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2019/12/16 経験のつみたて

司書のKさんとの話。

Kさんはその職業柄もあれど、個人としても「かたい本」にも「やわらかい本」にも通じているので、話していてとても楽しい。出会ってまだ半年余りだけれど、わたしの好みそうな本が入ってきたらすぐに教えてくれるのもありがたい。お仕事の邪魔をしない程度にKさんのところへ話をしに行く。

登録待ちの本の山を前にして「仕事の本もそうだけれど、個人的な読書もここのところできていなかった」とKさんは言う。話を聞いてみると、Kさんはかれこれ27年にもわたってエアロビクスを続けていて、しばらく前にあった大きなイベントに向けた練習や何やらで忙しかったそうだ。Kさんのアクティブな一面に驚く。「それが一段落ついたところで、実家で久々にピアノを弾いたらおもしろくなって、練習をしたら、腕がもうバッキバキ」と続けて笑うので、さらに驚いた。

「やったことがあるって、貴重だなと思ったんです。一時期離れていても、再開すればまた楽しめるから」というKさんの言葉に感心した。

まったく経験がない状態で何かをはじめるのは、結構ハードルが高い。だけれど、少しでも経験したことがあるというだけで、そのハードルはかなり下がる。下手でも三日坊主でも、とにかく「やってみる」ことに意味がある。Kさんの言う「再開」も、一度は経験しているからできることだ。

「経験の貯金」と言ってもいいのかもしれない。深く知る専門性も大事だけけれど、一方でもっと気軽に「ちょっと知っている」「少しかじったことがある」と言えることがあるのも大事なのだ。経験したことがある事柄については、聞き手の理解もよりスムーズであったりする。

先日たまたま手に取った『ミッキーマウスに学ぶ決断する勇気 ニーチェの強く生きる方法』の最初に登場したページを思い出す。この本は『ツァラトゥストラはかく語りき』をどう踏まえているのかよく分からず、やけにポジティブな言葉がディズニーのイラストに引っ張ってもらって成り立っているような、筆者もよく分からない曖昧な本だ。いつもなら買わない。でも、その最初の項には、妙に共感してしまったのだ。

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出典:ウォルト・ディズニー・ジャパン監修『ミッキーマウスに学ぶ 決断する勇気』角川文庫

あらゆることを体験し尽くすことは不可能だけれど、でも、可能な限り自身で経験することは、自分の思考を支えると思う。今の時代、今いる場所から遠く離れたところのことも、昔のことも、インターネットで検索すれば、なんとなく分かった気になれてしまう。ウェブ上のもっともらしい記事を読んでなんとなく納得してしまう。でも、この「なんとなく」が曲者なのだ。「なんとなく」に流され、自分の頭で考えることを放棄しないためにも、自分で経験すること、そしてそれを自分の中に積み立ててゆくことを心がけていたい。

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出典:荒木飛呂彦『デジタルカラー版 ジョジョの奇妙な冒険 part4 ダイヤモンドは砕けない 6巻』集英社 p118

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