじゃなくて外に発信した方が、より確証が強まるようなところがあるっていうことですかね。

吉田:そうでしょうね。自分自身に納得感がおそらく出るでしょうね。だから何かを行動するにあたっては正しい方法なのかもしれない。人間の性みたいなとこですかね。

renny:そうですよね。たとえばうどんとそばどっちにしますか、どっちかが好きだと思わないといつまでたっても選べない。あともう一つ思うのは、アクティブファンドに投資をしたけれども、思うような結果が得られなかった期待外れだという話には、ちょっと気持ちがわかると言ってたんですけれども、その理由はアクティブファンドではなく投資家の人の行動にあるんじゃないかと思うんです。例えば高いときにドーンと一括で買って結果が出ないとか、あるいはちょこちょこ利益確定して残ったものがどっかで値下がりして思った結果が出ない。アクティブファンドが悪いんじゃなくて、投資行動がイマイチだったんじゃないの、と思ったりするんですよね。アクティブファンドにもイマイチのものがあるのは確かですし、それは僕もその通りだと思うんですけれども、これは僕の経験則なんですけれども、アクティブファンドを長い間コツコツ投資を積み立ててやってたら、これよっぽど酷いアクティブファンドじゃない限り、インデックスファンドとそんなに成果は変わらないんじゃないかなと。だから商品の中身じゃなくて、どういう投資行動をしていたかが重要だと思うんですよね。何かそのあたりがゴチャまぜになってるような気もしますし、さっきの吉田さんの二元論の話じゃないですけれども、どちらかが正しくてどちらかが正しくないという構図になってると、なかなか変わらないのかな。あともう一つは、橘玲さんのお話を聞いてて思ったのは、そういう行動とか、考えの様式も遺伝に影響されてるとこあるのかもしれないなと思いました。

吉田:そうなのかな。どうなんだろう。

renny:二元論が好きだとか嫌いだとか、そういうことに対しての捉え方も、もしかしたら遺伝的、先天的な影響ももしかしたらあるのかな、なんてふと思ったんですけどね。

吉田:でも、投資を始めて間もない頃は仕方ないのかな、って思ったりもするんですよね。長く続けてると、これが正しいと思ってたものが突然崩壊する事例って結構経験するものなんで。やっぱりリーマン・ショックもそうだったし。あとは投資をしてなかった方も東日本大震災は、それまで原子力発電が究極のクリーンエネルギーだと言われてたのが、その一夜にして善から悪に変わったわけで。そういうのを目の当たりにしていくうちに、二元論的な考え方だけじゃ駄目だ、と徐々に気づいていくものなんじゃないかな。

renny:確かに1日前と翌日の解釈というか基準がガラッと180度変わるようなことは、東日本大震災みたいなケースはすごい極端な例なのかもしれないですけど、でも大きな規模じゃなくても、何かのきっかけで、ある会社の見え方が、昨日までいいなと思ってたのが、いやちょっと違うな、とかっていうことがあるってことですよね。

吉田:そういう事例に出会って、保有株を手放したりしてきたことも結構ありますし、そういうのを積み重ねていくと、一方的に何かを批判するっていう気にもならなくなっていくようなところがあります。

renny:唯一無二の正解があるという認識から変わっていくようなことが、投資を続けてると起こるし、期間が長くなれば、それで実際の投資行動とか、資産の内容とかっていうのも、大きく変わるっていうことなんでしょうね。かくいう僕も、実際そういうところは非常に大きいと思ってるんで、

吉田:当初はトゲトゲしていた考え方が、だんだんと角が取れて丸くなっていような。

renny:そうなんですよね。だから変わっていくことを是とするのか、変わらなくて一貫性があるのがいいのか、っていうようのは、その人次第だと思うんですけれども、個人的には変わっていく方が面白いと思うんですけど、吉田さんもその口ですよね。

吉田:そうですね。古典でもずっと昔から、たぶん「老子」ぐらいの頃から、柔軟に変わっていく方が大事みたいな話が書かれ続けているので、裏返すと変われない人が多い、と残念がっているということなのかもしれないです。

renny:そうですね。外部環境も変わっているので、適用せざるを得ないようなところもありますよね。だからこれ、今年の先行きは予想つかないですけれども、去年からの話ですが長らくデフレだった日本がインフレになる。あとは雀の涙ほどもない預金金利が高くなるかも知れないとか、あと為替ですよね。振り子のように円高・円安となっていますが、日本のいろんな状況を考えると円安方向に行くのは不可逆的かなと思ったりします。そうなると、変わっていかざるを得なくなるんじゃないかなとかって思うんですよね。2024年の1年間でガラッと変わるかどうかわかんないですけれども、5年、10年の単位でいったらそうなるんじゃないかなというふうには思ったりはしますよね。

吉田:まぁインデックスファンドでもなんでもどんな形であれ、自分のお金に対して目を向けるのは大事なことで、だいたい人生でお金の失敗するのって、マイホーム購入で失敗する人が多い気がするんですよね。住宅ローン組みすぎちゃったとか。それまで何もお金のことを考えてなかった人が、家を買うときになって、いきなり数千万ものお金を動かして、その後の生活がおかしくなる例があるので、まずはNISAの枠の1800万円を使うことを目指して、計画を立てたりするのは、いい練習になるんじゃないかなと思います。

renny:確かにマンションでも戸建てでもいいんですけど、不動産を買うっていうこと自体も自分にとって投資、要はバランスシートに固定資産を抱えるんだという意識を持って、買う買わないの判断や、住宅ローンをどれぐらいまでとか考える人は少ないですよね。住宅ローン相談に行くと、銀行の人たちは、たくさん貸したいから当てにならない。自宅を買うのも立派な不動産投資という意識を持ってるか持ってないか。NISAで年間120万円とか、240万円とか360万円とかってある部分は、住宅購入に比べれば小さいけど、そういう投資をやることによって、不動産などのもう少し金額の大きい資産を取得しなきゃいけない、そういう判断を迫られたときの肥やしにするみたいな感じですかね。

吉田:そうですね。人生のお金を考える第一歩。

今注目している企業や製品

renny:前編で吉田さんはNISAには特段手をつけられてなくて、つみたて投資枠はやらなくていいかな、とおっしゃってたんで、やっぱり吉田さんの場合、NISAは個別の企業の株式ですよね。今気になってる面白いなと思ってる分野や会社について、お聞かせいただけないでしょうか?

吉田:まず日本企業に関しては、日本は新しい会社が出てきてぐんぐん伸びるっていうよりも、昔ながらの会社が組織改革のような変化が起こるタイミングを狙った方がいいのかなとは思っていて、今注目してるのはNTT。意外と面白いかもしれないなとは思ってるんですね。通信の新技術IWONの話もありますし。消費電力がものすごく抑えられて、通信ができるようになる技術。あれは世界で戦える技術だし、あとNTT法改正みたいな話が去年からちらほら出てきて、組織改革にも繋がるかもしれないし。NTTと名前を聞くと、つまらなく感じるかもしれないけど、これから変わっていくのかなって思ってたりしますね。

吉田:あとアメリカの会社で昨日だったかな、ニュースになって、あららと思ったのが、コンピューター・シミュレーションのアンシスっていう会社が買収されるという話。例えば自動車で壁にぶつける実験があるじゃないですか。エアバッグがちゃんと開くかとか、あれって1回やったら車が壊れちゃうんで、すごいお金がかかるんだけれども、ああいうのをシミュレーション上で何回もテストできるみたいなツールを提供している大手の会社です。

renny:仮想空間でやるってことですか。

吉田:そういうイメージですね。前から投資しようかなと調べてたんですがシノプシスという会社が買収するらしくて、その会社ちょっと調べなきゃなと思ってたりしますね。シノプシスは半導体設計のソフトを作ってる会社らしいんですけど。

renny:このあいだテレビでたまたま見たんですけど、ディープラーニングでロボットを開発する際に、仮想空間に4,000台くらいロボットを置いて学習させる、地形みたいなところに置いてどうやって動くか、転ばずに移動するためのトライアンドエラーを仮想空間で繰り返して、そこでの知見を実際のロボットに埋め込んで、動かすという話を見ました。だから今おっしゃってたシミュレーションもまさにそれに近いんじゃないかなと思いました。

吉田:4足歩行のロボットですよね。私も見ました。あの手の分野って面白そうだなと思って調べていた会社で、そういうものの裏側で動いているのがNVIDIAだったりもするんですけれども。あとは先週かな、CESというITの見本市がアメリカで開催されて、YouTubeにいっぱい上がっている動画を、今一生懸命見てるところです。

renny:そうですね。そういうところから、何かそういうところでね、あっと言わせるようなものを日本の会社が出してくれるのがもっと増えてほしいですよね。部品ばかり作ってるんじゃなくて。

吉田:日本の会社にも面白いの出してるのがありましたよ。眼鏡みたいな、どんな人の目にも自動でピントがあうゴーグル、みたいな製品。

renny:なんかいろいろ夢のあるテクノロジーはこれからまた増えていくでしょうし、そういうようなところでね、なんか面白いなっていうか、まさに「をかし」というようなものが出てきたら、楽しみになりますね。

吉田:そうですね。あとは最近YouTubeを見てると英語のものでも、日本語の字幕が完璧なんですよ。自動翻訳が。

renny:そんなに精度上がってきてるんですか。

吉田:精度がまた上がったんだなと。海外企業の決算発表をYouTubeに上げる会社もあったりするんで、それ日本語で普通に見れるようになりつつあるので、今年から本格的にそういうものも見ていこうかなとは思ってるんですよね。

renny:なるほど。気づかない間に日進月歩というか、そういうようなことが起きてるってことですね。

吉田:昔はひどかったんで字幕を表示しようと思わなかったんですけど、最近ちょっとやってみたらおや?と。

renny:またそういう意味でアメリカの会社の発信から、興味深い投資機会や発見が得られそうということですね。


収録をきっかけに善悪について倫理学の面からもう少し掘り下げていきたいな、と思い補足のような記事をブログにまとめました。


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