見出し画像

『探偵と歌姫の旋律』


第一章: 沖縄の熱帯夜、始まる殺意

 南国の楽園、沖縄県。そこに暮らす人々は、美しい海と温暖な気候のもと、穏やかな日々を送っていた。しかし、そんな平穏な空気を切り裂くかのように、ある残忍な事件が幕を開けようとしていた。

依頼人、比嘉舞登場

 20XX年7月、梅雨明け間近の蒸し暑い夜。那覇市にある一軒のバーで、店主の女性がカウンターを磨いていた。彼女の名は比嘉舞(ひが・まい)、28歳。ショートカットで小柄ながら、鍛えられた身体つきをしている。明るくサバサバとした性格で、客からは姉御肌と親しまれていた。

 閉店準備も終わり、そろそろ帰ろうかと思った矢先、店の扉が乱暴に開けられた。そこに立っていたのは、舞にとって高校時代の後輩にあたる少女だった。憔悴しきった表情で立ち尽くす彼女に、舞はすぐに異変を感じ取る。

 「舞姉……助けて欲しい人がいるの」

 そう絞り出すように言う少女、名城華(なしろ・はな)は、19歳になったばかり。彼女は人気上昇中のアイドルグループのメンバーであり、その可憐なルックスと抜群の歌唱力で多くのファンを魅了していた。

 舞は、落ち着いた口調で華を諭しながら、事情を聞き出そうとする。すると華は、涙を流しながら、ある男についての話を始めた。

「あの人は、私の歌の大切な理解者でした。でも今は......もう、どうにかしないと!」

 華の瞳は怯えており、震える声で絞り出すように語られる内容は、聞く者の胸を刺すのに十分なものだった。

"歌姫"の名城華を脅かす存在

 彼の名前は、紫藤蓮(しどう・れん)。年齢不詳、職業不明の男。華が路上で歌っていた頃からのファンだと称し、華がアイドルになってからも度々接触を図っては、執拗に付きまとっていた。

 最初は熱心なファンだと思っていたが、徐々にその本性を現していった。華が所属するグループのライブ会場で、紫藤は他のファンの腕を折るという暴挙に出たのだ。彼は華以外のメンバーやファンたちを「歌姫に仕えるべき存在」と呼び、過激な発言を繰り返していた。

 最近では、華に対して直接的な危害を加えるようになり、さらには「自分以外のものを愛したら罰を与える」などと脅迫めいた手紙を送りつけるようになった。

 華は、紫藤が自分を殺しにくるのではないかと怯えていた。「次は自分が被害者になる」という確信に近い予感。そして、その恐怖は現実となる。

 華が自宅マンションに帰ると、部屋の中が荒らされていた。物が散乱し、引き出しやクローゼットの衣類が全て床に放り出されている。そして、冷蔵庫には一枚の紙が置かれていた。

 『僕以外の誰かを好きになったね? 裏切り者は許さないよ』

 華はその場で崩れ落ちた。これは、自分だけに留まらない脅威であることを悟ったのだ。

 華の告白に、舞の顔も険しくなる。華の後輩を守るためにも、この事態を放っておくわけにはいかなかった。舞は、以前から知人の探偵に仕事を依頼しており、信頼のおける人物であることを華に伝えた。

 「安心しなさい。必ずあたしが頼れる人間を連れてくるから」

 舞の力強い言葉に励まされ、華は少しずつ落ち着きを取り戻していく。こうして、舞は、とある男性を紹介するために、華を連れて那覇市郊外へと向かった。

第二章: 東京から来た探偵

 舞が華を連れて到着したのは、那覇市の中心部からやや離れた場所にある古民家カフェだった。この趣のある建物こそ、御茶ノ水透が沖縄の拠点としている探偵事務所なのである。

 舞が華を促し、玄関の扉を叩くと、中から涼しげな顔立ちをした若い男性が現れた。彼が、今回舞が呼び寄せた探偵、御茶ノ水透である。

 「舞さん、いらっしゃい。こちらが依頼人の方ですか?」

 そう尋ねる御茶ノ水は、スーツケースを手にしており、どうやら舞からの連絡を受け、すぐさま飛行機に飛び乗ってきたらしい。

 「華ちゃん、これがあたしが話してた探偵さんだよ。心配いらないから、全部話して」

 舞の紹介を受けた華は、緊張しながらも、改めて自己紹介をし、これまでの経緯を御茶ノ水に打ち明けた。

 東京から遥々やってきた探偵の存在に、華は救いの光を見出したかのようだった。御茶ノ水は、落ち着いた物腰で華の話に耳を傾けつつ、時折鋭い視線を投げかけている。

 「よくぞ相談してくれました。私は、依頼人の安全を守ることが最優先事項です。紫藤氏の凶行を阻止するため、全力を尽くしましょう」

 そう力強く宣言する御茶ノ水の声色は、華の心を奮い立たせるものがあった。

 舞は、華を託せる相棒が見つかり、ひとまず安堵した様子。一方で、御茶ノ水は早くも捜査モードに入っている。

 「まずは、紫藤氏の背景を探る必要があります。なぜ、華さんにそこまで固執するのか? その理由がわかれば、彼の狙いを特定できるかもしれません」

 舞は、御茶ノ水が東京から来たにもかかわらず、躊躇なく事件に飛び込んでいく姿勢に感銘を受ける。こうして、舞と華、そして御茶ノ水の三人は、紫藤蓮という男の謎に包まれた過去へと踏み込むことになったのである。

第三章: 加速する狂気、鮮血の舞台

 華は、御茶ノ水のアドバイスに従い、グループのメンバーたちに注意喚起を行った。だが、その忠告も虚しく、新たな犠牲者が出てしまう。

 華と同じグループに所属する少女、桜井美優(さくらい・みゆ)が、何者かに襲われたのだ。現場は、彼女がレッスンに通うダンススタジオであった。

 スタジオの更衣室で、美優は意識を失い倒れているところを発見された。救急車で病院へ搬送されたが、命に別状はないという。

 警察による捜査が始まり、現場には規制線が張られ、パトカーが出動するなど騒然となっていた。

 一方、華は病院に駆けつけ、美優のことを案じていた。病室の前で待機していると、担当医から話があると呼び出された。

 医師によると、美優は幸いにも軽症で済んだものの、発見が遅ければ生命の危険もあっただろうとのこと。そして、彼女の衣服の中に、一枚のメモが残されていたことを告げられた。

 『僕の歌姫に触れるな』

 華は、そのメッセージを見て凍りついた。これは、紛れもなく紫藤からのメッセージである。彼は、宣言通りに次々と華の仲間たちに牙を剥き始めたのだ。

 警察は、一連の事件を同一犯によるものと考え、慎重に捜査を進めているとのこと。だが、華は御茶ノ水の存在を警察に伏せており、独自に調査を進めることを決意する。

 華は、御茶ノ水とともに、美優が襲われたダンススタジオへ向かう。そこで彼らは、思いがけない事実を知ることになる。

 スタジオのオーナーが、防犯カメラの映像を提供してくれた。そこには、犯行の一部始終が映っており、紫藤の姿が確認できた。だが、それだけでなく、もう一つ奇妙な光景が記録されていた。

 映像の中の紫藤は、美優を襲撃した後、何故か突然踊り出したのだ。それは、奇矯な動きながらも、一定のリズムに乗り、一種の芸術性すら感じさせた。

 「まるで......ダンスのようだ」

 御茶ノ水は、紫藤の奇怪な行動に眉をひそめた。

 「この男、ただのストーカーではないのかもしれない」

 御茶ノ水の脳裏に、ある疑惑が浮かび上がる。これが、単なる偏執狂による犯罪でないならば――。

 華は、不安と怒りを抱えながら、紫藤の正体を突き止めるべく、御茶ノ水と共に奔走することになる。

 紫藤蓮、その謎めいた男の過去を追ううちに、御茶ノ水たちは想像を超えた深淵へと足を踏み入れることとなった。

 

第四章: 暗躍する影、暴かれる過去

   紫藤蓮を追跡する中で、御茶ノ水はある仮説を抱いていた。それは、紫藤が単独で犯行を行っているのではない、という推論だった。

  「紫藤は、どこかで支援を受けている可能性がある」

  そう御茶ノ水が考えるに至った理由があった。まず、紫藤が華やメンバーのスケジュールを正確に把握している点。そして、犯行時に使用されている道具や車両などの手配。これらは、ある程度の資金と組織力がなければ困難なことである。

  「つまり、紫藤の背後に、彼を操るような存在がいるのではないか?」

  御茶ノ水は、華に対し、この仮説を打ち明けた。華は、紫藤が自分以外の人間と関わりを持っているという事実に驚愕するが、同時に、この機会を利用して紫藤の弱点を突こうと提案する。

  「紫藤が誰かの指示を受けて動いているなら、その関係を断ち切ればいい。そうすれば、彼が暴走することを阻止できるかもしれない」

  華の言葉に、御茶ノ水は同意を示す。

  「確かに、彼に指令を出す存在を特定できれば、事態を収束に向かわせることができるかもしれない」

  かくして、二人の共同作戦が始まった。

  まず、紫藤の周辺で不審な人物や組織がないかを探ることから始めた。紫藤の銀行口座や電話の通話履歴、インターネットの検索履歴などを徹底的に洗い出す。

  その結果、一つの団体が浮上してきた。『エクリプス』と名乗る劇団である。この劇団は、前衛的で刺激的なパフォーマンスを行うことで知られており、その活動はかなりアンダーグラウンドな世界で話題になっていた。

  興味深いことに、『エクリプス』の主宰者である九条院香澄(くじょういん・かすみ)という女性の名前が、紫藤の関連人物としてたびたび挙げられていた。彼女は、演劇界ではカリスマ的存在として知られる演出家であった。

  御茶ノ水は、華とともに、この『エクリプス』の本拠地を偵察することにした。そこは、那覇市の中心部から離れた森の中に建つ劇場であった。

  周囲を緑に囲まれた劇場は、独特の妖しい雰囲気を醸し出していた。近づくと、耳をつんざくような悲鳴のような歌声が響いてくる。

  二人は、劇場内に潜入するため、裏手の茂みを掻き分けて進んでいく。劇場の窓のひとつがわずかに開いており、そこから侵入しようという算段だ。

  薄暗い劇場内には、不気味なオブジェや人形などが置かれ、禍々しい雰囲気が漂っていた。歌声は、舞台上から発せられているようだった。

  二人は、物陰に隠れながら舞台に近づいていく。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

  舞台中央には、巨大な鳥籠が設置されており、その中に一人の女性が閉じ込められている。そして、周囲を取り囲むように立つ仮面をつけたダンサーたちが、激しいダンスを披露していた。

  その中心で指揮をとっているのが、九条院香澄であった。黒いロングドレスを纏い、鋭い視線を投げかけている。

  歌声の正体は、鳥籠の中の女性であった。彼女は、悲痛な叫びにも似た歌を唄い続けていたが、その歌詞は聞く者の精神を蝕むような不穏な内容であった。

  御茶ノ水は、この光景に見覚えがあった。かつて紫藤がダンススタジオで見せた奇怪な踊りと酷似している。

  「まさか......紫藤はこの劇団の影響を受けていたのか?」

  御茶ノ水は、華に耳打ちする。

  「この劇団が、紫藤の思想を形作った可能性がある。そして、あの鳥籠の中の女性が、紫藤のトリガーとなる存在なのかもしれない」

  華は、御茶ノ水の推測に戦慄を覚える。

  「あの女の人は、一体誰なの......?」

  その時、突然、照明が落とされ、劇場内は漆黒の闇に包まれた。

  「見つかった、逃げろ!」

  御茶ノ水は、華を促し、劇場からの脱出を試みるが、既に包囲網は狭まっていた。

  逃げ場のなくなった二人だったが、偶然見つけた地下への入り口に飛び込む。

  慌ただしく階段を下りていくと、そこは薄暗い通路が続く秘密の地下空間だった。

  「ここは......!?」

  華が息を呑む。

  「実験室のようだな」

  御茶ノ水は、辺りを見回し、状況を飲み込もうとする。

  無数のケージが置かれた部屋があり、中には小動物や昆虫、時には人間が入っていることも。壁一面の本棚には、医学や心理学、薬学の専門書が並んでいた。

  「九条院香澄......恐らく、彼女は精神操作の研究をしていた」

  御茶ノ水は、この場所で行われていたであろう生体実験の痕跡に気づいていた。

  「紫藤は、ここでの実験台の一つだったのかもしれない」

  華は、恐怖に震えながらも、御茶ノ水の言葉に耳を傾ける。

  「あの鳥籠の女性も同様だ。彼女の歌には、聴く者を洗脳するかのような効果がある。おそらく、九条院は、音波を使ったマインドコントロールの研究を行っていたのだろう」

  御茶ノ水は、九条院の計画を推察する。

  「紫藤は、おそらく九条院の実験によって、華さんに対する妄執を抱くようになった。そして、彼女の歌姫としての才能に惹かれていったのだろう」

  華は、九条院の狙いを悟る。

  「私を通じて、世間の注目を集めようとしていたのね......」

  御茶ノ水は、頷いた。

  「九条院は、華さんの人気を利用して、自身の研究成果を証明しようとした。そのためには、あなたの周囲の人間を排除し、華さんを孤立させる必要があった」

  華は、九条院の冷徹な策略に憤りを覚えると同時に、自身が渦中の存在であったことに身のすくむ思いを感じるのだった。

  

第五章: 惨劇の幕引き、宿命の対決

    御茶ノ水と華は、九条院香澄の計画を食い止めるため、それぞれの方法で対抗手段を講じていた。

  華は、警察に保護されつつも、アイドルとしての影響力を利用して、九条院の団体の実態を暴露しようと試みる。メディアを通じて、自らの体験を赤裸々に語り、世間に警鐘を鳴らすことで、九条院の野望を阻止しようと尽力した。

  一方で御茶ノ水は、独自のルートで九条院の劇団『エクリプス』の内情を探っていた。この劇団は、表向きは前衛的なアート集団を装っていたが、実態は九条院のカルト教団の如き集まりであった。

  団員たちは皆、九条院を崇拝し、彼女の教えを絶対のものとして信奉していた。その教えとは、人間の精神を音波によって支配し、理想郷を築くという狂気の理念であった。

  御茶ノ水は、元団員への接触を試み、そこで衝撃的な証言を得る。

  「九条院先生は、選ばれた人間だけが楽園に行けると語っていました。そのための実験として、音波によるマインドコントロールの研究を行っていました」

  元団員の証言によれば、九条院は、特定の周波数やリズムを含む楽曲を作り出し、それを聴かせることで対象者の感情や行動を操ろうとしていたらしい。

  「彼女は、歌姫と呼ばれる特別な存在を探していたのです。その歌声は、人々を恍惚とさせ、彼女の意志に従順にする力があると信じていた」

  歌姫こそ、華であった。九条院は、華の歌声に潜在能力を見出し、実験体として目をつけていたのだ。

  御茶ノ水は、華が九条院の計画において極めて重要な役割を担っていることを再認識する。

  「華さん、あなたの歌声は強力な武器になりうる。九条院は、その力を我が物にしようとしている」

  華は、御茶ノ水の言葉に動揺を隠せない。

  「私の歌が......人を傷つけるなんて」

  御茶ノ水は、華を勇気づけた。

  「だからこそ、あなたの歌で九条院に反撃できる。歌声は、人を癒やし、励まし、救う力もあるはずだ。あなたの歌で、彼女の洗脳を解くことができるかもしれない」

  華は、御茶ノ水の言葉に希望を見出す。歌声という自分の強みを、人のために使うことができるなら、と。

  かくして、最終決戦の舞台は整いつつあった。

  九条院は、華の歌声を用いた大規模実験を計画していた。それは、コンサート会場にて特殊な装置を使い、華の歌声に秘められたとされるパワーを増幅させて、大勢の観客を洗脳するというもの。

  御茶ノ水は、この計画を阻止すべく、会場に乗り込んだ。

  会場は、九条院が厳重に警備しており、武装した団員たちが待ち受けていた。しかし、御茶ノ水は、卓越したマジックを使い彼らを次々と無力化していく。

  ステージ上では、華が捕らわれの身となっていた。鳥籠に入れられ、九条院の操り人形にされようとしている。

  「御茶ノ水さん! 早く......助けて......」

  華の声が、御茶ノ水を奮い立たせる。

  御茶ノ水は、ステージを目指して疾走する。九条院の部下たちと交戦しつつ、華の元へと迫っていく。

  「邪魔者は消えなさい!」

  九条院が、高らかに命令を下すと、複数の部下が御茶ノ水を取り囲んだ。

  「さぁ、私の楽園へようこそ。あなたの魂も私のもの。抵抗は無意味よ」

  九条院は、高笑いを上げる。

  「魂まで奪うつもりですか? 随分と欲張りな方ですね」

  御茶ノ水は、涼しい眼差しで九条院を見据える。

  「あなたの企み、ここで終わりにしましょう」

  御茶ノ水は、手際よくマジックで惑わし敵を倒しながら、華の鳥籠に近づいていく。

  「やめなさい! あなたでは私に勝てないわ!」

  九条院は、自信満々に宣戦布告する。

  「私の音楽で、あなたの魂は浄化される。さぁ、歌姫。歌いなさい!」

  九条院の合図により、華の歌声が流れる。しかし、その歌声は、以前のような温かみや情感に溢れたものではなかった。機械的で冷たく、聴く者に不吉な印象を与える歌声に変貌していた。

  「これが、あなたの理想の歌声なのか?」

  御茶ノ水は、華の歌声に反応を示さず、鳥籠に近づいていく。

  「何......!? どうして......」

  九条院は、動揺を隠せない。

  「御茶ノ水さんは、あなたの洗脳が効かないのよ!」

  華は、御茶ノ水が特別な存在であることを九条院に突きつける。

  「なぜ......なぜあなたは操られないの?」

  九条院は、理解できないといった様子で御茶ノ水を見つめる。

  「私には、あなたの音波が雑音にしか聞こえない。なぜなら、私の耳は、真実の声しか聴き取れないからだ・・・(実はマジックだけどね)」

  御茶ノ水は、九条院を挑発するように語りかける。

  「あなたの作り上げた嘘の歌など、塵も同然。さぁ、真実の声を聴かせよう」

  御茶ノ水は、華に向けて合図を送る。

  華は、心の底から湧き上がる想いを込めて歌う。それは、九条院によって汚された歌声を清めるかのような、純粋で力強い歌声だった。

  華の歌声は、会場にいる全ての人々の心に届いた。九条院の洗脳から解放された観客たちは、我に返ったように呆然とする。

  「こ......これが真実の歌......」

  九条院は、初めて経験する感覚に戸惑いを隠せない。

  「あなたの魂も、私の楽園の一員となる。さぁ、歓喜の声をあげなさい!」

  九条院は、最後の抵抗を見せようと、自らマイクを握り歌い始める。しかし、彼女の歌声は、もはや誰の心にも響かず、虚しく会場に木霊した。

  「これが、あなたの理想郷の終わりだ」

  御茶ノ水は、華の歌声に合わせてアクションを起こす。素早い身のこなしで、九条院の部下たちを次々と無力化し、華の鳥籠の鍵を開ける。

  「解放されたわ......ありがとう、御茶ノ水さん」

  華は、感謝の気持ちを伝える。

  「華さんの歌声は、人の心を救う力がある。あなたの歌で、九条院の洗脳から救われた人は多いはずだ」

  御茶ノ水は、華の歌声の持つ力を讃えた。

  会場は、華の歌声に包まれ、九条院の呪縛から解き放たれた人々の歓喜の声に満たされていく。

エピローグ: 新たな旅立ち

  紫藤蓮を巡る一連の事件が終結してからしばらく経った。

  名城華は、アイドル活動を再開していた。あの事件以来、彼女の歌声は、より一層輝きを増し、多くの人に勇気と希望を与えていた。

  華の歌声は、九条院香澄の洗脳を受けた人々をも救っていた。彼女の歌声を聴くことで、九条院の支配から解放され、本来の自分を取り戻すことができたのだ。

  華は、歌声を通して、人々の心を癒やし、励まし、支えている。彼女の歌は、単なるエンターテインメントを超え、魂を揺さぶる力強いメッセージとなっていた。

  「みんな、私の曲を聴いて元気になってほしい。歌を通して、みんなに恩返しをしたいの」

  華は、御茶ノ水透との出会いと、九条院との戦いを経て、歌声に対する信念を新たにしていた。

  一方、御茶ノ水は、再び全国各地を渡り歩き、探偵業を続けていた。

  沖縄での出来事は、彼の人生における転機となった。華との出会いは、彼に人と繋がる大切さを教えてくれた。

  「御茶ノ水さん、また会いに来てもいいかな?」

  事件後、華からそう尋ねられた御茶ノ水は、少しの躊躇もなく即答した。

  「もちろんだ。君の歌声は、俺にとっても特別なものだ。いつでも歓迎するよ」

  その後も、二人は定期的に連絡を取り合い、互いの近況を報告し合う仲となっていた。

  そんなある日、華から御茶ノ水に緊急の呼び出しが入る。

  指定された場所は、東京湾岸エリアの高層ビル群が立ち並ぶ一角であった。華が待っていたのは、ビルの最上階にあるレストラン。そこは、都会の喧騒を忘れさせるような、落ち着いた雰囲気に満ちていた。

  華は、やや緊張した面持ちで席に着いていた。

  「御茶ノ水さん......今日は、相談したいことがあって」

  華は、神妙な表情で切り出した。

  「実は......海外留学を決めたの。歌を学びに、アメリカに渡るつもり」

  華は、かねてより憧れていた音楽の聖地に身を置き、本格的にボイストレーニングを受けることを決意したという。

  「しばらく日本を離れることになる。でも、御茶ノ水さんと出会い、事件を乗り越えたこの街が大好き。だから、いつか必ず戻って来る」

  華の決意表明に、御茶ノ水は静かに微笑んだ。

  「君の歌声は、どんな距離も超えられる。たとえ離れていても、俺はいつも君の歌を聴いているよ」

  御茶ノ水は、華の挑戦を応援していた。

  「ありがとう、御茶ノ水さん。あなたが側にいてくれたから、私は歌声を取り戻せた。これからもっと強くなって、みんなを救える歌を届けたい」

  華は、御茶ノ水への感謝の気持ちを改めて伝える。

  「華さんの歌声は、すでに多くの人を救っている。君の歌は、誰かの希望になっているんだ」

  御茶ノ水は、真剣な眼差しで华を見つめる。

  「私も、御茶ノ水さんに負けないくらい頑張る。探偵としても、人としても尊敬できるあなたを越えられるよう、自分を磨いてくる」

  華は、御茶ノ水を追い越したいと茶目っ気たっぷりに宣言する。

  「じゃあ、いつか探偵業界でライバルになるかもしれないね」

  御茶ノ水は、華の健闘を祈りつつ、冗談めかして返す。

  華は、クスリと笑い、御茶ノ水との再会を約束した。

  こうして、御茶ノ水透と名城華の物語はひとまず幕を閉じる。

  しかし、彼らの冒険はまだまだ続き、幾多の事件を解決し、悩める人々を救っていくことだろう。

  華の歌声は、御茶ノ水の心にいつも寄り添い、二人はそれぞれの道を歩み続ける。

  ...The End.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?