VS うつカノジョ(1)

「ただいまー」

家に帰ってきた今日の光景は朝からなんにも変わっていなかった。

廊下からリビングに続く扉をあけるとカーペットに打ち上げられた彼女、ウツカの姿があった。

毛布にくるまって、くるまってと言っても足を折りたたんでいる訳ではなくうつ伏せでまっすぐな状態で毛布に包まれてる?といった感じだ。

これを蓑虫(みのむし)と例えるかクロワッサンと例えるか肉巻きウィンナーと例えるか突っ込み方を迷ってる間に

「今日なんもしてないよぉ~」

と蓑虫かクロワッサンか肉巻きウィンナーかから声が聞こえた。
大丈夫、朝出た時と同じ格好だったから何となく察しはつく。

「じゃー、今日はなんもしてない事をしてる日やなー。」
「なんかそれ誰かも言ってたな~。BTSかな、テミンかな。"何もしないことをしよう〜"っていってたよー。何もしないことをしようってゆってる時点で何もしないことをしてるやん。じゃーなんもしなかったらえんちゃん、でもそれをしてるからしてるんか。してない事をせんかったらえんちゃん。でもそれやったらしてるんか。うーん?なにゆってんやろウツカ」
「今日はぼーっとする日やなぁ。スーパー行ってくるけど行く?」
「んぇー、」

「じゃーとりあえず行ってくるけどなんかいる?」
「おかしぃ」

いや食材とかじゃないんかい、と思いながらちょっと悪事を働く前のモブキャラのような顔をウツカに向け、リビングを後にした。

リュックを背負い玄関を出ていつも使っている白いロードバイクに跨る(またがる)と特に何を聞くわけでもなくイヤホンを付ける。
曲を流す時の方が圧倒的に多いのだがたまに何も流れていないイヤホンを付けたまま目的地にたどり着く時がある。
今日はその「たまに」の日だったようだ。

ロードバイクから降りるとカゴを取りカートに載せ、自動ドアが開いていくのを感じながら携帯を取り出す。買い物リストが写真アプリに入っているからだ。

我ながらこれは撮った意味があるのだろうかと思いながら1番近い調味料売り場へ向かう。
ひとまずメモに書いてあるモノをカゴに入れ、入口付近に戻り、何となくほしいと思う物を入れていく。
最低でも店内を2回は往復しなければならないが、実はこの方法が1番効率がいいのだ。

数日前から大根とひき肉のそぼろ煮が食べたかったのでそれらと何となくカレイ、あと頼まれてたお菓子をカゴに入れてレジに向かった。
会計が終わりリュックに詰め、再度ロードバイクにまたがって漕ぎ始める。

家に着いた。玄関を空けながら蓑虫なうかなぁと思い終わるくらいにリビングが視界に入ってくる。

蓑虫だった。

買ってきたお菓子を軽くチラつかせ、冷蔵庫に物を放り込んでいく。

「とりあえず今からブログ書くわぁ」
「あ゛~忘れてたぁウツカもやろ~」

ウツカはなにをするんだろうと横目に思いながら僕は携帯を開いて今日あったことを書いているのだが、困ったことがあるとすぐ聞いてくるから今もウツカが迷うことがある度に僕の手が止まる。
まぁこれもいつも通りってやつ。

今日から気が向けばこうやって僕達の日常を文字にしようと思う。
あくまで気が向けば、だ。

もうすぐ終われそうなのにウツカは

「アンダー ザ サンアンダーザサンって何回も言ってたらあんたさァってきこえるんちゃん!」

と新しい空耳を発見したようだ。

そんな今日は付き合ってから7ヶ月にあたる日だった。


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