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「クラムボン」という名のワイナリー

宮沢賢治の『やまなし』という作品がある。

カニの兄弟と、その父親が織りなす、
水底における物語である。

冒頭、兄と弟の会話の中に、何度も登場する
印象深い言葉、それが「クラムボン」だ。

『クラムボンはわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『クラムボンは跳はねてわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
(中略)
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまったよ………。』

宮沢賢治 『やまなし』

読んでみると、何となくそれは「泡」だろうと
見当がつく。
「泡」がブクブクと生まれては消え、
消えては生まれ、そんな様子をカニの兄弟が
「わらった」とか「死んだ」などと表現して
いるのだ。

賢治独特の言い回しは、そんな言葉は存在しない
だろうと思うようなものであっても、なぜか
何となく伝わってしまう、不可思議なものが
多い
と記憶している。

その「クラムボン」という名前を冠した
ワイナリー
が、日本のワイン生産のメッカ
である山梨県の勝沼にある。

人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりを童話で伝えた宮沢賢治に共感し、この社名が名づけられました。

同社ウェブサイトより

創業は古く、1913年というから100年超えだ。
今の社名に変えたのは8年ほど前。

ワインのラベルに、カニやマス、カワセミ、そして
やまなしが描かれている。
そして、どのラベルにも、ブクブクと「クラムボン」
が立ち上っている様子が、シンプルなタッチで表現

されている。

このラベルのセンス、そして背後にある
ストーリー
に思わずやられてしまい、
手土産として買い求めたのだった。

ワインを味わうのは、当然「舌」である。
それはそれで正解なのだが、実のところ
ワインを味わっているのは「脳」だと
言って良いだろう。

原料のブドウがどこ産の何という銘柄か、
収穫された年の気候は当たりか否か、
作り手は何というワイナリーの誰か、、、
目の前にある紫色の液体だけから味を
判断するのではなく、そういった様々な
付随情報も含めて「味わう」のが実態
だ。

これは何もワインに限ったことではない。
食べ物は、ただ食欲を満たすだけではない。
飲み物は、ただ喉の渇きを潤すだけではない。
それらの基本的な機能に加えて、
消費する我々の感情、情緒を刺激し、
嬉しさ、喜びをもたらしてくれる。

前者だけなら「エサ」である。
しかし、我々人間が求めるのは、
「食事」であり「食文化」である。

ということで、話が少し大げさになってきた
ので、そろそろ締めよう。

『くらむぼんワイン』は、ワイナリー自体の
評価も高い。
「日本ワイナリーアワード®2021」において、
4つ星を獲得しているのだ。
特に宮沢賢治の世界観を好む方に、
是非とも堪能いただきたいと思う。

己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。