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至高の現代文/解法探究29〈内容説明群②〉

【至高の現代文/記述解法の探究・肉】

ここでは、本書に収録した全200題(記述小問)の解法を、汎用性のある形に分類して提示する。あわせて、各解法ごとに本書収録の参照問題を挙げる。略称は以下の通り。東→東京大学、京→京都大学、東北→東北大学、九→九州大学、北→北海道大学、阪→大阪大学、名→名古屋大学、橋→一橋大学、神→神戸大学、筑→筑波大学、広→広島大学。例えば「19東一.一」は、2019年東京大学の大問一の小問一をあらわす。


4.具体例の利用

言い換え要素を探すにあたり、一般性に欠ける具体例より、その前後の抽象的な記述を優先するのは当然である(→18阪(文)一.二)。しかし、抽象部だけ抽出して言い換えたとき、意味がしっくり通らない場合も難度の高い問題にはよくあることだ。その場合、具体例を利用してその要素を理解し直したり、例を一般化して表現することがある。そもそも具体例は抽象的な内容の理解を促すためにあるわけだから、当然の筋道だといえるが、解答は一般性を十分担保したものであるよう注意する必要がある。

→19京一.四、19九二.六、19北一.三、19北一.四、09東一.五、05東一.三、17東四.三、18阪(文)一.四、16京二.三

(例題) 「こういう場面」(傍線部C)とはどのような場面か。(60字以内)〈19北大一.四〉

内容説明問題。「人間同士の利害が…いちばん対立する位相は「こういう場面」(C)」(⑧)の「こういう」承ける内容は、前⑦段に遡り、具体例を挟んだ、⑦段冒頭「文化間での「食べてよいもの」「よくないもの」の対立にも展開できる」。太地町のイルカ漁を批判する反捕鯨運動の例を踏まえて、Cを「同じ生き物について、食べてよいか、否かをめぐる対立が展開する場面」と具体化する。
あとは、⑧段傍線以下の部分、「人間と食をめぐる問題は…単純な文化間差異の問題なのではない…より複雑な人間と自然とのあいだに横たわる何かに触れるものではないか」を踏まえ、「より複雑な人間と自然とのあいだに横たわる何か(X)/に起因するC」と解答を構成する。もちろんXは言い換える必要があるが、本文に直接言い換えている表現は見当たらない。例を踏まえると、そこにある対立は、イルカ(クジラ)を「自然」の恵みと考えるか、哺乳類として「人間」の延長と考えるかの対立と見なせる。これよりXを「人間と自然の関係規定に対する文化ごとの違い」と具体化した。

<GV解答例>
人間と自然の関係規定に対する文化ごとの違いに起因する、同じ生き物について、食べてよいか、否かをめぐる対立が展開する場面。(60)

<参考 S台解答例>
食べてよい生き物とそうではないものを区別する絶対的な規範がないため、そのことに関する文化間の対立が深刻化してしまう場面。(60)

<参考 K塾解答例>
生き物が生き物を食べるという人間と自然との絶対的な関係の中で、食べる生き物をめぐる文化間の差異が顕在化してくる場面。(58)


5.経緯の説明(SG式)

経緯の説明を求める問題は、長めの解答を求めるものになることが多い。注意点は、始点(S)と終点(G)を見極め、その経緯をつないで必要十分な内容を書き込むことである。また、傍線は終点(G)の部分にあることが普通なので、内容が終点(G)に向かって収束するように逆算してデザインするとよい。

→19東一.四、19京二.四、19阪一.一、01東一.五、16京一.二

(例題) 「彼らの推論の大まかな方向づけ」(傍線部(A))の内容を説明せよ。(五行:一行25字程度)〈16京大一.二〉

内容説明問題。「彼らの推論」とは、カーンとポンピアの仮説であり、①段落でまるまる説明されている。その「大まかな方向づけ」について、筆者は「そのまま諾なってよい」、むしろ肯定したいという気持ちを持っている(→問三)。ここで、①段落を漠然とまとめてはならない。筆者が肯定したいと思う「方向づけ」の「末」にくるものを捉え、それにつながるように①段落の内容を(再)構成する(本文の叙述の順とは限らない)。ふつう推論の方向は、より蓋然性の高いものから低いものへと移るはずである。
そこで方向づけの「末」だが、傍線の直前に「九本が正確に九日間に対応していると断言するのは行き過ぎであるにせよ」とあるように、かつての月の公転日数とオウムガイの殻の小室に刻まれた細線(成長線)の対応が推論の中心にあるようである。実際、結論部にあたる最終④段落でも「彼らがみずからの肉体に残った痕跡の形で…われわれに遺贈してくれた…証言/物質的な証拠」を通じて、かつての月の光を「知る」ことができることに筆者は感動するとしている(→問五)。以上より、「末」は「四億二千万年前の月の公転日数とほぼ対応するように/オウムガイが成長線を自らの殻の小室に刻んでいたのではないか」(P)ということになる。
ここから①段落に戻って細かく検討すると、Pの推論は段落半ばにあり、後半に「(四億二千万年前)月は今よりずっと地球に近いところにあり、わずか九太陽日で地球の周囲を公転していた」(Q)とある。「九日/九本」という数字は置くとして、Qについては「すでに天文学と地球物理学が明らかにしている」とあり、Pよりも蓋然性が高いので、Pを導く条件の一つと考えられる。この「Q→P」という推論の方向を軸に、Pを導くのに必要な条件として「(オウムガイは)太陽の周期に合わせて/夜になると海面に浮かび上がってくる」「古生代のオウムガイはすでに原始的な眼球を備えていた」の2つの要素を繰りこみ、解答を構成する。

<GV解答例>
四億二千万年前の月は現在よりずっと地球の近くにあり、太陽の周期に合わせて夜になると深海から浮上してくるオウムガイは、その原始的な眼球で巨大な月を捉え、当時の月の短い公転日数とほぼ対応するように成長線を自らの殻の小室に刻んでいたのではないかということ。(125)

<参考 S台解答例>
オウムガイの殻の細線が太陽の周期と、隔壁が月の周期と同調する場合、隔壁間の細線数はひと月の日数を示し、太古のオウムガイの隔壁間の細線数が現在より少ないことから、当時、ひと月は現在より短く、月は現在より地球に近い位置を公転していたと推定すること。(122)

<参考 K塾解答例>
オウムガイの化石に刻まれた成長周期に基づき、地球と月の距離の変化を算出すると、四億二千万年前に生息していたオウムガイは、夜ごと深海から浮上し、現在よりもはるかに地球に近く巨大な月が、圧倒的な輝きで夜空を照らす光を、眺めていたにちがいないということ。(124)


6.論理的推論

論理的推論を要する問題は、問いの性質上、本文の結論部にあり、問われているポイントについての直接的な言及がないものである。この場合、そのポイントに至る経緯や背景を整理し、その延長上に論理必然的に見出される内容を推論により導出しなければならない。長めの解答を求められることが多く、問いの難度も極めて高い。

→19京一.五、19京二.五、19九二.六、10東一.五、16東四.四

(例題) 「青の明滅に日常の破れ目を待つという自負と願望があっさり消し去られた」(傍線部エ)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)〈16東大四.四〉

内容説明問題。「青の明滅」は本文冒頭からあるように「急激な夏の天候の変化で青空が急激に崩れ再び回復していく過程」である。そんなことは分かりきっているので、ここではポイントではない。「青の明滅」で伝わるし、そのままでもよいだろう。「日常の破れ目を待つ」というのは比喩的・象徴的表現なので言い換える必要があるが、問三ですでに考察したところなので「(青の明滅に)自らの心を重ね(更新と)再生を図る」くらいに簡潔にまとめる。これは筆者に喜びをもたらすものだから当然「願望」の対象であるが、「自負」という言葉が気にかかる。これが一つ目のポイント。ここでは、「青の明滅」で自己の内的な更新と再生を図る作用を確信し、その訪れを筆者が主体的に待つ構えができたということではないか。
そこで「事件」が起きたのである。筆者の視線はふわりふわりと降りてきた風船の赤に釘づけとなり、空は青をなくし「視線といっしょに地上へと引き戻される」。筆者の「自負」は「あっさりと消し去られ」、それに奇妙な喜びを感じつつも筆者は「茫然と」する。傍線部の述部「あっさり消し去られた」が最大のポイントだが、これを「(自負と願望が)快く否定された」とか述べところで、ただ後ろの内容を盛り込んだ以外はトートロジーにすぎぬ。「消し去られ、どうなったのか」という点が問われているのだ。
「私」は、その日の青の異変を身体の奥の極で捉え、十数分の非日常を日常として生きたことで、「平らかな空がいかにかりそめの状態であるのか(②)」を知り、天候の崩れに自己の「救い(②)」、内的な再生を必然とし自覚的に待つようになった。それを風船の赤の闖入がもろくも崩したのだ。「私」は「地上へと引き戻され」、「茫然と」する。そこには「かりそめの」、他でもありうる、未規定の世界があり、「私」は再び偶発性に身を委ね、世界が訪れるのを待つ。

<GV解答例>
青の明滅に自らの心を重ね再生を図る喜びを自覚した筆者は、風船の赤が空の青を奪う事件により再び世界の偶発性に引き戻されたということ。(65)

<参考 S台解答例>
遠い青空の非日常に自己の救いを求める思いが、地上の赤い風船という別の非日常との遭遇によって快く否定されたということ。(58)

<参考 K塾解答例>
青い空の崩れと回復に呼応する、絶えざる自己刷新への確信や期待が、降下していく風船の赤に目を奪われることで、もろくも失われてしまったということ。(71)

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