259回 ブラック・トラッシュ


安曇野市はゴミの分別に関しては厳しい方だと思う。
住民はわかっているので概ねきちんと分別してゴミを出しているのだが、たまに別荘にやってくる他県の人の中には、かなりいい加減な出し方をする人がいるため、別荘の管理事務所が苦労して分別している。別荘に来ただけだから適当で良いというわけはなく、ちゃんとその地域の分別に従って出してほしい。
というのは、以前松本市に住んでいた時に町内会の衛生係になった(というかならされた)経験からの思いである。その時はゴミの収集日前にゴミステーションを点検して、間違った分別で出されていたゴミがあれば、係がやり直さなければならなかった。結構これが辛い。まあ大体の住民はきちんと分けて出してくれるのだが、他県から来て新しくアパートに入居した人とか、町内会に入っていない人とかに、たまに間違った出し方をされることがある。それを収集車が来るまでに分別し直さなければならない。
ゴミ収集の朝は早い。朝が苦手なのに早起きしてゴミの点検をするのは辛かったが、自分もゴミを出すのだから順番で役割が回ってくればやらざるを得ない。この時の経験で、ゴミはきちんと分別すべきという信念が固まった。

今でこそ「資源」という意識が人々の間にも根付いているが、ちょっと前までプラゴミは「不燃ゴミ」や「可燃ゴミ」というカテゴリに分けられていた地域が多かった。
20世紀末、家庭から出されるゴミは3500万トンにも及び、埋立地が限界に達すると共に様々な環境問題も持ち上がっていた。このゴミの6割を占めていたのが、食品や日用品の容器や包装であったのだ。容器や包装における材料の大部分は、紙とプラスチックである。
そこで容器包装のリサイクルを制度化して循環型社会を目指す「容器包装リサイクル法」が1995年に交付され、2000年に完全に施行された。以降徐々にゴミの分別が細分化されて、それぞれ資源として回収していくようになったのだ。
これに伴いリサイクルに関する啓蒙も進んでいく。2006年には法律の改訂が行われ、更にゴミの排出抑制やリサイクルの円滑化などが強化された。
いまやペットボトルや食品トレイ、牛乳パックを資源ゴミに出さないという人はいないだろう。最近では「サステナブル」や「SDGs」という言葉も飛び交うようになってきた。
では本当にそれらはきちんと行われているのだろうか。

ここで我が家のゴミ状況を書こうと思う。
いわゆる生ゴミはコンポストに埋めてしまうので、ゴミとしては出ない。これは庭がある利点だと思う。そうなると「可燃ゴミ」として出るのは、鼻をかんだティッシュなどの汚れた紙類が殆どとなるため、分量としては微々たるものとなる。そのため可燃ごみを捨てるのは、2週間に1度程度のごくたまにということで済む。かえってプラゴミの方が多い。
そして圧倒的に多いのが「資源ゴミ」だ。汚れていない殆ど全ての紙類とダンボール、古着や瓶・缶。中でも紙類は、新聞、雑誌、チラシなどの雑紙、紙製の容器包装、包装紙や緩衝材の紙類と細かく分別が要求されているのだが、どれも可燃ゴミにはせずにしっかりときれいに畳んでまとめて捨てている。
もちろん資源ゴミがたまるまでにはそれ相当の時間がかかるので、リサイクルセンターに捨てに行くのは2ヶ月に1度程度だ。だが我が家でゴミといえば資源ゴミというほど、その存在感は大きい。どんなものも無駄にせずに資源になればいいなと思って、せっせと整理している次第である。

最近そんな思いを裏切るような事実があることを知った。
日本をはじめとする経済先進国はこれまで何十年もの間、プラゴミを中国に輸出してきた。それが2018年に中国がプラゴミの受け入れを禁止したことから、今度はアフリカ諸国に大量のプラゴミが輸出されるようになったのだ。
アフリカの国々は自国のプラゴミの処理も間に合っていないわけで、そこに他国のプラゴミが流れ込んできたからといって処理できるわけがない。殆どが放置されているのが現状なのだ。バーゼル条約でゴミの輸出入が禁止になったと言っても、実際は違法な取引が続いているのが現状である。
これまで作られた全てのプラスチックのうち、リサイクルされたのは9%と言われている。後の90%以上は、埋め立てられたり燃やされたり海や川に流されたりしている。海洋に蓄積された大量のマイクロプラスチックが及ぼす問題も表面化してきた。
アフリカだけでなく東南アジアもプラゴミを受け入れているが、処理しきれなかったゴミが海に流入しているため、マイクロプラスチックの排出量の1~4位を東南アジアが占めているそうだ。

もう一つ驚いたことがある。
日本のプラスチックのリサイクル率は世界的に見ても、86%(2020年時点)とかなり高い。だが実はこの数値には裏がある。
普通「リサイクル」と言えば、一度原料に戻して新たに再生させるというようなイメージを持つだろう。私はそう考えていた。しかしリサイクルには3種類あり、それぞれ「マテリアルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」というように分けられているのだ。
このうち「マテリアルリサイクル」というのは、ペットボトルがまたペットボトルに生まれ変わるように、モノからモノに再生させることを言う。これが一般的な「リサイクル」のイメージに一番近いだろう。ただしこれは再生するたびに劣化するという宿命がある。この「マテリアルリサイクル」は国内ではわずか8%しか行われていない。
それに対して「ケミカルリサイクル」は、廃プラスチックをいったん分子に分解してから再度プラスチック素材に変えるやり方だ。これは一見効率的で良い方法に思えるが、大規模な工場が必要となったりその過程で有害物質やCO2が排出されたりするため、資源もエネルギーも必要となるので一向に進まない。こちらはなんと国内では4%である。
この2つの方法以外の大部分を占めているのが「サーマルリサイクル」と言って、プラゴミを焼却炉で燃やしその熱を利用すると言うものだ。「ゴミ発電」とか呼ばれて重宝されているが、海外ではこれを「リサイクル」とはみなされていない。単に「エネルギー回収」と呼ばれている。燃やすだけなのだからそれはそうだろう、これは「リサイクル」ではない。
ということは、86%というリサイクル率の実態はわずか10%余でしかないということになり、また生まれ変わることを期待してせっせと分別していた努力はなんだったんだろうという気分にもなってしまう。

いまでも大手メーカーのお菓子など食品の多くは、個包装になっている。食べた後のプラゴミの多さに驚くほどだ。洗剤やシャンプーを詰め替えてもゴミは出る。いくら「簡易包装にご協力を」と言っても、いまだに大量のプラスチックが使われていることに変わりがない。
美しい包装や容器は生活を彩り豊かにする側面もあるが、度を越した過剰なプラの包装はもう必要ないのではないか。
出てしまったゴミの処理に頭を悩ますより、まずはゴミを出さないという方向に思考を切り替えなれば、いつまで経ってもこの問題は解決しないだろう。
個人でもできることはなにか、小さな変化でも大きな改革につながることを願って、今日もゴミを分別している。


登場した用語:マイクロプラスチック
→洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤として入っていたのは一次マイクロプラスチック。当時大人気で、海洋汚染の原因となるとは思わず使っていた。現在はプラゴミが破砕されてできた二次マイクロプラスチックが問題となっている。
今回のBGM:「WELCOME PLASTICS」 by プラスチックス
→テクノポップ御三家のひとつ。POPでお洒落で好きだったな。

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