「真実」 クロネコと電脳の城17
ガジェは泣いているレンの側に近づいてそっと肩を抱き締めた。
「レン、すまない・・・、お前を苦しめるつもりはなかったんだ」
「ガジェさん、僕は一体誰なの?ガジェさんは僕の何なの?」
レンは縋るような目でガジェを見た。
猫追堂にいる時からずっと疑問に感じていたことだ。
自分は他の人たちと違う。
ガジェさんもレディピンクも、猫やウサギの姿をしているけど、自分は人間の姿をしている。
自分の記憶では昔はみんな人間の姿をしていた気がする。
でもいつの頃からかみんな動物の姿になっていた。
その頃の記憶が曖昧だ。
気づいたらミツキは猫だったし、ガジェさんも猫だった。
親はいなかったし、いつの間にか猫追堂にいるようになっていて、外に出ることもできなくなったんだ。
親と過ごした記憶はあって、幼い頃一緒にサッカーをしたり、キャンプに行ったりした楽しかった思い出もちゃんとある。
でも何故か親の顔が思い出せないんだ。
一緒に過ごした記憶があるのに顔が思い出せない。
記憶の中で両親の顔は黒く塗りつぶされたままだ。
きっとガジェさんは何かを知っていて隠している。
僕のことや両親のことも、全て知った上で僕に黙っているに違いない。
そしてきっとそれは僕に知られてはいけないことなんだろう。
でも、それでも、僕には聞く権利があると思う。
僕には自分のことを知り、自分の進むべき道を決める権利があるはずなんだ。
「ガジェさん、教えてよ。僕は一体何者なの?」
「・・・・・。」
ガジェは迷っていた。
レンに本当のことを話すべきか。
自分の存在に疑問を感じているのだから、もう話さざるを得ないことはわかっている。
わかってはいるが、レンが事実を受け止められるかが不安だった。
「ガジェ、この子には自分のことを知る権利がある。そしてその時は今なんじゃないのかい?」
レディピンクが諭すように言ってきた。
その通りだ。
わかっている。
でもこれは俺たちの問題だ。
お前に言われることではない。
心の中でそう呟いたが、口から出た言葉は違っていた。
「レン・・・、お前は俺の息子だ・・・・。俺はお前の父親だ」
涙が溢れているレンの目を見つめながら、絞り出すように呟いた。
「!?・・・やっぱりそうだったんだね。ガジェさん・・・、いや父さん!」
そう言ってレンはガジェにしがみついて大声で泣いた。
泣きじゃくるレンをガジェは強く抱き締め、頭を撫でてやった。
「ごめんな、レン。今まで黙っていてごめん」
「どうして・・・、どうして黙っていたの?」
「・・・・親として一緒にいれば、お前に本当のことを伝えなければいけなくなるからだ」
「本当のこと?」
「そうだ、俺たちは動物の姿をしているが、お前は人間の姿をしている。何故なのか」
「そう、それが一番気になっていたんだ。父さんたちは猫や鳥やウサギの姿なのは何故なの?なぜ僕だけが人間なの?」
「それはここがリアルではないからだ」
「リアルじゃない?」
「ここは電脳世界という仮想現実の世界なんだ。だからみんな現実とは違う動物の姿をしているんだ」
「電脳世界?仮想現実?・・・な、何を言っているの?全然意味がわからないよ」
「そうだろうな。現実世界を知らないお前にとっては、この世界こそがリアルなんだから当然だ。でもレン、よく聞くんだ。世界は二つあって、今いるこの世界は現実ではなく仮想世界なんだ。人間はみんな現実の世界にいて、仮想世界では動物のアバターを使って生活しているんだよ」
「じゃ、じゃあ現実世界の僕は?この世界が仮想の世界で、みんな実際は現実世界に住んでいるんだったら、父さんも僕も現実世界にいるってことだよね。僕は、僕には現実世界での記憶なんかないんだ。現実世界の僕はどうなっているの?」
「ああ、、、だから、、、、こうなるから黙っていたんだ・・・・」
ガジェは苦悩して頭を抱えた。
表情がみるみる歪んでいく。
「ごめん、レン、、、。お前は、、、現実ではもう死んでるんだよ・・・・・」
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