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小さなコトの革命

前回の記事で、業務改善プランナー*の仕事と可能性について紹介したが、今回の記事では、実際に自分が企業に入っていって活動をした際に、どんな様子で、何を考えながらやっていたのかを、状況がわかるように説明していきたいと思う。

*業務改善プランナー・・クラウドワークス社とテクノポート社が連携して実践する「業務改善プロジェクト」で、小規模事業者の支援を行う人。


困っていることは何か

中央線を横断して1時間。ハイキングの時に降りるイメージのある高尾駅でテクノポートの徳山社長と待ち合わせて、車に乗り換えて20分ほど。ようやくH製作所に到着した。
ここは社員5名ほどで営業している板金加工の会社だ。ネットで少量から注文できる気軽さが受けて、小さいながらも業績を伸ばしていた。
工場の2階の事務室に通され、家業を継ぐまでは営業マンだったという、気さくなH社長に挨拶をした。
H社長は、新しい提案に乗ってくれる柔軟な人で、今回、クラウドソーシングを使って業務改善を行うプロジェクトのモニターをやってみないかという提案を二つ返事でOKしてくれた。
徳山さんと話しながら、日々の業務で困っていることを聞く。

この会社には、専任の事務の人がいなかった。
パートの女性含め、みな製造に出ているので、総務・経理・人事全部社長の仕事だ。社長も製造をやりながら、片手間で事務を行っていた。
大きな案件が入り、半年先まで仕事はいっぱいとのことで、本来なら嬉しいことのはずだが、そうも言っていられない状況らしい。
聞けば、バックオフィスだけでなく、注文が入って、作って、出荷するまで、スケジュール管理は社長の頭の中でやっているという。
加えて、会計は期末の決算を経て初めて数字がわかるということで、今必死で仕事はこなしているが、それでちゃんと利益が出ているのかどうか不安なまま仕事をしている。
今の状況がわからないまま経営をしているのは、暗闇の中でライトもなしに車を走らせているようなもので、とても不安なはずだ。
改善の必要性はわかっているものの、日々の仕事に追われて手を付けられず、状況が変わらない状態が続いていることが、言葉の端端から痛いほど感じられた。

このような話を受けて、自分はまず手を付ける点として、
①売上、仕入れ、給与等の経理の入力業務を外に出し、毎月収支がわかる状態にすること
②受注業務の進捗を可視化し、日々の業務のスケジュールが作れる状態にすること
を提案した。

社長も「それができたら毎日が本当に楽になる」という感想で、実施してみることにした。


クラウドソーシングの活用

業務の課題をつかみ、改善事項が定まったら、これをクラウドソーシングで実現する方法を設計する。
H製作所ではクラウドソーシングを使ったことがなかったので、業務の設定、ワーカーの募集、調整までこちらで行う。

まずは、ワーカーの募集だ。
クラウドワークスでは、案件を書き込んで公開し、ワーカーの応募を募ることができる。
今回実施する2件の案件のうち、①経理業務はたくさん候補がいるだろうと想定できたが、②業務のスケジュール管理の方は、案件カテゴリーにも該当職種がなく、ちゃんと集まるのか見込みが立たなかった。
そこで、仕事内容をできるだけイメージしやすくなるように具体的に書いた。初回は訪問してもらって、その後は週1回Web会議をする予定、とか、運用は何も決まっていなかったが、一度これを見てできると思ってくれた人は、決定後の調整がきくことを想定してあえて具体的に書いた。
果たしてどのくらい応募が集まるか・・。

応募を始めて2日、応募者は①経理業務の方は150人を超え、②業務スケジュール管理も20人を超える応募があった。
改めてクラウドワークを行いたい人の多さに驚かされる。
150人も集まると、選ぶのが大変だ。しかも経歴を見てみると、経理としての経験が長い人や、本職の会計士や税理士もいて驚く。
選抜するときは、まず応募者の全体像をつかんでから、msut要件とwant要件を再設定し、最終候補10人くらいに絞って、優先順位の高い人からメッセージのやりとりをして決めることにした。
会計のプロはたくさんいたが、最終的に、freeeの認定アドバイザーで、「中小企業が自分で会計管理できる状態をつくりたい」と自己PRに書いてあった石川県在住の方の考え方に共感して依頼させてもらった。
業務スケジュールは、クラウドソーシングとしては異例だが、始めは顔を合わせて信頼してもらった方がいい(一緒に仕事をしてもらう仲間になってもらう)と思ったので、移動時間なども想定して絞り込んでいった。
H社長にも確認をとり、依頼するワーカーが決まった。

経理業務は事前の書類の準備があるので、後に回し、先にスケジュール管理の人に来てもらうことにした。
駅で待ち合わせたが、約束の時間になっても、それらしい人が現れない。
どうしようかと思っていたところ、念のため教えておいた番号に電話がきて振り返ると、さっきから隣で待っていたおじさんがその人だった。
自分はやりとりの様子からてっきり30代くらいの若い人だと思っていたのだ。。
少し不安を抱きつつ会社に向かったのだが、この定年退職した60代の男性は、かつてメーカーで生産管理を行っていた方で、H社長の状況をすぐに理解してくれた。
顧客や製品を詳しくヒアリングすると、わずか1週間後には、全部の仕掛業務と今後の予定がわかるようになった一覧表を送ってくれた。
業務管理はまず現状が見えるようになることが第一歩。
今回関わってくれた人は、こちらの想定以上にそれができる人だった。

後日、経理業務のフローも構築し、無事進捗する算段が立った。


まとめ~業務改善プランナーの仕事

以上、実際の業務改善プランナーの実践例を少し紹介したが、何社か小規模企業の困りごとを聞いてみると、共通点が見い出せる。苦しんでいることを聞くと、以下の話は必ずといっていいほど出てくる。

①資金繰りの不安
経理業務が追いつかず、年一回の決算後まで財務状況が分からないまま経営している。
②業務管理ができていない
業績管理、事業計画、タスク管理ができていないため、非効率に業務を行っていることが多い。
③慢性的な人手不足
適切な業務分担ができず、一部の人に業務が集中する。また、新規採用したくても手段を知らない。

課題に合わせ、効果の高い施策も代表的なものは以下に集中する。

①会計支援
経理入力業務をクラウドソーシングに出し、会計ソフトを使って、月ごとの財務状況を把握できるようにする。
②業務の進捗管理
まず日々のタスクの洗い出しを行い、書き出して、業務進捗を把握できる状態にする。また、スケジュールを可視化して、今日やらなければいけないことが何なのかを明らかにする。

上記ができるようになると、現状の人員でさばける仕事量が増えていくので、新たな人を増やさなくても回るようになっていく。

①②ができるようになると、組織が円滑に回るようになってくる。
そうすると、新たな課題が見えてくるのだ。
それは、経営層のいびつさだったり、営業戦略の間違いだったり、より本質的な組織の課題だ。
汚れた原因を誰も知らない池があるとして、まず水面に積もったゴミやヘドロを全部すくい取って中が見えるようにすると、水中から湧き出す濁りの原因が見えるようになる。
数字と業務がきちんと把握できることで、組織運営はだいたいの場合うまく回るようになるが、もっと手を付けなければならない課題がある場合、それがクリアに見えるようになる効果はとても大きい。
自分は業務プランナーの役割は、ここまでだと思っている。
その先の対策は、それぞれのプロに任せればいい。
問題がきちんと把握できれば、経営者も投資してでも手を付けるべきことを判断できるだろう。


日常の業務を楽にすることの意義

日常の業務を楽にすることにはどんな意味があるのだろうか?

支援企業で、ある日、せっかく良い流れができ始めていた経理処理が進んでいないことがわかった。
担当の方に滞っている理由を聞くと、営業から回ってくる伝票やFAXの仕分けが億劫でなかなか手をつけられないのだと言う。
「それ、仕分けしなくてもいいように分けてもらってから持ってきてもらえば楽じゃないですか?」
提案すると、担当の方は驚いたように自分を見る。
社内の人間関係とか慣習とかが相まって、当たり前のことが中にいると気づけなかったりする。

その後、パソコンを開いて、アスクルで色違いのレターケースを3つ、目の前で注文してもらった。今その場でやらないとやらないからだ。
これにかかるお金は数百円。
でも、これで書類が再仕分けせずにケースに入った状態で総務に回り、その場でPDF化してDropboxに納めれば、クラウドワーカーがたちまち処理して発注一覧を作ってくれる。
それがすぐに原価に加えられれば、リアルタイムで経理処理ができるようになる。
これで経営者は今の経営状態を間をおかずに把握し、細やかにフィードバックができる体制ができる。
伝票の仕分け作業が早くなることは、経営全体の改善につながっているのだ。

だから、気づいたら一刻も早くレターケースを注文しなければならない。

会社の経営は、日常の積み重ねの上に成り立っている。
部分が変われば、全体が変わる。

日常業務の改善は侮れない。


寄り添うことと、労うこと

業務改善プランナーを務めるにあたって、自分が支援企業でやっていることは、2つの言葉をかけることだけだ。
「今、何か困っていることありますかか?」
「どうなると楽ですか?」
これだけいつも聞いている。

小規模企業では、経営者も従業員も多くの場合疲れている。
疲れている原因は、外から見れば当たり前のことができていなかったり、知らなかったりすることが影響しているのかもしれないし、金額でいったら小さなことが原因なのかもしれない。
でもここで問題の大きさは関係ない。
今、困っているのだからそれを変えなければ意味がないし、そこで売上を2倍にする方法を提案されてもこれ以上がんばるのは無理なのだ。

今困っていることを変えていくと、その影響は足し算ではなく掛け算で現れ、びっくりするくらい大きな変化が現れる。それを見られるのがこの仕事の醍醐味だ。

市場も縮小するし利幅は少ないし、困っていることだらけだが、嘆いている時間があったら目の前のことを1ミリ改善しよう。

そういつも心に言い聞かせて、この仕事に取り組んでいる。

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