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I love youを「月が綺麗ですね」と翻訳した夏目漱石に何年経っても涙する
満月の日は、いつも眠い。でも、天気も良く綺麗な月が見える日は、まどろみの中にも幸せな明るさがある。
そんなわけで、今日は月に関することを書きたくなった。
のんびりと読書をしていた、土曜日の昼下がり。
『無』という本に、興味深いことが書いてあった。
感情の粒度が高い人の方が、セルフコントロールがうまいのだそうだ。自分の感情をきちんと言語化できると、脳が混乱しづらくからだと。
「感情の粒度」を高める方法は2つ。
①新しい言葉を学ぶ
②感情ラベリングを行う
わたしが今いろんな本を読んで語彙力を高めたり、日々思ったことを記録しているのは、ここで役に立っていたのか。
最近『翻訳できない世界のことば』という本にはまっているのも、きっとわたしの脳がいろんな表現を学びたがっているからだと気づいた。
このことを共有したくて、近くにいる夫に話した。
そこでふと、かの有名な夏目漱石のエピソードがわたしの心に浮かんだ。
I love youを、「月が綺麗ですね」と訳したことだ。
思い出した途端に、なぜか涙が溢れてきた。
初めて学校でこのエピソードを聞いたときも、「すごい!」と感動し、胸がどうしようもなく昂り、目を潤ませていたことを思い出す。
10年以上経っても、なぜこのエピソードは、わたしの心をここまで震わせるのだろう。
「どうしたの?」「今、どんな気持ちで泣いてるの?」と夫に聞かれたことや、
感情をきちんと言語化することで脳が混乱しないと本にも書いてあったことが、わたしに深く考えるきっかけをくれた。
今までは「すごい」としか表現していなかったけれど、今回はきちんと自分の言葉で表現したい。
想像力の豊かさ
この翻訳のすごいところは、日本人の性格や文化的背景を存分に反映している、想像力の豊かさだと思う。
普通に直訳すれば、「あなたを愛している」となるところだが、当時の日本人がそのように直接言うことは、きっと恥ずかしいと感じるだろう。
愛する人に愛していると伝えたいとき、綺麗なものを「綺麗だね」と愛する人と共有したい、あなたと一緒に見たいという感情を、きっと漱石は想像したのではないだろうか。
そして、どこにいても、誰もが見れるものの代表として、「月」を使ったのがまた日本人の美学だなとわたしは思う。
太陽のように明るすぎず、空のように、場所によって変化しすぎるものではない。
太陽に照らされれて夜に輝く、控えめだけれど美しい月が、日本人の奥ゆかしさをも語っているのではないだろうか。
それに、愛を伝えたくなる場面として、賑やかな昼間から離れてひとりになり、うら寂しくなったときの想いも、漱石は想像していたかもしれない。
いろんな情景をたった一文に込めた漱石は、やっぱりすごい。
日本語の美しさ
「月が綺麗ですね」のエピソード以外にも、似たような気持ちになったことが以前ある。奇しくも同じ月に関することだ。
わたしがアメリカに実習で1か月間行っていたときのこと。もう実習も終盤で、帰国の日が迫ってきていた。
そのときお世話になった日本人の方の車の中で、中島美嘉が歌う『朧月夜』が流れていた。
この美しさには、完全に不意打ちをくらった。
英語に溢れている生活の中、ふっと耳に入ってきた美しい響き。
脳裏に浮かぶ、日本の懐かしい原風景のような景色。
日本人のDNAがぶわーっと蘇ってきた気がして、鳥肌がたった。涙を隠すために窓の外のハイウェイを見るともなく見ていた。
母国語だから、よく聞こえたのかもしれない。
そろそろホームシックになっていたのかもしれない。
わたしは異国も、異国の言葉も大好きだ。でもこのとき確かに「日本語ってこんなに美しいんだ」と感動した。
この朧月夜の歌詞を英語に訳しても、わたしの力では薄っぺらいものにしかならない。
日本語の持つ美しさや深みを存分に発揮させた漱石は、やっぱりすごい。
この涙を忘れない
日本の文化と美しさと、あらゆるものが「月が綺麗ですね」の一文に込められている。
言うなれば、海外映画の吹き替えではなく、テーマは同じ映画で日本版にリメイクをしたような感じだろうか。
そして何年経っても、わたしに感動を与えてくれる。
漱石は、やっぱり「すごい」のだ。
心からの感謝と敬意を表したい。
わたし自身も、このエピソードに涙したことを忘れず、美しいものを美しいと感じる感性をさらに育んでいこう。
空高くから見守る満月の光を浴びながらそんなことを思った。
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