第62回 パンがなければお菓子を食べればいいじゃない


「なんで女性はそんなにパンが好きなんだ?」という言葉をよく聞く。
確かにパン屋に行くと圧倒的に女性が多いし、女性同士で美味しいパンの話題に花が咲くこともある。朝食や昼食にパンを食べるという女性も多いだろう。会社の昼休みにいつも立ち食いそばを食べるというよりは、パンを買ってきて食べるという女性の比率が高いのはおそらく間違いない。同じ手軽な食べ物でもそばやラーメンではなくパンを選ぶというのは、ジェンダー的な刷り込みを抜きにしても、特有の傾向なのではないか。

ここでパン屋と書いているが、いまはベーカリーやブーランジェリーといった洒落た言い方の方が幅を利かせているに違いない。昔ながらのパン屋さん自体、ほとんど見かけなくなっているのが現状だ。
昔のパン屋は、ウィンドウの中に並べられたパンを店員さんに取ってもらう方式であった。もちろん現在もそのような形の店はあるが、いつの頃からかセルフ方式が主流を占め、トングでトレーにのせたパンをレジに持っていくという方が多くなっている。何も言わずとも会計まで済ませられるセルフの店は、コンビニと同様面倒がなくて便利という側面もあるのだが、やはり対面販売でパンの名前を言って店員さんに取ってもらう方が楽しい。
そういえば昔のパン屋では、スライスした食パンにピーナツバターやジャムなど好きなスプレッドを塗ってもらうことができた。なんとなく自分で塗るより美味しいような気がしたものだ。

それにしても日本人は「もちもち」の食感が好きである。御多分に洩れずパンももちもちがうけている。やわらかくしっとりとしてもちもち(あ、全部ひらがなだ)。このところ高級食パンが人気らしいが、こちらももちもちが主流を占めている。菓子パンもおかずパンももちもち。もが多いぞ。
イギリスでもフランスでもドイツでも、パンは固かった。日本ではバゲットもやわらかくてもちもちだが、フランスで食べたのはバゲットの生地を圧縮したような5センチ四方の固いパンが多かった。
そしてドイツ。ドイツのパンはライ麦系の酸っぱいパンが多いので、はなから日本では劣勢なのだが、それに加えて固い。パン・ド・カンパーニュどころではない。塊というに相応しい固いパンを1センチ程に薄く切って食べる。いまちょっと調べてみたら、ドイツは世界で一番パンの種類が多い国だそうだ。ドメスティックなものを含めるとなんと3000種類もあり、もちろんライ麦パン以外の小麦系のパンも存在する。
ドイツに行った時あまりにもパンが美味しくて、大量に買って帰ってきた。大量に買い込んだパンを大きなビニール袋いっぱいに詰めて、ガムテープで封をして機内持ち込みしようとしたら、出国検査で止められた。かなり重さがある上に、X線を通した時中身がなんだかわからなかったので怪しまれたらしい。「これはなんだ?」「パンです」「全部?」「全部」というやりとりがあって、大笑いして通してくれた。
日本に持ち帰ったパンは、その後1ヶ月かけてしっかり食べきったのだが、最後のほうになるとまさに石のように固くなっていたため、パン切りナイフで切るのも大変だった。でも軽く水を振りかけてから焼くと、味も風味も変わらず美味しく食べられた。さすがドイツはパンも剛性感がある。

日本のパンはもちもちであるだけでなく、甘い。
もちろん菓子パンやデニッシュの類は甘くていいのだが、食パンにも糖分が入っていることが多くかなり甘い。日本の料理は得てして甘いものが多く、外国から来た人には驚かれるのだが、パンが甘いこともその一つらしい。
確かに欧米のパンは料理のリセットの役目もあるので、パン自体の味はニュートラルである。そう考えると日本におけるパンの立ち位置は、お菓子に近いものであるのかもしれない。女性がパンを好むのはそういう意味もあるのかも。
一昔前漫画やアニメで、少女が朝学校に遅れそうになってトーストを加えながら走るというシーンが流行ったことがあった。実際にはありえないシチュエーションなのだが、少女とパンという組み合わせがしっくりきたということもあるのだろう。
少女もドイツのパンの如く、剛性感高くありたい。


登場したパン:ライ麦パン
→ライ麦が多いものから、ロッゲンブロート、ロッゲンミッシュブロート、ミッシュブロート、ヴァイツェンミッシュブロート、ヴァイツェンブロートと呼ばれる。概ね固い。
今回のBGM:「パンのマーチ」by ペギー葉山(「みんなのうた」より)
→パンというとこれしか頭に浮かんでこない。歌詞だけ見ると冒頭はなかなか衝撃的。

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