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命懸けのトンネル探検

私の住む地方都市は、周りを山に囲まれた田舎であった。街の東西に線路が伸びており、街の外れにはトンネルがあった。そのトンネルは不気味な口を開き、まるで私たちを誘っているかのように見えた。

中学に上がり、毎日何か面白いことを求めていた私は、ある日の休日、同級生の友人HとIと3人で、街外れのトンネルへ探検に出かけることにした。線路は道から2m程高い所を通っており、入れないよう柵が続いていた。しかし、田舎ゆえか、柵が外れている場所を私たちは見つけていたのだ。

1本下り電車が通った後、周りを見渡し誰もいないのを確認して私たちは線路に入った。入ったところから見て、手前が下り線、向こう側が上り線だった。まず私は線路に耳を当て、電車が来ないか音を聞いた。電車が近づくとゴーっと音がするのを、悪知恵の働く悪ガキは知っているのだ。そして、いつも通るのを見ていて、だいたい15分おきに電車が通ることを把握していた。

入った所からトンネルまでは400mほどの距離があり、そこまで逃げ道がないので急いでトンネルへ辿り着いた。トンネルに入ると中は涼しく、不気味な感じがした。そして線路に立っている電車の信号を見つけた。なるほど、これが赤のうちは電車は来ないと分かった。

暗いトンネルを進むと、所々に避難できるスペースがあった。すぐさま、電車が来たらそこへ避難することを話し合った。暗闇の中しばらく進み、たまに振り返ると入り口がだんだん遠くなる。初めは真っ白く大きな円が、段々暗く小さくなって月のように見えた。

その出口辺りにあった信号が青に変わった。トンネルの奥から、ゴーッという音が近づいてくる。私たちは避難スペースへ入り、線路を見ると、電車が凄い勢いで通り過ぎた。その迫力はものすごかった。先を見るが全く出口は見えない。このトンネルは2kmほどあり、途中でカーブがあるので出口が見えないのだ。

だんだん皆無口になり、私も怖くなってきた。「出口も見えないし引き返そうか」と提案すると、みな同意見だったので引き返すことにした。ゴーッという音が聞こえるたびに近くの避難スペースでやり過ごし、トンネルから出たときはホッと一安心できた。

暗闇の中から出られ、皆すっかり安心して、線路に腰を下ろし喋っていた。私はどこかのテレビシーンを思い出し、線路に寝転がり「うわー轢かれるー」などと言って遊んでいた。ふと2人を見ると、線路の外側に立ってこちらを見て何か叫んでいる。何だろうと思いトンネルの方を向くと、電車が「ファーン」と警笛を鳴らし迫っていたのだ。

私の頭はパニック状態に陥った。トンネルから出たことで全く油断していたのだ。内に飛ぶか外へ飛ぶか、それとも寝転がって線路の中でやり過ごすか。一瞬の間に考えが駆け巡り、私は外へ飛んだ。ゴーッと電車が目の前を通り過ぎた。

私は心臓バクバクで友達のそばへ行った。「ヤバかったよ、びっくりした」そんな話をしていると、駅の方から駅員が走って来るのが見えた。子供が線路に入っていると、先ほどの電車の運転手から駅に通報されたのだ。

私たちは「ヤバい、逃げるぞ」と言い、線路下に置いてあった自転車に乗って一目散に逃げ出した。今思えば捕まったら学校は大騒ぎになり、大問題になっていただろう。しかし今でもその時の悪夢を見る。本当に危なかった。青春時代の過ちの一つであるが、あの時、助かったのは、ただ単にラッキーだっただけだと、今更ながらに身に染みて感じている。

あれ以来、私たちは線路遊びはしなくなった。



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