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柘榴

今はもうなくなってしまったのですが、フルーツジュースのお店で1月に
ザクロジュースが出るのが楽しみでした。

宝石を散らしたような赤く小さな果実。
凄惨な描写の小説ではしばしば「頭がザクロのように割れ……」という生々しい表現を目にします。
果実を絞ったジュースは赤く少しトロっとしていて血を飲んでいるような、錯覚を起こさせる。

柘榴にまつわる伝説もまた、死と血の香りが漂います。
ギリシア神話では冥界に連れ去られたペルセフォネが、柘榴の実を4粒口にしたことで地上にずっと留まることが出来なくなりました。
よもつへぐいの一種でしょう。
4粒しか食べなかったことで彼女は地上と冥界を交互に行き来することが 許されますが、一つ丸ごと食べてしまっていたら……。
そして、鬼子母神が人肉の代わりに食べる食物でもあります。

血と肉と死にまつわる果実。
あの艶やかで毒々しいまでに赤い果肉が血肉へと変わる―――。
エロスとダークな雰囲気を感じる特別な果実……。
ザクロジュースを飲み、そっと指先で唇についた果汁を広げてみれば自分が、魔女か吸血鬼にでもなったように感じてどこかドキドキした甘酸っぱい感覚はいまだに忘れられない大切な思い出。

#創作大賞2023  
#エッセイ部門


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