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新しいデザインのあり方|サービスデザイン基礎の基礎

今北米やヨーロッパでは、サービスデザインという新しい分野がめきめき成長しています。デザイン思考(Design Thinking)とかUX(User Experience)デザインとか色々出てきているけど、どう違うの?ここ、カナダはトロントのデザイン界隈の人からも、そんな声をよく聞きます。そこで今日は、サービスデザインの土台の話を。

「サービスデザイン」という言葉は1991年、ドイツのKöln International School of Designが最初に使い始めたとされています。私の会社も所属する、Service Design Networkによる定義では

The activity of planning and organizing people, infrastructure, communication and material components of a service in order to improve its quality and the interaction between service provider and customers. The purpose of service design methodologies is to design according to the needs of customers or participants, so that the service is user-friendly, competitive and relevant to the customers. — Service Design Network
意訳:人、インフラ、コミュニケーション、モノを整理し、サービス提供者とユーザー間のやり取りを向上させる行為。ユーザーや参加者のニーズに応じてデザインすることで、よりユーザーに寄り添ったサービスにすることが目的である。

ここではサービス提供者と「顧客」、となっていますが、実際には病院や行政にも応用されており、「ユーザー」と呼ぶのが自然です。

ここ数年で爆発的に普及したUXデザイン。よく使われる狭義の意味でのUXデザインは、人間−コンピューター間のやり取りのデザインを指します。これに対して、もっと広い意味でのサービス提供者−人 間のやり取りをデザインする領域、それがサービスデザインです。


サービスデザイン5つの特徴

サービスデザインの軸となる、5つの特徴を見てみましょう。
This is Service Design Thinking by Marc Stickdorn and Jakob Schneider より意訳)

1. User-Centered: People are at the center of the service design.
ユーザーを中心としたデザインであること
2. Co-Creative: Service design should involve other people, especially those who are part of a system or a service.
コ・クリエイティブであること。対象のシステムやサービスに携わる人々がデザインプロセスに組み込まれていること。
3. Sequencing: Services should be visualized by sequences, or key moments in a customer’s journey.
ひと続きであること。それぞれのサービス要素が、ユーザー体験の中でひとつの流れとしてデザインされていること。
4. Evidencing: Customers need to be aware of elements of a service. Evidencing creates loyalty and helps customers understand the entire service experience.
可視化すること。サービスそのものは目に見えないが、その要素を可視化することでユーザーが未来のサービス体験を理解できるようにすること。
5. Holistic: A holistic design takes into account the entire experience of a service. Context matters.
包括的であること。局所的なアプローチではなく、ユーザー体験の全体を対象としたデザインであること。

デザイン思考(Design Thinking)を知っている人なら、よく似ていると思うのではないでしょうか?デザイン思考とはデザイナーが使うあらゆるメソッドをビジネスにも適用できるようツール化したもの。このデザイン思考をサービスに当てはめたのが、サービスデザインです。


プロダクト、サービス、システム:従来のデザインとの違い

従来のデザインを比較すると、大まかにこんなことが言えます。
プロダクトデザイン→目に見えたり手で触れられるもののデザイン
サービスデザイン→目には見えないサービス全体の流れ、その運用を可能にするためのシステムのデザイン
UXデザイン、グラフィック、ウェブデザイン→これらのフロントエンド=ユーザーが直接的にやり取りをする部分のデザイン

最近で言えば、Uberがタクシービジネスのあり方を大きく変えました。Uberやタクシーの場合、プロダクトは車そのもの。Uberが変えたのはそんなプロダクトを使ったサービスのあり方です。

従来のタクシーのユーザー体験はこんな感じです。
・電話でオペレーターと会話して予約→配送 もしくは
・道に出て走行中のタクシーの中から空車を探し、引き留める
・乗車
・行き先や道順を伝える
・目的地到着
・支払いをしてお釣りやレシートをもらう
・降車

場合によっては、
・大きいお札しかない場合はあらかじめ崩しておく
・運転手によってはさらなる道順の誘導をする
・ナビに慣れていない運転手のために設定する
なんてことがユーザーに求められます。

これがUberの場合、
・アプリを使ってその場で予約
→近くを走っている車をアプリ上で確認、何分後に迎えにくるかがわかる
→目的地は予約時に登録。料金も予約前に明示され、合意の上で発注
・指定した場所に車が到着
・乗車

→予約時に入れた目的地までナビが案内
・目的地到着
→クレジットカードで自動決済、レシートもメールに自動送信
・降車
と、ユーザーの担う労力やストレスが少なく、よりシームレスなユーザー体験だと言えます。(Uberにも問題はありますが、趣旨から外れるので今回は省略)

タクシー会社がUberのようなサービスを提供するためには、何をすればいいのか。これは、単純にアプリをつくるなんて話ではなく、サービスフロー全体を見て、会社の運営方針、法律の確認、アプリ開発、支払いシステム導入、運転手の雇用・契約・トレーニング、アプリ運用、カスタマーサービス運営といった組織システムの一貫した見直しが必要になります。サービスデザインでは、ユーザー体験を向上させるためにこういったサービスプロセスとそれを支えるシステムにテコ入れします。

もちろん、サービスデザインのアウトプットにはプロダクトやWebサイト、アプリ、ポスターなどの目に見えるデザインが含まれますし、フロントエンドのデザインは切り離せるものではありません。むしろ、プロダクト、サービス、システムを一緒に考える必要があります。ヨーロッパなどのデザインスクールを見ると、この3つはセットで教えられています。私の通ったカナダの研究所、Institute without Boundariesでも1つのコースとして教えられました。


まとめ

今回はひとまず「サービスデザインってなんだ?」という大まかな話をしました。
まとめると、サービスデザインとは:
・サービス提供者とユーザー間の目に見えないやり取りをデザインする
・サービスそのもののあり方とそれを実現するためのシステムづくりに取り組む
・UXやその他デザインも部分的に使う


次は、サービスデザインの肝であるUser-centered Designについて紹介します。
普段はこちらで書いています:https://pitomie-chch.blogspot.com/

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