
58. 運動会
可奈と会えるようになって少しずつ力を取り戻した私は、趣味のキルトやダンス教室を再開し始めた。
当たり前だけど『子どもと会える』ことはパワーの源であり、逆にいうと会えないことは全てのエネルギーを奪う。
私はやっとバランスを取り戻し、夜は眠れるようになってきた。
裕太は「月に〇回、〇時間」などの決め事はしたくないと言い、土日のどちらか、タイミングが合えば裕太も一緒に3人で会うことになった。
他にも、可奈の「通院」が月に1回程度、平日に行われたので同行するようになった。
いつも午前中に落ち合ってランチをして、夕方には帰った。
なるべくお弁当を作るようにして、母の味を思い出してもらおうと努めた。
可奈が喜ぶように、とキャラ弁にも挑戦した。
公園や市民館、ファミレスや水族館と、可奈を飽きさせないように様々な場所を提案した。平均で月に2~4回は会っていたと思う。
「こないだ花束作ってたの、あれ。良かったよ。」
初回の試行面会のあとに裕太に言われた。どうやら私は「試験」に合格したらしい。
何も言われなかったけど、会計時にはなるべく私から支払いを済ませることにした。裕太に得るものがあり、次回に繋がるように。弁護士や裁判費用に比べたら安いものだ。
☆
そのうち「幼稚園の運動会があるから来て。」と声がかかった。可奈が「ママも来て欲しい」と頼んだようだ。
裕太が先生たちに「母親から虐待を受けていた」と説明していたそうなので気が引けたけど、可奈の運動会で頑張る姿が見たかったので、行くことにした。
初めて行く可奈の幼稚園だ。そこは、私が以前可奈を探しに行った園ではなかった。ぞろぞろと体操着を着た園児たちが親御さんに手を引かれて園庭に入っていく。なんだかワクワクがこっちまで伝わってくるようだ。
裕太には「先生方にちゃんと紹介して」と伝えていたので、担任の愛先生が通りかかった時に「先生、可奈の母親です。」と紹介してくれた。
先生は私達の事情は気にしていなかったようで、むしろ突然紹介されて驚いているようだった。そして、可奈がニコニコしているのを見て、
「可奈ちゃん、嬉しそうだね〜!」
と言ってくれた。
良かった。案ずるより産むがやすしだ。
他の子どもたちは、私の姿を見るととても驚き、会場がザワザワした。わざわざ私の顔を見に来る子までいた。
可奈は幼稚園の中で「お母さんがいない、珍しい子」と子どもたちからも思われていたのだ。その姿を思うと胸が苦しくなった。
女の子が1人、近づいてきて「かなちゃん、お母さんいたんだ~」と言った。
可奈はどう反応するんだろう。不安に思い可奈を見ると、可奈は手を伸ばして
「わたしのママだよ!」
と誇らしげに紹介してくれた。とっても嬉しそうだった。良かった・・!!
初めて見る体操着姿の可奈。きちんと体育座りをしていて、ちゃんと並んでお遊戯をしたりしていて、なんだか不思議だった。
やっと見れた、可奈の幼稚園姿。
成長を喜ぶと共に、空いてしまった時間の大きさを感じた。
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