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岡田尊司著『境界性パーソナリティ障害』を読んで

改めて自分を見つめ直すために本を2冊買った。
そして一気に読み終えた。

ひとつは『境界性パーソナリティ障害』。
もうひとつは『絆の病―境界性パーソナリティ障害の克服』というタイトル。

どちらの本もパーソナリティ障害や発達障害治療で有名な岡田尊司先生が筆を執っている。
厳密に言えば、後者は岡田先生とBPD当事者の対話形式で進行されていく共著だが。

前者に関しては、もっとはやく読んでおけばよかったと思った。

後者に関しては、複雑な思いを抱いて読み進めることになった。自分と同性かつ、歳も近め……というのが引き金になったかもしれない。

苦難を乗り越えたとはいえ、いまや「成功」側にいる、とみなしてしまったのも大きいだろう。
(その人にしか分からない苦労があるだろうに)

「え?それだけ恵まれている環境ならいいよな……」と醜い嫉妬が立ち込めてしまったのである。これぞ、すぐに羨望をこじれさせるBPDクオリティ。(私だけかもしれません。主語が大きくてすみません)

当事者の語りを巧みに引き出していく岡田先生の柔和な語り口に、ざわつく心を宥めてもらいつつ読み終えることができた。
実際の経験はないが、BPDの自助グループに参加したらこんな感じなのかな?と思った。

以降は『境界性パーソナリティ障害』のほうの感想。

病像、病因、診断基準、治療法……果ては実践に使えるアプローチまで記述されている。
新書だからというのもあると思うが、驚くほど読みやすい。

これまで個人的に集中的に学んできたマスターソンやコフートだけでなくクラインやボウルビィ、カーンバーグの理論も紹介されている。

換言すれば……分離-個体化の失敗、自己愛の問題、部分対象/全体対象、愛着形成における問題、病態水準の話などなど。

ただそれはこんな視点からもBPDをとらえることができる、というあっさりとした書き方である。理論に深入りはしていない。

BPDと思しき有名人のエピソードも多く、いたずらに親近感を覚えてしまう。
ベースとなるパーソナリティによってBPDの出方は多様化することは知っていたが、こんなにも前景に出る傾向に差があるのか、と感じた。

なかでも、全編を通じて挿入されるヘルマン・ヘッセのエピソードはなぜか私の心に残った。
恥ずかしながら、彼もBPDに苦しんでいたことを本書で初めて知った。

なるほど。
改めて彼の生い立ちを知ってみると『少年の日の思い出』に漂う純度の高い攻撃性と妙にリアルな不穏な人間関係の描写に納得がいく。(何様だよ。いえ、この作品が昔から好きなだけなんですよ)

ヘッセの家庭環境も、たどった経過もそれほど自分とは似ていない。文化も時代も性別も何もかも違うので比較などお門違いかもしれないが。

彼のほうがずっと苛烈で、残酷な環境を経験している。あえて共通点を挙げるとするなら、仕事が長く続かないことだろうか。
彼は周りからお膳立てされ、斡旋された仕事を何かと理由をつけては辞め続けた。

そういえば私も、直接的/間接的に助言を受けてはじめた仕事はいつも以上に続かなかったな……と開きたくない記憶を薄目でみつめる。

彼は金銭を得る仕事から離れ、殻にこもる日々を送りながらも誰にも強制されずに得る楽しみを味わうようになった。それが読書だった。
私にとっては何が相当するのだろう……そう思いながらページをめくる。

やがてヘッセは自分の意思で選びとった道を歩み、職業作家として大成する。

夢を叶えるのも、もちろんすごいと思うのだがその過程で作家以外の工場の仕事もして「継続」に成功していることに私は感動というか、なんとも言えない嬉しさを感じた。

何をやってもだめな(=続かない)わけではなく、自分で選んだことならやはり続けられるのでは?という希望をみた気がしたのだ。
最近頭に刻まれていた「主体性」というキーワードがさらに私のなかで輪郭を強めていく。

ヘッセの工場での仕事は、やることが決まっていた。金属をヤスリで磨き、ボルトを締める……シンプルな作業だった。
それでもそこに楽しさを見出し、休むことなく出勤し、帰っては詩作などをすることで彼の症状は安定していったという。

BPDの特性を持つ人は枠組みのない状態が苦手だと本書でも言及されている。
たしかに自分の頭で考えて適切に動くのはとても負荷がかかる。そのせいか、私もホステスの仕事を終えて帰宅したら屍のようにぐったりしている。

逆に、このタイミングでこれをやれ、と明確な指示をもらえるほうが楽である。
物事はある程度構造化されていてほしいし、際限のない自由のなかでは自由を持て余して何もできなくなってしまう。
少しだけ「囲い」や「仕切り」がほしい。

私ってそういえばそうだな、が詰まった本だった。自分を再発見した気分だ。

そしてもう一度、まっさらな気持ちでBPDについて学んでみようと思える本でもあった。

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