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至高の現代文/解法探究29〈解答範囲と要約〉

【至高の現代文/記述解法の探究・肉】

ここでは、本書に収録した全200題(記述小問)の解法を、汎用性のある形に分類して提示する。あわせて、各解法ごとに本書収録の参照問題を挙げる。略称は以下の通り。東→東京大学、京→京都大学、東北→東北大学、九→九州大学、北→北海道大学、阪→大阪大学、名→名古屋大学、橋→一橋大学、神→神戸大学、筑→筑波大学、広→広島大学。例えば「19東一.一」は、2019年東京大学の大問一の小問一をあらわす。


28.解答範囲の特定(メタ視点)

解答根拠は、一般的に傍線部の近くにあり、また、指示語などの文法的要素が解答根拠を指し示してくれる場合も多い(→19九一.一、18名一.六)。解答範囲が広くなる場合は、設問の意図や本文構成上の必然性を踏まえて、範囲を限定することが重要になる(→19九一.三、17神一.二、17神一.三)。また、設問間の関係により解答範囲が自ずと決まるケースもある(→13東一.四、10東一.一、05東一.四、16京二.一)。解答根拠が離れている場合は、設問の誘導や本文構成に則り該当箇所を特定する(→19名一.四、19筑一.四)。また、近くの根拠を手がかりにして、離れた箇所にあるより重要な根拠を探すケースもある(「飛び石」戦法→13東一.二、17広二.六)。

(例題) 「それは人間のある具体的なありかたを示しえている」(傍線部C)とあるが、どのような「ありかたを示しえている」のか、説明せよ。(三行:一行25字程度)〈19九大一.三〉

内容説明問題。傍線部(⑤段)前後は構成が入り組んでいるので整理する。前④段冒頭で「しかし、ほんとうにかくのごとき無病息災は、この世に存在しうるのだろうか」と、無病息災の現実性に一度は疑義を呈した上で、⑤段落では「それは人間のある具体的なありかたを示しえている(のではないか)」(C)とする。そして、それを再び⑥段冒頭で「けれども無視することができぬからこそ、無病息災の立場は有害である」とするのである。これより傍線は、いったん本論から外れて「無病息災」のポジティブな面を説明する部分だと把握できる。
それでは、そのポジティブな面とは、無病息災という「概念(=言語的な構成物)」が示しえている、どのようなありかたか。まず、傍線直後「なによりも人びとは、それ(=無病息災)を実現しうるものとして意識し、求めている」を押さえる。つまり、「無病息災」は人間の「理想的な生のありかた」を示しえているのである。これを解答の核にして、②③段落から「無病息災は強健な身体と健康保持への完璧な努力によって生まれる」「誇りにみち/完全な平安/落ち度とも無縁」というポジ要素を拾い、解答に繰りこむ。

<GV解答例>
無病息災という概念が示しえている、強健な身体と健康保持への完璧な努力によって実現されうる、誇りにみちて完全無欠な、人間世界の理想としての生のありかた。(75)

<参考 S台解答例>
真理の発見や真実に即した行動にまして、無病息災というややあいまいな概念が、人間が強健な身体をもち、健康を保持し、完全な平安をかちとらねばならないというありかたを示しえている。(87)

<参考 K塾解答例>
無病息災はそもそも程度の問題に過ぎず、人々ごとに相対的にしか判定し得ないものなのだが、それを実現しうるものとして意識し、絶えず追い求めるありかた。(73)


29.要約問題への対処法

要約問題については、重要箇所の抽出(ミクロ読み)→本文構成の考察(マクロ読み)→要約文構成の決定(アウトライン)→細部の加味(ディテール)という手順で進めるとよい。詳しくは、2019年の一橋大学第三問の解説を参照してほしい。本書では、東京大学第一問の要約型の問題も定式化した上で、それに則り解答を導いている。ただし、上にも述べたように、定式は問題に挑むにあたっての意識づけとしては有効だが、それに拘泥して思考停止に陥ることなく、あくまで柔軟に活用して思考の飛躍に役立ててほしい。

・内容説明型要約(東大)→19一.四、15一.五、10一.五、09一.五、01一.五

・理由説明型要約(東大)→18一.四、14一.五、13一.五、05一.五、02一.五

(例題)「いろんな「形」、多様性が花開く世界」(傍線部エ)とはどういうことか、本文全体の趣旨を踏まえて100字以上120字以内で説明せよ。〈19東大一.四〉

内容説明型要約問題。基本的な手順は以下の通り。

1️⃣ 傍線部自体を簡単に言い換える。(解答の足場)
2️⃣ 「足場」につながる論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
3️⃣ 必要な要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(ディテール)

1️⃣ 傍線部自体から。「いろんな「形」」は配慮する必要があるが、それを「多様性」と言い換えており、「多様性が花開く世界」(A)という内容は、換言を必要とするほどのものではない。では、何を説明するのか。傍線部を文末まで延ばすと、「…Aとなるのだ」と続く。この「となる」という表現は、Aが何らかの原因や背景の帰結であることを示すから、この問題は、実質、Aの原因・背景(B)をまとめる問題と把握できる。
2️⃣ アウトライン。Bを考えるにあたり、まず傍線直前の文「「分からない」世界こそが、人が知的に生きていける場所であり、世界が確定的でないからこそ、人間の知性や「決断」に意味が生まれ…「アホな選択」も…許される」(C)をキープする。次に視野を広げると、⑮段落冒頭「この世界は…「分からないこと」に覆われた世界である」、さらに同⑮段落「しかし…知的な存在としての人間はこの「分からない」世界から、少しずつ「分かる」を増やし…/その営みが…”新しい空間” を生み出し、その営みそのものに人の “喜び” が隠されている」(D)が、Cと傍線(「新しい空間」∽A)の内容に対応していることが分かる。以上、CとDをAの原因・背景として解答の骨組みを以下のように定める。
「知的な存在としての人間は/未知の世界から既知の世界を生み出し/また(「アホ」も含めて)決断を重ねることに意味と喜びを見出すもので/その結果として/世界に豊かな多様性が育つということ(=A)」。
3️⃣ 付加要素として、傍線の後の部分「それ(=A)は神の摂理のような “真実の世界” と、混沌が支配する “無明の世界”とのはざまであり…「科学」と…「非科学」のはざま、と言い換えることができる空間である」を踏まえる。これは本文を通してのキーワードである「カオスの縁」のことである。どこに配するか難しいが、「…人間は/混沌と秩序の間にあり/既知の領域を生み出し…」と繰り込んだ。
また、人間と科学の関係についての言及(⑨~⑫段落)を加える。つまり「…人間は/科学の力により/混沌とした世界に秩序を与え/安定を得てきた」とし、そこから⑬段落以降の内容に転じ、「それでもなお混沌と秩序(→未知と既知)の間にとどまり/既知の領域を増やし…」とつなげてまとめればよい。

<GV解答例>
知的な存在としての人間は、科学の力により混沌とした世界に秩序を与え安定を得ながらも、なお未知と既知の間にとどまり、既知の領域を増やし、また決断を重ねることに意味と喜びを見出すもので、その結果として、世界に豊かな多様性が育っていくということ。(120)

<参考 S台解答例>
知的な存在としての人間は、すべてが明らかなものとして確定された世界でも、すべてが混沌とした不可知の世界でもなく、分からない事態に出会うそれらのはざまで自分なりの応答を作り出し続けることで、多様な生の形が生まれる豊かな世界を生きるということ。(120)

<参考 K塾解答例>
生命が混沌とした世界から様々な秩序を生み出すなかで、さらに人間は未知なる事象を次々と科学的に秩序づけて解明していくが、なおも把握しきれない領域においてこそ、人々の知性的判断や実践的決断の限りなく豊かな可能性が切り開かれていく、ということ。(119)

<参考 T進解答例>
生命が安定と無秩序のはざまで、自然から物質を取り入れ秩序化するように、人間は科学の一義的な世界と非科学の混沌たる世界のはざまで、知的存在として自身の決断や選択を通じて未知の世界を自由に分節することで、新しい秩序を持つ空間が生じるということ。(120)

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