2022阪大国語(文学部)/第二問/解答速報
【2022阪大国語(文学部)/第二問/解答速報】
出典は黒井千次の小説「声の山」。
問一「左の手首が頼りなく軽かった」(傍線部(1))のはなぜだと思われるか、その理由を説明しなさい。(4行)
〈GV解答例〉
父から失くしたものはないかと唐突に問われ、実際に父の反対を押して買ってもらった腕時計を紛失し、父に叱られるのを恐れていたので、その気持ちを見抜かれているようで、左手首にそれが無いのが心許なかったから。(100)
〈参考 S台解答例〉
ようやく買ってもらった腕時計を紛失したことで叱られることを恐れていた五郎は、失くしたものはないかと突然父に問われ、見透かされていたかのような驚きを感じ、答えることもできないまま、父が事情を知っているのではないかと不安に思い、山登りの装備として腕時計をしていないことを気にしていたから。(142)
〈参考 K塾解答例〉
親にねだってようやく買ってもらった腕時計を紛失し、それをいつ父親に指摘され叱られるかと恐れていたが、父と二人きりで登山に出かけることになり、そこにあるべき時計が手から失われたままであることが強く意識されたから。(105)
〈参考 Yゼミ解答例〉
ねだって買ってもらった腕時計を失くしてしまった五郎は、それを知られて叱られることを怖れていたが、父が失くした物について聞いてきたために、父のは既に知っているのではないかという疑念も生じ、腕時計をしていないことが強く意識されたから。(115)
問二「急に自分がいやになって五郎は唇を噛んだ」(傍線部(2))について、五郎が「急に自分がいやにな」ったのはなぜだと思われるか、その理由を説明しなさい。(4行)
〈GV解答例〉
失踪者が戻るという父の話に着想を得、腕時計と告げずに山に叫びそれを密かに取り戻そうと願ったが、声量を上げ発声を変え繰り返しても山に響かないので、自己の疾しさを馬鹿にされ拒絶されているように感じたから。(100)
〈参考 S台解答例〉
探したい人や物の名を呼んで反応があると消息を知らせてくれると言う伝承を父から聞いて、腕時計の紛失を気に病んでいた五郎は、その名を隠したまま声を上げた。しかし、さらに大声で叫んでも何の反応もなかったので、馬鹿にされたような気や、なにかいけないことをしたような気がして、突然自己嫌悪におそわれたから。(148)
〈参考 K塾解答例〉
人を探す時など、山に向かって声を出せば山が応えてくれるという話に興味を覚え、自分も叫んでみたものの何の反応も無く、試みた自分が愚か者のように感じられただけでなく、山の雰囲気を壊してしまったように思ったから。(103)
〈参考 Yゼミ解答例〉
見つけたい人や物の名前を呼ぶと見つかるという伝承を父に教わった五郎は、腕時計とは言わずに叫んだが、声量を上げても何の反応もなかったために、本当のことが言えないまま大声を上げている自分が愚かなことをしているような気になったから。(113)
問三「弱い獣のようにぴんと立てた五郎の耳に短い響きがきこえた」(傍線部(3))において、「弱い獣のようにぴんと立てた」という表現にはどのような効果があるのか、説明しなさい。(4行)
〈GV解答例〉
消失を思わせる言葉を残し場を離れ、その後なかなか戻らない父を待ち山で一人不安を募らせる五郎の心情を、五感を澄まして周囲を警戒しつつ良い兆しを待つ獣の姿と重ね、読者がありありと連想できるように促す効果。(100)
〈参考 S台解答例〉
大人ぶってもまだ幼さを残す五郎は、行先をはっきり言わないまま再び山道に入った父を待つうち、自分でもよく分からない不安を感じ始めた。そんな五郎が、父の姿を想像しながら周囲の物音にさえ敏感になっている様子を、比喩と擬態語を用いた「耳」の形象化に、「耳を立てる」という慣用句を重ねることで効果的に表現している。(152)
〈参考 K塾解答例〉
なかなか戻らない父を一人で待つうちに得体の知れない不安が兆し、見知らぬ世界に父が引き込まれるかのような夢幻に脅かされ、小動物のように、周囲の僅かな変化を察知しようと感覚を研ぎ澄ませていく様子を描き出す効果。(103)
〈参考 Yゼミ解答例〉
「弱い獣」は、行く先が判然としない父がなかなか帰ってこないため、父が遠くへ行ってしまった想像をしながら待っている幼い少年の不安と心細さを、「ぴんと立てた」は、周囲の僅かな音も聞き逃すまいとしている緊張感と怯えを表現している。(112)
問四 なぜ五郎は「その父は今迄の父とはなにかが少し違うかもしれない」(傍線部(4))と思ったのか、その理由を説明しなさい。(4行)
〈GV解答例〉
側を離れる前の父の言葉に大切なものを取り戻そうとする父の決意を読み取るとともに、自らを大人として位置づけたことで父を庇護者としてでなく、対等な人格として尊重する構えが五郎のうちに備わりつつあったから。(100)
〈参考 S台解答例〉
突然、父には大きな喪失体験があるのではないかという確信的な考えにとらわれた五郎は、取り戻すことを願って父が叫んだように思った。大人には子供には言えない事情や内面があり、自分はそんな父を待つしかないと自覚した五郎は、子供としての立場でしかとらえられていなかった父にこれまでとは異なる人間像を感じているから。(152)
〈参考 K塾解答例〉
父は自分にとって大切な何かを見失い、失ったものを取り戻そうとする者を惹きつける山でそれを探している。父と再会できたにせよ、そんな幻の探索から戻った父はどこか違和感を抱かせる人に変質しているに違いないと感じるから。(106)
〈参考 Yゼミ解答例〉
父を待つうちに、父は過去に大切な何かを喪ったのかもしれないという考えが突然生まれ、それを探してさまよっている父を幻想の中で思い描いた。その想念に囚われた五郎は、父が神秘的な世界で今までにない経験をして帰ってくると思ったから。(113)
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