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負い目   (ショートショート)

昔のことだ。
村は、毎年のように子供の神隠しが続いた。
周辺の人は、あの子はどうなったのだろうと噂をする。警察からの連絡がないままだった。

僕はある日考えもなしに、村はずれの林の中に入っていった。
遠くに子供の泣き声がする。
ふらふらとそちらの方に行くと、10才くらいの男の子が3才くらいの子を連れている。
そっと見ていると、林の中に井戸があり蓋をずらしてそこに、その連れていた子を ついっと落とした。

なんの前触れもない。
泣いたまま落ちていき バサッと音がした。
その時、その子は後ろを確かめた。
僕は心臓が止まるかと思った。

じっとしてるとその子はなにもなかったように村の方へと歩いていった。
腰が抜けそうな感じで、しばらくそこにいたが、音をたてないように歩いて家に帰った。何年もどうしてあの時 親に言わなかったのだろうと思った。次の日も次の日も僕は怖くて言えなかった。あの振り返った目が怖かった。親に叱られるのが怖かった。どちらにしても取り返しがつかない。

すでに何日かたってしまい、僕はあの子はふざけていたんだ、だから後からあの子を引きあげたに違いないと思った。都合よく毎日のいろいろで忘れていった。ある日、夢をみた。

そりゃそうだ、それで終わるわけもない。毎日毎日その夢をみた。井戸の中の子供がなぜか井戸の外にいる。「なんだやっぱり」と僕が言うと哀しそうな怒ったような顔をする。その後、投げ入れた子供がその子と一緒に僕を追いかけて来る。

母親が「どうした、またなんか夢をみたのか、うなされてたよ」と言う。突然、奇声をはりあげ起きたりがだんだん激しくなった。

そうこうしているうちに、親の都合で街に引っ越しをした。僕は心底ほっとした。母が教育に熱心なので勉強にもはげんだ。

夢をみなくなったわけではない。もう、何度も何度もその井戸のところに行き、彼らに追いかけられた。

子供の頃から僕はよくかわいい子ですねと言われた。母はそうですかといいながら嬉しそうだった。心の中の恐怖は顔に出さずに毎日を健やかに過ごした。

有名高校、有名大学と進み自分の容姿の良さで女の子にもずいぶんともてた。ちょっと暗い目が寂しげな表情が良いということらしい。

結婚もした。ある日、妻が言った。「何かが違う」。

そう言って荷物をまとめて出て行った。いくらなんでもなんだそれはと思った。離婚をしてだいぶたった。会社でも順調に出世をしてここでもとてももてた。そしてしばらくつき合っても皆たいした理由もなく去っていった。

ある日、その村のニュースをテレビでやっていた。過疎になっていた村で、2日前に自殺した男の手記が見つかりその村で頻繁に起こる行方不明の子供のことが詳細に書いてあったということだ。

これで、救われたと僕は思った。これで夢をみないで済むと思った。しかし相も変わらず夢をみた。いい加減にしてくれと思った。あの時は僕は子供だった。他に何もしようがなかった。幾度もそう思った。

毎日、変わらず会社勤めをしていた。仕事も順調だし言う事はないはずだ。会社を辞めて肉体労働でもすればこの状態から抜け出ることができるだろうか、ホームレスでもすればなんとかなるだろうかと考えたが、結局今の立場が楽でもあり、仕事内容には自信もあるので続けていた。

こんなことをしていてもダメだと決心をして、僕はその村に行くことにした。村につくと、以前住んでいた家などは見もせずにどんどん林の方に行った。もう幾度となく夢で通った道だ。

行くと、あの井戸がない。ひどく面食らった。

そうだよな、遺体を出した後は井戸ごと埋めるだろう。そりゃ、そうだ。

林だけだ。どこまでも。

あぁ、これで解放された。

そう、しみじみ思った。僕は僕の人生を送れると。

僕の体から一つ音がした。放屁をした。気がゆるんだのだ。その時僕は足を踏み外した。穴に落ちたのだ。枯葉に覆われていた井戸だった。手記にはこの井戸のことは書いてなかったのかと思った。


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