見出し画像

裏山の猫  ショートショート

猫が居間にいた。
座卓に向かい新聞を読んでいる。
現実じゃない。
「えっ、どうしてそう思うのかい」と、その猫は言った。
心の中で思ったことに対して言うこと事態おかしいじゃないか、それに猫が新聞を読むのが変だ。
「そりゃ、ずいぶんと偏見だ」
また、勝手にこちらの心を読んだ。
「なんてつまらない人間なんだろう」と猫は言う。
だいたいうちは、新聞を取ってないだろ。
猫は少し考えて、おもむろにノートパソコンを座卓に置いた。
それ、いったいどこから出した。
「情報が古かったらしい。失敬失敬」
失敬って、いったいいつの時代だ。
「失敬も古いか、まいったなぁ。いや、タヌキが師匠だもんでな」
タヌキだと、この猫もどこから来たんだ。
「いやー、裏山から下りてきてな」
「どこに裏山がある!」
我慢できなくなって、つい声を出した。
「ハハハハハ」
「猫のくせに笑うな」
「そうか笑うのも古いか」
違う!猫は笑わない。
猫をにらみつけると、猫はおもむろに時代劇で見た棒の先にタバコを詰めるのを出してきた。
「これか、これはキセルじゃよ」
鼻で笑った。
タバコなんて吸われちゃ困る。
部屋に変な煙と臭いがただよった。
「おい、ネコ!」
「坊っちゃん。はい、なんですか」
「帰れよ」
「来たばかりですよ、坊っちゃん」
今度はニタニタと笑った。
「坊っちゃんは、がまんってもんを知らない」
なんだ偉そうに!
「私はね、坊っちゃん。普通の猫じゃないんですよ」
ぜんぜん普通じゃないよ。
「裏山で、元は大きな山猫だったんですよ。それが何年も経つうちに猫になっちまいまして。そうそう、裏山も今はなくなってしまったんでね」と、にらむ。
「ボクのせいじゃないよ」
「そうですな、坊っちゃんのせいではないですな。まったく人間のせいです。ところで坊っちゃんは人間ではないんですね」
何を言い出すんだこの猫は。
「たまに来て新聞を読んだって、ノートパソコンを出したって、悪かないだろっ」
なんかイヤだな、早く帰ってくれよ。
「そうですか、わかりました 坊っちゃん。それじゃ今日は帰りますが、その内に又来ますよ」
猫は、あくびをしてから消えてしまった。
座卓を見たら、大きな猫の足跡がついていた。







この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,225件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?