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2023共通テスト/国語/第2問(小説)

【2023共通テスト/国語/第2問(小説)/解答解説】

出典は梅崎春生「飢えの季節」(1948年発表)。近年のセンター試験・共通テストの第2問では、戦中から戦後にかけて書かれた小説が頻出している(2019上林暁「花の精」(1940)、2020原民喜「翳」(1948))。また2019年以降、「私」の内面を掘り下げる型の小説が続いている。前書きに「第二次世界大戦の終結直後、食糧難の東京が舞台である。いつも空腹の状態にあった主人公の「私」は広告会社に応募して採用され、「大東京の将来」をテーマにした看板広告の構想を練るように命じられた。本文は、「私」がまとめ上げた構想を会議に提出した場面から始まる」とある。

1️⃣ 私が無理矢理に拵え上げた構想の中では、都民のひとりひとりが楽しく胸をはって生きてゆけるような、そんな風の都市をつくりあげていた。私がもっとも念願する理想の食物都市とはいささか形はちがっていたが、その精神も少からず、この構想には加味されていた。たとえば緑地帯には柿の並木がつらなり、夕昏散歩する都民たちがそれをもいで食べていいような仕組になっていた。…このような私の夢が飢えたる都市の人々の共感を得ない筈はなかった。…私はそう信じた。だから之を提出するにあたっても、私はすこしは晴れがましい気持でもあったのである。
会長も臨席した編輯会議の席上で、しかし私の下書きは散々の悪評であった。悪評であるというより、てんで問題にされなかったのである。…私の下書きを一枚一枚見ながら、会長はがらがらした声で私に言った。「こんなものを街頭展に出して、一体何のためになると思うんだね」。「そ、それはです」と私はあわてて説明した(傍線部A)。「只今は食糧事情がわるくて、皆意気が衰え、夢を失っていると思うんです。だからせめてたのしい夢を見せてやりたい、とこう考えたものですから──」。…しばらくして会長は吐き出すように口を切った。「現在何が不足しているか。理想の東京をつくるためにはどんなものが必要か。そんなことを考えるんだ。たとえば家を建てるための材木だ」「材木はどこにあるか。どの位ストックがあるか。そしてそれは何々材木会社に頼めば直ぐ手に入る、とこういう具合にやるんだ」「明るい都市? 明るくするには、電燈だ。電燈の生産はどうなっているか。マツダランプの工場では、どんな数量を生産し、将来どんな具合に生産が増加するか、それを書くんだ。電燈ならマツダランプにという具合だ。そしてマツダランプから金を貰うんだ」…
佐藤や長山アキ子や他の編輯員たちの、冷笑するような視線を額にかんじながら、私はあかくなってうつむいていた。飛んでもない誤解をしていたことが、段々判ってきたのである。思えば戦争中情報局と手を組んでこんな仕事をやっていたというのも、憂国の至情にあふれてからの所業ではなくて、たんなる儲け仕事にすぎなかったことは、少し考えれば判る筈であった。そして戦争が終って情報局と手が切れて、掌をかえしたように文化国家の建設の啓蒙をやろうというのも、私費を投じた慈善事業であるはずがなかった。会長の声を受けとめながら、椅子に身体を硬くして、頭をもたれたまま、「私はだんだん腹が立ってきたのである」(傍線部B)。…ただただ、私は自分の間抜けさ加減に腹を立てていたのであった。

2️⃣ その夕方、私は憂欝な顔をして焼けビルを出、うすぐらい街を昌平橋の方にあるいて行った。あれから私は構想のたてなおしを命ぜられて、それを引受けたのであった。しかしそれならそれでよかった。給料さえ貰えれば始めから私は何でもやるつもりでいたのだから。憂欝な顔をしているというのも、ただ腹がへっているからであった。膝をがくがくさせながら、昌平橋のたもとまで来たとき、私は変な老人から呼びとめられた。…
「昨日から、何も食っていないんです。ほんとに何も食っていないんです。だった一食でもよろしいから、めぐんでやって下さいな。旦那、おねがいです」。老人は外套も着ていなかった。…身体が小刻みに動いていて、立っていることも精一杯であるらしかった。老人の骨ばった指が私の外套の袖にからんだ。私はある苦痛をしのびながらそれを振りはらった。「ないんだよ。僕も一食ずつしか食べていないんだ。…とても分けてあげられないんだよ」「そうでしょうが、旦那、あたしは昨日から何も食っていないんです。何なら、この上衣を抵当に入れてもよござんす。…ねえ。旦那。お願い。お願いです」。頭をふらふらと下げる老爺よりもどんなに私の方が頭を下げて願いたかったことだろう。あたりに人眼がなければ私はひざまずいて、これ以上自分を苦しめて呉れるなと、老爺にむかって頭をさげていたかも知れないのだ。しかし私は、「自分でもおどろくほど邪険な口調で、老爺に答えていた」(傍線部C)。「駄目だよ。無いといったら無いよ。誰か他の人にでも頼みな」。

3️⃣ 暫くの後私は食堂のかたい椅子にかけて、変な臭いのする魚の煮付と芋まじりの少量の飯をぼそぼそと噛んでいた。しきりに胸を熱くして来るものがあって、食物の味もわからない位だった。私をとりまくさまざまな構図が、ひっきりなしに心を去来した。毎日白いご飯を腹いっぱいに詰め、鶏にまで白米をやる下宿のあるじ、闇売りでずいぶん儲けたくせに柿のひとつやふたつで怒っている裏の吉田さん。高価な莨をひっきりなしに吸って血色のいい会長。鼠のような庶務課長。膝頭が青白く飛出た佐藤。長山アキ子の腐った芋の弁当。…ただ一食の物乞いに上衣を脱ごうとした老爺。それらのたくさんの構図にかこまれて、朝起きたときから食物のことばかりを妄想し、こそ泥のように芋や柿をかすめている私自身の姿がそこにあるわけであった。こんな日常が連続してゆくことで、一体どんなおそろしい結末が待っているのか。「それを考えるだけで私は身ぶるいした」(傍線部D)。食べている私の外套の背に、もはや寒さがもたれてくる。もう月末が近づいているのであった。かぞえてみるとこの会社につとめ出してから、もう二十日以上も経っているわけであった。

4️⃣ 私の給料が月給でなく日給であること、そしてそれも一日三円の割であることを知ったときの私の衝動はどんなであっただろう。それを私は月末の給料日に、鼠のような風貌の庶務課長から言いわたされたのであった。庶務課長のキンキンした声の内容によると、私はしばらくの間は見習社員というわけで、実力次第ではこれからどんなにでも昇給させるから、力を落さずにしっかりやるように、という話しであった。そして声をひそめて、「君は朝も定刻前にちゃんとやってくるし、毎日自発的に一時間ほど残業をやっていることは、僕もよく知っている。…だから一生懸命やって呉れたまえ。君にはほんとに期待しているのだ」。私はその声をききながら、私の一日の給料が一枚の外食券の闇価と同じだ、などということをぼんやり考えていたのである。日給三円だと聞かされたときの衝動は、すぐ胸の奥で消えてしまって、その代りに、私の手足のさきまで今ゆるゆると拡がってきたのは、水のように静かな怒りであった。私はそのときすでに、此処を辞める決心をかためていたのである。課長の言葉がとぎれるのを待って、私は低い声でいった。「私はここを辞めさせて頂きたいとおもいます」。なぜ、と課長は鼠のようにずるい視線をあげた。「一日三円では食えないのです。食えないことは、やはり良くないことだと思うんです(傍線部E)」。そう言いながらも、ここを辞めたらどうなるか、という危惧がかすめるのを私は意識した。しかしそんな危惧があるとしても、それはどうにもならないことであった。私は私の道を自分で切りひらいてゆく他はなかった。ふつうのつとめをしてはいては満足に食べて行けないなら、私は他に新しい生き方を求めるよりなかった。…「君にはほんとに期待していたのだがなあ」。
ほんとに期待していたのは、庶務課長よりもむしろ私なのであった。ほんとに私はどんなに人並みな暮しの出来る給料を期待していただろう。…しかしそれが絶望であることがはっきり判ったこの瞬間、「私はむしろある勇気がほのぼのと胸にのぼってくるのを感じていたのである」(傍線部F)。その日、私は会計の係から働いた分だけの給料を受取り、永久にこの焼けビルに別れをつげた。電車みちまで出てふりかえると、曇り空の下で灰色のこの焼けビルは、私の飢えの季節の象徴のようにかなしくそそり立っていたのである。

〈設問解説〉
問1「私はあわてて説明した」(傍線部A)とあるが、このときの「私」の様子の説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

心情説明問題。「あわてて」という心情に至る経緯を説明するとよい。まず前提となるのは会社から求められた看板広告の構想において、「私がもっとも念願する理想の食物都市とはいささか形はちがっていたが、その精神も少からずこの構想には加味されていた/私の夢が飢えたる都市の人々の共感を得ない筈はなかった/私はすこしは晴れがましい気持でもあった」という点。この点を抑えた選択肢は前半を「都民が夢をもてるような都市構想なら広く受け入れられると自信をもって提出しただけに」としている①のみ。後半の「構想の主旨を会長から問いただされたことに戸惑い、理解を得ようとしている」も「あわてて」の前後の展開に沿っており適切。よって正解は①。
②は「重要な会議の場で…認められようと張り切って作った構想が」というのが先程の前提からズレていて不適切。⑤は「「私」の理想の食物都市の構想」が明確に誤り。それとは「いささか形はちがっていた」のである。③は「自分の未熟さにあきれつつ」、④は「都民の現実を見誤っていたことに今更ながら気づき」がそれぞれ不適切。こうした気づきは少なくとも傍線部の地点ではない。小説において、時間的な前後関係の判定は重要になる。


問2「私はだんだん腹が立ってきたのである」(傍線部B)とあるが、それはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

理由説明問題(理由となる心情)。「腹が立ってきた」直接の理由については、文脈を少し後ろにたどれば「ただただ私は自分の間抜けさ加減に腹を立てていたのであった」という記述が見つかる。ここから選択肢の締めを横に見て、③「自分の無能さがつくづく恥ずかしくなってきた」、④「自分の安直な姿勢に自嘲の念が少しずつ湧いてきた」、⑤「自分の愚かさにようやく気づき始めた」が残る。後はその「間抜けさ」の理由について、傍線部の前に根拠を求めるとよい。すなわち、会長の声を受けとめて「思えば戦時中情報局と手を組んでこんな仕事をやっていたというのも…たんなる儲け仕事にすぎなかった/そして戦争が終わって情報局と手が切れて…文化国家の建設の啓蒙をやろうというのも…慈善事業であるはずがなかった」と理解したからである。それなのに、問1で考察したように「私」は自らの構想が都民の夢にも叶うものだと考えていた。そうした自分の勘違いを「間抜け」だと感じ「腹が立っ」たのである。ここから⑤「戦時中に情報局と提携していた会社が純粋な慈善事業を行うはずもないことに思い至らず、自分の理想や夢だけを詰め込んだ構想を誇りをもって提案した〜」が正解となる。
③は「会社が社員相互の啓発による競争を重視していることに思い至らず」という勘違いポイントがズレていて不適切。④は勘違いポイントは踏まえているが、「飢えの解消を全面に打ち出す提案をした」が明確に誤り。問1で考察したように「私」は自分の夢と重ねて都民の夢を語っていたつもりでいたのである。


問3「自分でもおどろくほど邪険な口調で、老爺にこたえていた」(傍線部B)とあるが、ここに至るまでの「私」の心の動きはどのようなものか。その説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

心情説明問題。「おどろくほど邪険な口調で(Y)」に至る「私」の心の動きを説明する。着地点Yと全選択肢の締めの箇所を対応させると、②の「自分へのいらだち」はいらだちの向かう対象(→老爺)を明らかに取り違えていてこの地点で落ちる。①「いらだった」、②「嫌悪感」が「邪険」と直接対応しているのに対し、⑤の「衝動」は「おどろくほど」という表現に含まれる無意識性と対応しているともとれる。いずれにしろここでは決めず、Yという無意識で意外な反応へと転じる、その前段階の「私」の意識Xを指摘するとよい。
そのXに当たるのは、傍線部を含む一文を導く「しかし」の前部「私の方が頭を下げて願いたかった/これ以上自分を苦しめて呉れるなと」(X1)。さらに、間の言葉のやり取り(Z)を挟んで、その前部「老人の骨ばった指が私の外套の袖にからんだ。私はある苦痛をしのびながらそれを振りはらった」もXに相当する(X2)。このXを表現している選択肢は、④「罪悪感を抱いていた」、⑤「苦痛を感じながら耐えていた」。このうち、④は「後ろめたさに付け込み、どこまでも食い下がる老爺」が不適切。そうした記述がない以上、老爺の方が「私」の内面を読み取ったと見ることはできない。正解は⑤「…老爺の懇願に応じることのできない「私」は、苦痛を感じながら耐えていたが(X2)、なおもすがりつく老爺の必死の態度に接し(Z)、彼と向き合うことから逃れたい衝動に駆られた(X1→Y)」。


問4「それを考えるだけで私は身ぶるいした」(傍線部D)とあるが、このときの「私」の状況と心理の説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

心情説明問題。「状況」を整理し、それに相応する「心理」を導くのは小説問題の基本的姿勢である。本問については「私」に「身ぶるい」(恐ろしさを伴う身体的表出)をもたらす「それ」の「状況」と「心理」を説明するとよい。すなわち「それらのたくさんの構図にかこまれて(a)/朝起きたときから食物のことばかり妄想し(b)/こそ泥のように芋や柿をかすめている私自身の姿がそこにあるわけであった(c)/こんな日常が連続していくことで(c)/一体どんなおそろしい結末がまっているのか(d)」。aの「それら」については長い引用は省くが、要は戦争直後の「私」の日常風景においても、一方の極には飽食と吝嗇があり、一方には底知れない困窮と卑屈があるという構図のことである(a)。この内容を過不足なくトレースした選択肢が正解の①「貧富の差が如実に現れる周囲の人びとの姿から(a)/自らの貧しく惨めな姿も浮かび(c)/食物への思いにとらわれていることを自覚した「私」は(b)/農作物を盗むような生活の(c)/先にある自分の将来に思い至った(d)(→身ぶるい)」。
他の選択肢は「それ」の内容を過不足なく表現していないし、②③⑤については締めの記述に明確な誤りがある。その点④の「さらなる貧困に落ちるしかないことに気づいた」はdを踏まえているとしても、その前の「会社に勤め始めて二十日以上経ってもその構想から抜け出せない自分が」という記述が不適切。傍線部の後ろの記述「かぞえてみるとこの会社につとめ出してから、もう二十日以上も経っているわけであった」を踏まえているわけだが、これは傍線部より時間的に後にくる気づき(反省)である。再度、小説においては、時間的な前後関係の判定が重要になる。


問5「食えないことは、やはり良くないことだと思うんです」(傍線部E)とあるが、この発言の説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

心情説明問題。傍線部の発言は庶務課長の発言に対する応答だから、庶務課長の発言の内容から吟味する必要がある。「私」は月末の給料日に「私」の給料が日給で、一日三円の割であることを言いわたされ「衝動」に駆られる(a)。その話によると、しばらくの間は見習い社員だが、実力次第で昇給が可能だ、ということであった(b)。「君は朝も定刻前にちゃんとやってくるし、毎日自発的に一時間ほど残業をやっている(c)…君にはほんとうに期待している(b)」、その声を聞きながら、先ほどの「衝動」は「静かな怒り」に代わる。そして辞意を告げた後に続くのが、傍線部の「私」の発言であった(d)。
こう見ると、将来の昇給をエサに現在の境遇を受け入れさせようという庶務課長の思惑(b)と、まさに今、ちゃんと食べていけることを問題としている、その点から一日三円の日給では十分と思えない(a)「私」の間に、決定的な立場の相違があることが浮かんでくる。傍線部の発言はそれを表明したものと言える。以上の考察から、正解は①「満足に食べていくため不本意な業務も受け入れていたが(c)/将来的な待遇改善や今までの評価が問題(b)ではなく/現在の飢えを解消できないことが決め手となって(a)/退職することを淡々と伝えた(d)」。
他の選択肢はいずれも締めの箇所、②「つい感情的に反論した」、③「課長に正論を述べても仕方がないと諦めて、ぞんざいな言い方しかできなかった」、④「不当な博給だという事実をぶっきらぼうに述べた」、⑤「負け惜しみのような主張を絞り出すしかなかった」が誤りである。


問6「私はむしろある勇気がほのぼのと胸にのぼってくるのを感じていたのである」(傍線部F)とあるが、このときの「私」の心情の説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。

心情説明問題。傍線部を一文で把握すると、「しかしそれが絶望であることがはっきり判ったこの瞬間、私はむしろある勇気がほのぼのと胸にのぼってくるのを感じていたのである」となる。「この瞬間〜ほのぼのと胸にのぼってくる」の「この瞬間」とは?「それが絶望であることが判った」瞬間である。「それ」は直前部「人並みな暮しの出来る給料を期待していた」ことである(a)。「それ」が絶望だと判ったのは、「君にはほんとに期待していたのだがなあ」と主務課長に言われた時、つまり一日三割の日給を告げられ、辞意を伝えた場面である(b)。
ここを確認するならば、その辞意を伝えながら(b)、「ここを辞めたらどうなるか、という危惧がかすめるのを私は意識した(c)。しかし…私は私の道を自分で切りひらいてゆく他はなかった(d)」という、傍線部E(=辞意の表明)に続く記述に着目できるはずである。ならば、「この瞬間」=人並みな暮しの出来る給料を期待していた、その期待が絶望であることがはっきり判った瞬間、「ほのぼのと胸にのぼってくる」「ある勇気」とは、dに相当するものであることになる。以上より、正解は④「人並みの暮らしのできる給料を期待していたが(a)/その願いが断たれたことで現在の会社を辞める決意をし(b)/将来の生活に対する懸念はあるものの(c)/新たな生き方を模索しようとする気力が湧き起こってきている(d)」。
他の選択肢は、①「会社の期待に添って生きるのではなく自由に生きよう」、②「自分がすべきことをイメージできるようになり」、③「物乞いをしてでも生きていこう」、⑤「少し気楽になっている」が誤りである。


問7 Wさんのクラスでは、本文の理解を深めるために教師から本文と同時代の【資料】が提示された。Wさんは、【資料】を参考に「マツダランプの広告」と本文の「焼けビル」との共通点をふまえて「私」の「飢え」を考察することにし、【構想メモ】を作り、【文章】を書いた。このことについて、後の( ⅰ )・( ⅱ )の問いに答えよ。

【資料】(略)

【構想メモ】(略)

【文章】
【資料】のマツダランプの広告は、戦後も物資が不足している社会状況を表している。この広告と「飢えの季節」本文の最後にある「焼けビル」とには共通点がある。[  I  ]この共通点は、本文の会長の仕事のやり方とも重なる。そのような会長の下で働く「私」自身は、この職にしがみついていても苦しい生活を脱する可能性がないと思い、具体的な未来像を持つこともないままに会社を辞めたのである。そこで改めて【資料】を参考に、本文の最後の一文に注目して「私」の「飢え」について考察すると、「かなしくそそり立っていた」という「焼けビル」は、[  II  ]と捉えることができる。

( ⅰ )  空欄[  I  ]に入るものとして最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

空欄補充問題。空欄前に「この広告と「飢えの季節」本文の最後にある「焼けビル」とは共通点がある」とあり、選択肢は全て「共通点」を「それは」で承ける。そして空欄後に「この共通点は、本文の会長の仕事のやり方とも重なる」と続く。「この広告」というのは、【資料】にある「マツダランプ」の広告だが、この広告は戦時中に使われていたものを、戦後も一部の文言を削除して流用したものである。「焼けビル」は注にあるように「戦災で焼け残ったビル」である。また「本文の会長の仕事のやり方」とは、戦後も戦中と変わらず「たんなる儲け仕事」として行われるものである。以上の整理により、「それは」に続くのは「戦時下に存在した事物が、終戦に伴い社会が変化する中においても生き延びているということだ」になる。正解は③。
他の選択肢は、①「戦時下の軍事的圧力の影響が」、②「戦時下に生じた倹約の精神が」、④「戦時下の国家貢献を重視する方針が」が誤り。


( ⅱ )  空欄[  II  ]に入るものとして、最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。

空欄補充問題。空欄を含む一文は、「そこで改めて【資料】を参考に、本文の最後の一文に注目して「私」の「飢え」について考察すると、「かなしくそそり立っていた」という「焼けビル」は、[ Ⅱ ]と捉えることができる」となっている。本文の最後の一文は、「…この焼けビルは、私の飢えの季節の象徴のようにかなしくそそり立っていたのである」となっている。「私」はちょうど会社を辞め、「永久にこの焼けビルに別れをつげた」ところであった。「焼けビル=飢えの季節の象徴(a)」と( ⅰ )でも考察した【資料】の内容(→戦前からの連続性(b))を踏まえると、正解は②「(「焼けビル」は)「私」にとって解消すべき飢えが(a)/継続していること(b)/の象徴(a)」。
他の選択肢は、①は「給料を払えない会社の象徴」が誤り。③「不本意な仕事との決別」と④「飢えから脱却する勇気を得たこと」は「焼けビルに別れをつげた」ことに対応している。

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