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読書キロク vol.1 【月の満ち欠け 佐藤正午】

【月の満ち欠け 佐藤正午】


佐藤正午先生の本作が直木賞を受賞したのは、確か2ー3年前。(調べたところ2017年でした)

いつか読みたいなと思っていたものの手を出せずにいた本作を衝動買いした理由は、装丁に心躍らされたからです。

ええっ、岩波文庫じゃなかったの!?そりゃ確かに岩波文庫に入れるにはまだはやいか…じゃあこれはなに!?「岩波文庫的」って!?

ぱっと見は岩波文庫のこの作品、実は「岩波文庫的」なのです。

背表紙も「月の満ち欠け」のタイトルに合わせてかゴールドとなっており、センスの塊。

こんな小洒落た仕事をしたい、「岩波文庫的」を考えた編集者も佐藤正午先生もうらやましい、、の気持ちが止まりませんでした。

あらすじとか感想とかの前に…

わたしのnoteを読む人がどれだけいるか、ひょっとすると0人かもしれません。

しかし、そうであっても、もしこれから該当作品を読もう・見ようとする誰かの目に止まったときのために、本や映画ネタバレをするのだけは避けたいです。

内容を知らない方が楽しさが倍増するから。

そのようにこれからも映画・読書キロクをつけていくつもりです。

ただ、申し訳ございません。ネタバレをせずに本作の魅力を語るには、あまりにもわたしに才能が足りません。

今回は【注意*少しネタバレあり】ですのであしからず…

現実味を帯びたファンタジー

輪廻転生という言葉、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

輪廻転生ものといえば、三島由紀夫の「豊穣の海」四部作であり、個人的に三島作品の中では1.2を争って好きだった作品です。もう一度読んで感想を書きたいな、なんてことはさておき、本作も「輪廻転生」をテーマにしています。

輪廻転生なんて起こり得ないよ、いや、死後の世界なんて死んだことのない私たちには絶対にわからないじゃない、じゃあもしかして生まれ変わりって存在するかも、、、?

そんな気持ちになりながらファンタジーとはいいきれない現実味のある世界を、ふわふわと彷徨っていきます。

愛と執着の狭間

「あたしは月のように死んで、生まれ変わる。」

本作では、「瑠璃」という女性が一人の男性を再び愛するために輪廻転生を繰り返していく姿が描かれています。

彼女はいったい誰なのか、どこから来て、どこへ向かっているのか。4人の「瑠璃」にまつわるストーリーが折り重なり、何十年もの時を超えて一つの線で繋がります。

瑠璃は「アキヒコくん」を求めて、いつまでも生まれ変わっていくのです。高田馬場でのあの薄暗く、それでいてどこか輝かしい彼とのひと時の記憶とともに。


愛と執着の境目を判断することはとても難しい、と個人的には考えています。

愛からくる執着も、執着からくる愛もどちらも考えられますが、独占欲や支配欲がなくならない限り、それらは切っても切り離せない関係であり続けるのではないでしょうか。

他の自分としての生き方を全て捨て、何度もの人生でアキヒコくんを追い求めた瑠璃の愛に、わたしは純度100%を感じることができませんでした。むしろ、心がもやっとするような一種の恐怖すら覚えてしまうのは、執着の度合いが強いように見えたからだと思います。

結局瑠璃が愛していたものはなんだったのでしょうか。

アキヒコくんそのものではなく、アキヒコくんに幸せにしてもらった自分、なのかもしれません。

結局瑠璃が求めていたものはなんだったのでしょうか。

アキヒコくんそのものではなく、不純な関係の中でも一番に愛された過去の記憶でもあったように感じます。


瑠璃も玻璃も照らせば光る


「瑠璃も玻璃も照らせば光る」

これは本作のキーワードともなることわざです。

そしてわたしが一番好きだったのは

「君にちかふ阿蘇の煙の絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも」
という、吉井勇の短歌です。

このように、短歌やことわざを軸に物語を展開していくことで、作品全体のセンスを際立たせています。

映画やドラマではできない、小説ならではの人の想像力への委ねかたが、こういった小物づかいで顕著となっていました。

堅苦しくないのに、確実に美しい文章で読者を引きつける術。時代の前後も登場人物も多いのに、全く混乱をさせないストーリー。圧巻だな、こんな文章がいつか書けたらいいのにな、と思いながら一気に読破してしまいました。

さいごに

思いついた感想をダラダラつらつらと書いてしまいました。あまりネタバレをすることもなかったかのように思います。

「小説なんて読まなくても生きていける」

寄稿に伊坂幸太郎先生もそう書いていらっしゃいましたが、紙媒体での活字に触れる機会が格段と減っている今だからこそ、読書習慣を大切にして、想像力を絶やさぬよう限られた時間で本物に触れていたいです。

本作はそんな願いを叶えてくれる素敵な小説でした。












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