250回 九夏三伏


夏バテが続いている。
もっと言えば、6月から夏バテである。
毎年私の夏バテは6月から始まるのだが、そのうち夏にそこそこ慣れてくるので、夏バテ自体は軽くなってくれる。はずなのだが、今年の夏バテはしぶとい。
だいたい何故6月から夏バテになるのかというと、丁度暑くなりかけでまだ身体がついていっていないことと、不思議と6月は仕事が忙しいことが原因と思われる。この10年程で確実に季節は前倒しになっている。6月は既に夏なのだ。

そもそも夏バテとはなんぞや。
一般的には、自律神経系の不調に加え脱水や栄養不足による疲労倦怠感・食欲不振・眩暈・不眠などの症状のことをまとめて、夏バテと言っている。
外の高い気温と冷房で冷やされた室内の気温差が5℃以上あると、自律神経は乱れやすい。いつ汗をかけばよいかわからなくなってしまうのだ。寝苦しくて寝られず夜更かしをすれば、それもまた自律神経の乱れにつながる。
汗をかいた後に冷房にすぐ入ると身体の表面が冷やされる上に、冷たい飲み物ばかり飲んで体内も冷えて消化器官の働きも悪くなる。汗をかくとミネラル成分も失われるし、食欲がなくてさっぱりしたものばかり食べていると栄養も偏る。夏、駄目じゃん。

東洋医学、つまり漢方では、夏バテは胃腸の弱りとされている。胃腸が弱っているから食べられない、食べていないから元気も出ない。漢方の世界で胃腸は元気の要として大変重んじられているのだ。
その胃腸、漢方では「脾は燥を好み、湿を嫌う」、つまり乾燥を好んで湿気を嫌うと言われているらしい。湿気が多い夏に食欲が落ちて、乾燥してくる秋は食欲が出る、確かに。もとより湿気の多い日本は胃腸が弱りやすいので、和食は淡白で優しい味になったというのも、説得力がある。
ただそうは言ってもあっさりしたものばかり食べていては、体力が落ちてしまうので、せめて具沢山の温かいお味噌汁でも飲むようにしたい。

また夏バテには入浴が良いとよく言われる。
暑い時はシャワーだけで済ますという人も多いだろうが、私はしっかり湯船に浸かる派である。汗をかいて結構身体が冷えているので、温かいお湯に浸かるのは気持ちが良い。
夏に適した入浴は、38~40℃とぬるめの湯に10分程浸かるのが良いのだそうだ。副交感神経を優位にしてリラックスするためである。38℃で20分とか書いてあるものもあるが、はっきり言ってのぼせてしまって無理。ただし最近は風呂の中にスマホを持ち込む人も多いそうなので、そういう場合は湯船の中でいつの間にか時間が経っているので大丈夫という人もいるだろう。
私は風呂は風呂だけで集中したい方なので、40℃で8分としている。

そして湯船に浸かる意義は温まるだけではない。首までお湯に浸かっている時、全身にかかる水圧は約520kgになるそうだ。この水圧によるマッサージ効果で、下半身に溜まりがちな血液やリンパ液が心臓に押し戻され、下肢の浮腫を解消してくれる。これを「静水圧作用」と呼ぶ。
体重が1/10になるというのだから、お湯の浮力も侮れない。筋肉や関節にかかる力が減ることで、緊張が和らげられるのだ。
しっかり入浴すると、800ml位も汗をかくそうだ。冷房で自律神経が不調だと汗をかきにくくなるので、風呂に入ることで汗をかける体質になるのも大事。入る前と出た後には必ず水分補給を忘れずに。

ぬるめの湯にじっくり浸かると、深部体温(体表面ではなく内臓の温度)が上昇する。
その後風呂から上がってから90分から120分で、急激にその深部体温が下がってくる。人間は体温が下がる時に眠くなるようにできているので、そのタイミングで布団に入ると寝つきが良いと言われている。
寝苦しい熱帯夜、少しでも質の良い睡眠を取るためにも、湯船に浸かる入浴をお勧めする。

つい先日も夏バテを通り越して暑気あたりという状態になってしまった。
暑気あたりとは漢方の用語で、夏の気である「暑」に「中(あ)てられる」ことを言うのだそうだ。「暑邪」が体内に侵入して熱が篭ることにより、体調を崩す。医学用語で言うと暑気あたりは「暑熱障害」という分類になる。
熱中症はこの暑熱障害にあたる。つまり私も熱中症になりかかったということだが、幸い点滴をするまでには至らずに回復した。
湯船に浸かり、冷たい飲み物も食べ物も殆ど食べず、冷房にも極力当たらず(これは室温が30℃以上にならないからできることで、各々適宜使ってください)にいたのに、このざまである。
これを読んでいるあなたも、どうか過信しないで気をつけてほしい。
お互いなんとかこの夏を生き延びましょう。


登場した言葉:風呂
→子供の頃、自宅の風呂は井戸水で沸かしていた。昭和40年代には、まだ東京の上野には井戸があり井戸水が汲めたのである。その後工業用など過剰な地下水の汲み上げにより地盤沈下が起こるなどして規制がかかり、実家の井戸もいつの間にか枯れてしまった。因みに23区内にはかなり湧き水が出る場所がある。東京は本来水をたっぷり含んだ地盤なのだ。
今回のBGM:「夏」by 倉橋ヨエコ
→15年前の引退が惜しまれた倉橋ヨエコが、「ヨエコ」として帰ってきた! 9月発売予定の新譜が届くまで、この曲の夏空に突き抜けるような彼女の声を聴き直すことにしよう。


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