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新型コロナウイルスワクチンとは? 開業医のひとりごと 秋山一誠 月刊ピンドラーマ2021年2月号

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#開業医のひとりごと
#月刊ピンドラーマ  2021年2月号 HPはこちら
#秋山一誠 (あきやまかずせい) 文

 今月もコロナの話です。もうこのコラム、ひとりごとではなく、コロナ解説に変えようかなと思うくらい、毎月コロナコロナですね。何回も言っていますが、100年に一度の人類の危機なので、ずっと話題の中心になることは仕方がないです。

 我々の生活をこれだけ脅かすようになった疾病を通り越して、社会現象といえるコロナ禍も1年が過ぎたところです。たった1年前は人類は普通に「喜怒哀楽」に満ちた生活をしており、今は「怒哀」だけのこんな色んな制限のある生活を強いられるとは誰も思ってなかったですよね。この不自由な生活を終焉させるとされる一縷の望みがワクチンとされ、最近の一番の話題です。コロナワクチンについては4か月前に免疫の話の中で少しひとりごとしました。今回はさらに詳しく解説を試みます。

 世界中の生活を止めてしまったコロナ禍なので、とにかく早くワクチンを実用化せよと大号令がかかり、人類史上かってないスピードでコロナウイルスワクチンの開発が進められてきました。去年の前半では100社以上が開発をスタートし、現時点では臨床試験段階にあるのが25種類、前臨床試験段階にあるのが139種類で、実用化にこぎ着けたのは今のところ一桁台の製品です。ワクチン開発には通常5年や10年といった時間がかかります。それを1年もかけず実用化されたのは従来の有効性や安全性の検証が省略されたからに過ぎません。

『はっきり言って「まあこんなもんで大丈夫だろう。大丈夫だったらいいな。大丈夫でありますように」程度の検証で認可された製品だな』

 ワクチンを接種することによる問題の一つが、副反応です。つまり、該当する感染を防御するか重症化を防ぐといった効果である主反応以外の作用のことです。副反応は超短期的・短期的にはアレルギー反応や脳神経炎などがあり、長期的にも後期副反応と呼ばれるものもあります。10月にひとりごとした「抗体依存性免疫増強」などは長期的な安全性を検証しないと判明しない重篤な副反応です。とにかく今回は公衆衛生上緊急性が高いということで、どんどんワクチンが認可されていますが、純粋に医学的に言うと、危険は想定内だとは認知されていますが、大々的な人体実験が行われている事情に該当します。

『しかし一番懸念するのは今まで認可されたことがない手法で製造されたワクチンの使用だな。手放しで喜べない。理性的に容認するのと感情的に否定するのとの狭間で揺れる』

 ワクチンを生産するのに一番古い手法は感染症をおこす病原菌を不活性化または弱毒化させ、それを体内に入れ、その抗原に対して免疫反応をおこし、中和抗体ができ、次にその病原菌と接触があっても抗体が無力化して発症しないといった方法です。この方法は二つ問題があります。まず不活性化させる前に病原体を培養しないといけない、つまり生物学的な危険を伴う作業であり、安全に病原体を扱える施設が必要ということ。次に、下手をすると、予防すべき感染症になってしまうことです。不活性化を強め過ぎると、病気にはなりませんが、免疫反応があまりおこらない。なので予防効果を強めようと不活性化を弱めると本当に元の感染症になってしまう。「不活性化ワクチン・弱毒性ワクチン」の一番難しいところはこの兼ね合いですが、古くから使われてきた生産方法なので、これまで数多のヒトに接種した実績があり、安全性に関しては一番知見が多いワクチンです。サンパウロで導入されている「コロナバック(CoronaVac)」がこのタイプのワクチンです。従来のワクチン政策に沢山使われ、普通の冷蔵で流通が可能な点も利点です。

 感染をおこしてしまう問題を回避するのに開発された手法が、元の病原体でない生物(大腸菌、酵母など)の遺伝子を組み換え、該当する病原体の特徴であるタンパク質を作らせる方法です。そして作られたタンパク質を摂取する、一般的に「組み換えタンパクワクチン」とよばれる製品になります。これだと、病原体の一部の部品(タンパク質)しか接種しないので絶対に元の感染症にはならないのです。アレルギー反応などはおこす可能性はありますが。コロナ用はまだ製品化されてなく、オーストラリアで臨床試験されています。ブラジルにも日本にもありません。

 「組み換えタンパクワクチン」の発展型というのが「ウイルスベクターワクチン」です。ベクターとは「運び屋」という意味です。これも同じように元の病原体の遺伝子を利用するのですが、病原性のないウイルスにその遺伝子を置き換え、今回の場合はコロナウイルスのタンパク質の合成を誘導します。この病原性はないが病原体のタンパク質を作るウイルスをヒトに接種すると、それに対する免疫ができる仕組みです。コロナワクチンの場合はアデノウイルスを運び屋に利用します。ブラジル連邦政府が導入を進めているオックスフォード大学・アストラゼネカ系のワクチンやロシアのスプートニクVがこれに該当します。日本でも供給が予定されているようです。

 これらのワクチンは既に実績があったり、認可されたりしているのですが、全く新しい手法のため、喧々諤々と是非が激しいのが「いわゆる遺伝子ワクチン」です。mRNAワクチンとDNAワクチンがありますが、後者はまだ製品化されていません。前者がヨーロッパや北米で大々的に接種が開始されたファイザー社とモデルナ社の製品です。コロナウイルスの抗原タンパク質をつくる遺伝子情報(塩基配列)をヒトに接種し、それがヒトの細胞に取り込まれ、細胞内で抗原タンパクが作られ、それに対し免疫が誘導されるという手法です。ウイルスに感染するとウイルスの遺伝子情報がヒトの細胞の機能を使い、ウイルスタンパクが産生されていたのと同じこととされます。今までにこのタイプのワクチンは認可、使用されたことがないので、理論的には安全ではあるとされますが、長期的な安全性や効果については未知の製品です。現在の技術では遺伝子情報を作成するのは簡単かつ大量にできるので、開発と生産が容易なのが利点とされていますが、流通にはマイナス75℃や20℃など、普通のインフラでは不可能な超低温を必要とされ、いったん超低温から出すと数時間の有効期限しか持たないのも非常に大きな弱点といえるでしょう。日本はこの種類のワクチンを中心に接種政策を行うと発表していますが、ブラジルを含め後進国では一般的な使用はあり得ないと思います。

『ブラジルでは富裕層向けにこのタイプのワクチンを提供するサービスが準備されていると噂があるぞ』

 元々呼吸器系の疾患に対して生涯免疫ができるワクチンは今まで製造されたことはなく、いずれのワクチンを接種しても中和免疫ができる効果があっても、あまり長くは持続しないであろうと思われます。なので、当分はインフルエンザワクチンのように毎年定期的に接種する必要があるのではないかと考えます。

『コロナウイルスは変異しやすい。去年は再感染の問題が指摘されていたが、どうやらウイルスが変異してそれに“再”感染するようなのだな。その証拠ともいえるのがブラジルで4月頃一番始めに感染爆発し、一番始めに集団免疫を獲得したとされるアマゾンのマナウス市の先月からの再度感染拡大ではないか? ブラジルで確認されているコロナウイルス変異種はこのアマゾン型である』

 コロナウイルスも変異種がインフルエンザウイルスのように持続的に出現するのであれば、ワクチンは感染防御にはそれほど役立つわけではありませんが、インフルエンザワクチンのように「重篤化」を防ぐ効果は期待できると考えます。筆者はコロナワクチンを接種するべきではないとは思いません。現時点ではB国のように政争のタネにされていたり、C国のように国益のために供給したりしなかったり、J国のように官僚主義のスピード感などで24人の読者様がワクチンにたどり着けるかわかりません。しかし、接種機会があればどうしたいか今から熟考しておくに値すると思います。

診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメントした文章を記載していますので、併せてご覧いただければ幸いです。

秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、予防医学科)。この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。


月刊ピンドラーマ2021年2月号
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