「コロナ禍で頭の中がグチャグチャです」 開業医のひとりごと 秋山一誠 2021年8月号
#開業医のひとりごと
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#秋山一誠 (あきやまかずせい) 文
コロナ禍も1年半を過ぎ、ワクチン接種事業もすすんできましたが、まだまだ終息に向かう気配はありません。当地サンパウロ市では成人の8割方が予防接種を1回以上済ませた状況のため、1年以上前より続いていた規制がかなり緩和されましたが、依然新規感染者数が減りません(註1)。ワクチン接種が成功している国や地域を見ると、新規感染者は減るどころか増加が認められるが、入院数や死者数が減ってはいるので、これがワクチン接種の効果と言えるでしょう。つまり、コロナワクチンは感染を防ぐのが主作用ではなく、重症化を防ぐ効果があると言えます。接種先進国の英国は6月下旬にコロナ禍の規制を全て解除しましたが、新規感染者数は爆発的に増加しています。これをみると、新型コロナウイルス感染症をワクチン接種によっていわゆる「普通の風邪」程度に変化させる政策であることがわかります。普通の風邪だと医療サービスの圧迫がないので医療崩壊しないというわけですね。
ワクチン接種が進んでないのに、とんでもないことを実施している所はこのコラムの24人の読者様もよくご存じです。先月の23日より東京五輪を開催している日本です。はっきり言って、利権・商権・政治的操作の権化と化してしまった五輪には筆者は関心がないのですが(註2)、今回は流石にコロナのため延期されてから膨大なニュースになっているので嫌でも耳に入ります。現時点での関心は緊急事態宣言下で行われているこの「ゴリ(ん)押し東京大会」がどのように感染を拡大させるかといった疫学的・医学的なところですが、今までの経緯を見ていて連想するのが、精神科領域の「統合失調症(2002年まで精神分裂病と呼ばれていた)」です。統合失調症は深刻な精神病の一つであり、幻覚や妄想、まとまりのない思考や行動、意欲の欠如などの症状を示す精神疾患と定義されてます。政府や組織委員会の行いは正にこの定義に当てはまるのではないでしょうか?外出規制や飲食の規制などを呼びかける反面、五輪は全て例外で大量の人流を起こす。できるわけのない五輪関係者に対する規制(プレーブックとかいうやつです)を発行して「安心安全」と言っている辺りは医者からみると幻覚や妄想でないの? と言わざるをえませんねえ(註3)。
『開催前は批判的だったマスコミもいざ始まるとなるとコロッと論調を変える辺りや「ここまで来たので応援する」と言っている人なども分裂症状でしょ』
もちろん組織や官公庁、マスコミなど法人の統合失調症は存在しません。しかし相反する行動を見たり要求されたり、そのような情報に曝される側にとってはストレスになります。一般的な日本人は五輪を楽しみたい反面、五輪のため感染者が増えるのが怖いといった精神状況であると思います。コロナ禍でみんな大変な思いをしているところにこのストレスの負荷です。医学的には決してよろしくないとしか言えないです。コロナ禍は人類が経験したことのない抑制的な生活、将来の不安、死への恐怖など、巨大な心理的圧力をかけてきました。そのため、次の二つの精神的障害が去年より多々見られるようになっています。
①不安障害
②プロカスティネイション(procastination、和名なし)
前者は不安神経症とも呼ばれ名称のとおり、心配や恐怖を普段以上に抱いてしまい、生活に支障を起こす状態です。後者は日本語では「延期、引き延ばし、ぐずぐずすること」などと呼ばれ、「しなければならないことを翌日に延ばす(それで翌日にはまたその翌日に延ばす)」状態です。
プロカスティネイションの例をあげると、「試験勉強をしないといけないのに先延ばしにして、勉強しない」があります。「やらないといけないこと」がストレスになり、ストレスを避けるためにしないのがその場では精神的防御になりますが、結局やらないことによって結果が宜しくないので、さらにストレスが増えるといった心理的な罠であると説明されます。コロナ禍の場合、自宅待機になったり、テレワークになったり、失業したりなど、思ってもいない時間ができたので、「その時間を有効利用してさらにレベルアップ、今まで時間がなくてできなかったことをする」などがコロナ禍を上手に過ごす方法だと言われました。でも、結果としては「やらないといけないこと」が増えてさらにストレスが増大したわけです。それで、これらのストレスがさらに不安障害の糧となり、今度はうつ状態になったりするのです。コロナ禍では「できない」のは単に怠けているのではなく、「引き延ばし」が起こっているかもしれないし、さらに状況が悪化して「うつ状態」になっている可能性が大です。2012年4月にひとりごとしたようにうつ状態の原因は器質的疾患もありうるので、それらを判別する必要がありますが、コロナ禍で受診控えが起こり診断がついていないことも考えないといけません。
『日本では「安心安全」と言われば言われるほど、ストレスが増える。現状がそうではないことを示しているから。ブラジルでは「もう大丈夫だから規制緩和!」と言われてもまだ毎日1000人以上コロナで死亡している現状ではストレスにしかならん』
不安障害は精神科領域では「minor disorder(軽度な障害)」に分類されますが(註4)、普段の生活に支障をきたします。次のような状況や症状がある場合は受診控えしないで医師の診断を受けることをお薦めします。
《状況》
・人間関係や場所や状況を避ける、注目を浴びないようにする
・電話に出たり、人前にでたり、他人と話しや食事したりすることができない
・毎日のように不安、緊張、心配、恐怖を感じる
《症状》
・漠然とした不安や恐怖
・イライラしたり、ちょっとしたことに敏感になっている
・集中できない、落ち着きがない
・同じことを何度も考えてしまう、同じ行為を繰り返す
・動悸がしたり、胸に違和感や不快感がある
・肩こりや頭痛がある
・腹部に違和感や不快感がある
・吐き気があったり、喉が詰まったような感じがする
・息切れや息苦しさがある
・眩暈やふらつきがある
・突然汗がでたり、身体の震えがでる
註1:サンパウロ市に限っては入院数は減少しています。
註2:北京大会から観ていません。都合良く利用されている選手やボランティア、子供たちがかわいそうです。
註3:ゴリ押したIOCは反面、ブレないですね。最後まで利権を守った。分裂症状はないです。
註4:因みに「major disorder(重度な障害)」は、大うつ性障害、双極性感情障害、統合失調症、薬物依存症、認知症、人格障害、発達障害、等。
診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメントした文章を記載してますので、併せてご覧いただければ幸いです。
秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、予防医学科)。この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。
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