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好きな服を着ているだけで、少しは気分よくいられる。

昨日とは打って変わって、空には水気を多く含んだ雲が広がり、もったりとした重い空気がただよっている。じめじめした雨の季節が近づいてきていることを肌で感じる。湿度が高いせいで蒸し暑く感じるが、エアコンをつければ間違いなく寒くなってしまうため、ここは扇風機を駆使することで折り合いをつけて、もうしばらくやり過ごしていくしかない。

午後には、ついに雨が降り始める。雨が降っても少しも涼しくならない。それが、日本が誇る梅雨の醍醐味だ。そろそろ、食べ物をテイクアウトするときには気をつけなければならない。

夕方、車で出かける。思い切って、先週半ばから営業を再開した服屋をのぞきに行くことにした。秋冬シーズンに買ってたいへん気に入ったブランドの、春夏ものが入荷したという知らせを受けていたのだ。

本当は、今、この時期に出歩くことには積極的な気持ちがもてなかった。でも、昨日、久しぶりに、ちょっと気分の上がる服を選んで思ったのだ。たとえ大した場所に出かけられなくても、好きな人たちに会えなくても、好きな服を着ているだけで少しは気分よくいられるのだ、と。その最後のところは諦めなくてもよいのではないか、と。それに、お店のほうも、せっかく再開したのにお客が来ないのは厳しい。お互いにきちんと感染防止に気をつけたうえで、買い物をしてみようと思った。

雨降りの月曜日の夕方。思ったとおり、まちを歩く人の姿は少なく、お店にいるのは店員さんただ一人だけだった。開けっぱなしのドアをそっとくぐり、こんにちはと言いながら中に入る。事務作業をしていたのか、店員さんは慌てて台の上を片づけ、わたしを迎えてくれた。

目当ての服を出してもらって、距離を取りながら、店員さんと話をする。家族以外とこんなに長く話すなんて、どれだけぶりだろうか。服を間にはさんで店員さんと交わす、たわいのない話が楽しい。何着か試着をして、リネンの羽織ものを選ぶ。長袖だけどさらっとしたリネンだから、冷房よけも兼ねて、夏の間も使えるものになるだろう。たとえどうでもいいかっこうをしていても、これを羽織るだけで、ぐっとさまになるはずだ。

残りの外出自粛期間と、これからの新しい日々を、わたしはこの服と一緒に乗り越えていきたい。

(2020年5月18日)

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