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企業における「マネジメント」の発生

6月のある日、参加していたイベントで、「家業を継ぐために実家に戻った」という若い男性の話を聞いた。
彼(Tさん)はアパレルの仕事をしていたのだが、辞めて、この4月から、埼玉にある実家の部品製造会社に戻って働き始めたという。
働き始めて2か月だが、思った以上に会社に課題が多く、悩んでいるとのことだった。
話を聞いてしまった手前、なんだか放っておけなくなってしまい、帰りがけに、「何かできることがあれば協力したいから、今度会社に行くので話を聞かせてください。」と言った。
こうして、埼玉の社員10数名ほどの会社に行くことになった。


次期社長の苦労と組織の苦労

住宅街の一角にあるその会社は、一階が工場で、機械がひしめきあっており、2階は事務室になっていた。部屋に通されて、彼とその父である現社長の話を聞く。
最初は、次期社長である彼の右腕になるような若手人材を採用したいという相談だった。
でも、話を聞いていくうちに、今仮に誰か採用できたとしても、すぐ辞めてしまうだろうなと思った。
小さな会社だが、経営陣(古株)と現場社員とは距離があり、互いに振り回されていると感じてしまっている状況なこと。工程管理と生産管理ができておらず、納期漏れが発生してしまっていること。一部の社員に仕事が集中してしまい、一方で他人事のように帰ってしまう社員もいること。
要するにマネジメントが機能していない状態だ。
別にこの会社に限ったことでなく、日本中の何百万社という中小零細企業で同じような嘆きがあふれていることだろう。
会社が崩れていくのは、製品やサービスが悪いからではなく、組織が悪いからであることがほとんどだ。近年中小企業に触れて、強くそう思うようになった。せっかくの人材を活かせていないのだ。

次期社長であるTさんと2人きりにしてもらって、本音を聞いた。
さほど業界に詳しくない自分が聞いても厳しい状態だと思うし、ここを継いで会社を良くしていくのは並大抵の苦労ではないと思うが、どうしたいのか?と・・。
Tさんは、盲目的になるでも、見放すでもなく、冷静に、「なんとか良くしていきたい」と答えた。
なので、協力することにした。「一緒に組織を良くしていきましょう」と。

こうして彼の会社のマネジメント再生を手伝うことになった。


組織改善の前段階

自分は別にコンサルティングの仕事の経験があるわけでも、ビジネススクールで学ぶような経営知識があるわけでもない。
しかし、いくつかの組織の運営や立て直しをやることになり、その経験から、経営戦略やマーケティングが成果を及ぼすのは、数で言えばわずかな大企業やスタートアップだけで、ほとんどの組織は、それ以前にできていないことが山のようにあって停滞しているということを知るようになった。
できていないことは、聞いてみれば当たり前と言われるようなことで、報連相ができていないとか、社員が仲が悪いとか、指示系統が決まっておらず、現場が混乱しているとか、そういう類のことだ。

当たり前のことなのでではやればいいのかと思うと、それが難しい。
文化が育っていないところには、施策として何を取り入れてもうまく根付かない。
だから、多くの会社では理念をたてて、組織文化を醸成しようとするのだが、この会社では、理念をたてる以前に、表出している問題がたくさんあった。そして、意欲がなかったり、かつてはやろうと思っていたが諦めたりしてしまっていて、組織改善に向かって動いてくれる仲間がまだ社内にいない状態だった。Tさん自身しか改善に向けて動く人がいない。

なので、まずはTさん自身のレベルアップをはかることを目標におき、組織の課題に一つ一つ向き合いながら対応していくことにした。


相談・人材育成型のアプローチ

この会社に対して、自分が行っている仕事は何だろう?
関わり始めてから数か月が経過したが、まだ定義づけられていない。

自分は、組織課題を炙り出して、それに対するソリューションを提供していくといういわゆるコンサルティング型のアプローチをとらなかった。
それは、前述したように、対処療法的なアプローチをしても、文化が根付いていない限り、表面を取り繕って終わると思ったからだ。
組織の自律は、個人の自律が前提となるということを以前の記事で書いたが、まず経営者であるTさん自身が自律しているマネージャーであるべきだと思った。

詳しく知らないが、これはコーチングに近いのだろうか?
ただ、自分は指導もしていないし、導いているつもりもない。月に1~2回訪問したり、電話したりしながら、一緒に悩んで、話し合う相手になっているだけだ。
直接自分が何らかのアクションをすることはなく、実現するのはTさんであり、Tさんを通して、自分もこの会社の課題と向き合っている。苦を共有する。

研究途上ではあるが、マネジメントは外からの働きかけでできるものではなく、中から発生するのを待つしかないものという確信はあるので、彼が耕され、組織が耕されるのを待ち、そこに理念や様々な施策が打ち立てられるものと思っている。時々自分が介入してやってしまいたくなる時があるが、それはTさんの成長機会を奪うし、どこまで関わるのか、際限がなくなってしまう。
しばらくこのスタイルでやってみようと思っている。

この記事を書いている段階で、関わり始めてから3か月あまり経過しているが、毎週発見の連続だった。
会議室で二人で途方にくれることもあったが、組織には少しずつ変化が起こっている。
Tさんは、本当にすごい人だと思う。話を聞いているだけでもやってられないと思うことも度々あるが、自ら生産現場の仕事を覚えながら、生産管理や工程管理を導入し、経営陣と社員との間に入りながら、大車輪の活躍をしている。本当に頭が下がる。
少しずつ組織に「マネジメント」が芽生えていくのを感じる。

取り組んでいることの内容や過程については、今後たびたびシェアできればと思います。

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