第46回 ブルー・ジーン


世の中の人間は二つに分けられる。ジーンズを履く人とジーンズを履かない人だ。
ジーンズ、日本語で一般的にはジーパンと言われるこのパンツは、ときにお洒落な人の間ではデニムとも呼ばれる。デニムというのは本来ジーンズに用いられている生地の名称であり、元々はフランス語の「ニームの綾織」という言葉に由来するそうだ。そしてこの生地はイタリアのジェノヴァから輸出されたので、ジェノヴァを指す中世フランス語からジーンという言葉が生まれ、英語に入って複数形になった。日本語のジーパンの語源については諸説あるらしいので、これは横に置いておく。
ジーンズ自体の歴史についても、かのリーバイス501など有名な逸話は沢山書かれているので、ここでは特にふれない。とにかく1860年代にアメリカでポケットにリベットを打ち込んだパンツが出来た時から、ジーンズの歴史が始まったのだ。

今ではジーンズを履いていても、ちょっと高級なホテルや店から追い出されるということはまずないだろうが、20世紀にはまだジーンズはカジュアルの代表格で労働着と見なされたものであり、普通の大人が履く衣服ではなかった。怒れる若者の象徴といった、ある意味アイコン的な意味をも持つ存在でもあったのだ。
70年代フォークソングやロックのミュージシャンたちはこぞってジーンズを履き、カウンターカルチャーを名乗った。ヒッピー文化の流入と共に、ベルボトムというまさに釣鐘のように裾が広がった形のジーンズが大流行したのもこの頃だ。あれほどアクが強いデザインのジーンズは余程意識しないと履けないが、今ではブーツカットという程よくおとなしくなった形で落ち着いている。
一口にジーンズといっても、そのデザインはかなり時代による流行を経てきている。定番のストレートが少しブラッシュアップしたスリムストレート、すっきりと細いスリムからぴったりと足に沿うスキニーまで、そのどれもがジーンズというカテゴリーを逸脱することなくバリエーションを増やしていることからも、いかにこのパンツが愛されているかがわかるだろう。
バブルの時期にはディナージーンズと呼ばれるような、ちょっと高級なデザイナーズブランドのジーンズが流行った。しかしやはりジーンズの本質は、その気負いのなさ、軽快さにあるのだと思う。ジーンズは、Tシャツでもブラウスでもスニーカーでもパンプスでも、合わせるものを選ばない。懐が深いパンツなのだ。

ジーンズに関しては、各人各様のこだわりがあるアイテムだということも特徴的である。ヴィンテージデニムと言われるような名品には数百万の値が付くように、マニアのこだわりといったらそれこそ凄いものだ。色落ちや型崩れを恐れて洗わないというマニアもいるようだが、私個人としては洗いざらしのさっぱりとした着心地の方が好きだし、変化していくのもまた一興と思っている。だいいちダメージデニムなんてその崩壊の過程を楽しむようなものではないか。
ジーンズにはアメリカの3大ブランド(Levi’s・Lee・Wrengler)以外にも、日本ではエヴィスにビッグジョンやエドウィンをはじめとして有名なブランドが沢山ある。ビッグジョンの元となったマルオ被服が始めた「ワンウォッシュ」という技術は、縮みやすい生デニムをより履きやすくしたものとして、その後世界的に広まった。

かつて女性向けジーンズのCMで、少女がパツパツのジーンズをベッドに仰向けになって頑張って履き、颯爽と出かけていくというシーンがあった。今ではポリウレタン混紡という最強のフィッティング技術により、生地も伸縮自在となり履きやすくなっているが、まだ身体にフィットしていない新しいジーンズをそうやって頑張って履くという心意気が素敵だった。
カジュアルだけど背筋が伸びる。私にとってジーンズというのはそういう存在なのだ。


登場したデザイン:スリムストレート
→ジーンズにはその人にあったブランドとデザインというのがあると思う。私にとってはヒステリック・グラマーのスリムストレートがそれだ。
今回のBGM:「GETAWAY」by Red Hot Chili Peppers
→ギタリストが変わって賛否両論巻き起こしたこのアルバムはジャケットに惹かれて手にしたのだが、洗練の妙。「Dark Necessities」の格好良さよ!

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