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至高の現代文/解法探究29〈理由説明群②〉

【至高の現代文/記述解法の探究・肉】

ここでは、本書に収録した全200題(記述小問)の解法を、汎用性のある形に分類して提示する。あわせて、各解法ごとに本書収録の参照問題を挙げる。略称は以下の通り。東→東京大学、京→京都大学、東北→東北大学、九→九州大学、北→北海道大学、阪→大阪大学、名→名古屋大学、橋→一橋大学、神→神戸大学、筑→筑波大学、広→広島大学。例えば「19東一.一」は、2019年東京大学の大問一の小問一をあらわす。


20.ないある変換

SG式の定式は、理由説明に対する意識づけには有効だが、何が何でもその図式に当てはめようとするのは思考停止の愚策でしかない。目的と手段を取り違えてはならないのだ。理由の終点(G)を意識することで、すぐに直接理由が導ける場合があるのは上に見た通りだが、傍線部が否定表現で終わる場合は肯定表現に返す「ないある変換」も直接理由の導出に有効である。すなわち、「Xではない」の理由については、Xと対比関係にあるYをおさえ、「Yであるから」というようにベースを決める。「ないある変換」は、内容説明問題も含め、様々なケースで役に立つ汎用性の高い手法である。

→19京一.二、19京(理)二.三、19九二.三、19神一.三、13東一.二、10東一.三、15東四.三、18広一.四、17橋一.三

(例題) 「情報化が進むと、個人を知るのに、必ずしもその人の内面を見る必要はない、という考えも生まれてくる」(傍線部ウ)とあるが、それはなぜか、説明せよ。(60字程度)〈10東大一.三〉

理由説明問題。「否定表現は肯定表現に直す」(ないある変換)が定石。「個人を知るのに…内面を見る必要はない」を変形して、「外面を見ることで、個人を知ることができる」から(→内面を見る必要はない)、という形を導く。後は「情報化」から「外面」につなぐことができれば、ほぼ完成。
⑦段落「たとえば」以下より、「個人の知りたい側面」は「個人情報(データ)」として「外面化」する。そうした情報による個人の評価は、知る側はもちろん、知られる側にとっても(よって一般性をもって)「客観的で公平」な評価として受けとめられる。
⑧段落2文目より「(外的な)行動パターンだけでなく、趣味や好み、適性(内的性格)までもが情報化され」る。これも加える。

<GV解答例>
情報技術により個人の内的性格までもが情報として外面化されると、それをたどることこそ、その人の客観的で公平な評価だと見なされるから。(65字)

<参考 S台解答例>
情報化が進んだ社会では、個人はその内面よりも、データ化された個人情報によって把握できると見なされるようになるから。(57字)

<参考 K塾解答例>
内面を知るよりも、個人情報による方が、はるかに簡単にその人を理解でき、より客観的な人物評価につながると考えることもできるから。(64字)

(例題) 「私はそれはそういうことではない、と薄々感じはじめていた」(傍線部ウ)とあるが、どういうことか、説明せよ。(60字程度)〈15東大四.三〉

内容説明問題。「それは/そういうこと/ではない(否定)→Aである(肯定)」(ないある変換)。⑭段傍線の前部より、「それ」は「周囲を不快にする病猫の面倒をみること」、「そういうこと」は「ボランティア精神/無償の愛(⑮)」となる。Aについては、⑮段落「生き物はエゴイズムに支えられる」とその例としての逸話である⑯段落を挟んで、⑰段落「私が病気の猫を飼い続けたのは/…慈悲心があるからではなく/その猫の存在によって…慈悲の気持ちが引き出されたからである」の最後の部分と対応する。よって「…猫の面倒をみるのは/自発的な無償の愛からではなく/その存在によって引き出された慈悲の気持ちからだ/(と気づき始めた)」となる。
ただ、これだけでは「生き物はエゴイズムに支えられる(⑮)/冥利(⑯)」が活かされていない。そこで後半の部分に、「(猫の面倒をみるのは)その存在によって引き出された慈悲の気持ちと、それに伴う冥利(満足感)からだ」と付け足せばよい。病猫にもたらされた慈悲の気持ちで、それを慈しむことで、自らも満たされた気持ちになるのである(←輻輳した契約(⑰))。

<GV解答例>
周囲を不快にする病猫の面倒をみるのは自発的な愛からではなく、その存在が慈悲心とそれに伴う自足をもたらしたからだと気づいたいうこと。(65)

<参考 S台解答例>
痩せ猫の世話をしたのは、能動的な無償の愛からではなく、病気の猫に自分の中から慈悲の心が引き出されたからだということ。(58)

<参考 K塾解答例>
自分が病猫を助けたのは、慈悲心があったからではなく、猫の儚げな様子によって慈悲を与えて喜ぶ気持ちが喚起されたからだと、気づき始めたということ。(71)

<参考 T進解答例>
筆者が病気の猫を飼い続けたのは、他者に感心されるような主体的に持つ慈悲心からではなく、猫に内なる慈悲心を喚起されてのことだと、徐々に思い始めたということ。(77)


21.根本理由への遡及

直接理由(R1)がすぐに導ける場合、そこからさらに根本理由(R2)に遡ることが求められることもある。理由として答えたものが問いに対して軽く、それが自明ではなく「なぜ」という疑問がうかぶ場合、その前提は何か(R2)を接続語や指示語、本文構成を手がかりに探すとよい。基本構文は「(Sは)R2なのでR1だから」となる。

→19京(理)二.一、19九一.六、19九二.三、02東一.二、02東一.五、17橋一.三、18名一.五

(例題) 「手間をかける」(傍線部(1))について、よい批評家はどうして手間をかけるのか。(三行:一行25字程度)〈19京大理系二.一〉

理由説明問題。内容説明ではなく理由説明である。すなわち、傍線「手間をかける」(A)は、「(B)という」(同格)に導かれるので「B=A」となり、内容説明ならばBがそのまま使えるが、理由説明なのであるから、もう一工夫必要なのだ。Bを「自分の主観的傾向を意識して(→相対化して)/自分の考えを筋道たてて説明する工夫」(B+)とまとめた上で、なぜそうした工夫が必要なのかをメタレベル(根本理由)に遡って考える。
その時、傍線のある③段落までのまとまり(①~③)、およびそのまとまりと「また」で並列になる④段落からのまとまり(~⑥)を見ても、「根本理由」は見当たらない。該当箇所では批評家とは何かについて触れており、その本質を規定する結論部⑦⑧段落が参照できるはずだ。そこから、「批評は作品を、作家を理解するうえで、役に立つと同じだけ、邪魔をする」「批評はそれ自身、一つの作品」(ともに⑧)、という要素を拾う。これより、「(良い批評家は)作品・作家と読者を媒介しながら/固有の作品を示す」(C)とまとめられ、そのCゆえにB+が欠かせないから(→手間をかける)、と解答できる。

<GV解答例>
芸術家や作品と読者を媒介しながら、自身固有の作品を示すにあたり、自らの主観的傾向を相対化した上で、自分の考えを筋道たてて説明する工夫は欠かせないから。(75)

<参考 S台解答例>
理論に基づく自身の批評を絶対視せず、好みや主観的傾向が反映されていると意識し、それを論理的に説明、正当化、検討、訂正することで、読者を説得し納得させようとするから。(82)

<参考 K塾解答例>
良い批評家は、自らの好みや思考の傾向を相対化して、説得力を生むための梃子となすべく、説明や表現に工夫を凝らしつつ批評の理路を明確化しようと努めるから。(75)

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