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「大丈夫です」は、大丈夫なのか

質問としての「大丈夫?」は使わない方が無難と、前回お伝えしました。はっきりと不快感を示す人は少ないでしょうが、言われた相手は心の内で戸惑ったり、傷ついたり、イラッとしたり何らかの負の作用をもたらす可能性があるという話でした。

便利な「大丈夫」という言葉

相手への問いかけとしての「大丈夫?」ではなく、自分の状態を伝える「大丈夫」はどうでしょうか。「大丈夫(です)」は使い勝手の良い便利な言葉です。

例えば、駅で知らない人にぶつかってしまった。相手から「大丈夫ですか」と心配されて「大丈夫です」とお返事する。自然な社会交流です。どれだけ繊細な体感覚を君が持っていたとしても「左の首筋が強張って、腰に鈍い緊張が起きました。胃の辺りが少し…」など、まさか駅で相手に伝えたりはしないでしょう。笑顔で爽やかに「大丈夫です、ありがとう」と伝えることで相手に心配をかけず、安心感を与えることができます。

「大丈夫」は汎用性が高く、さまざまな感情を含めて伝えることもできます。強い口調で言うと「これ以上干渉しないで(私に構わないでください)」と距離を取りたいニュアンスを伝えることができます。親離れをしはじめた思春期の子供は、親にそんな言葉遣いをすることがあります。笑顔と共に優しい声のトーンで言えば、「気にかけてくれてありがとう」という感謝の意味合いも持たせることができます。

確かに、便利な言葉です。
ただ、もう少し内省的な場面、自分自身を観察する際の「大丈夫」は、少し危険です。

危険な「大丈夫です」という返事

僕はボディワーカーとしてクライアントと関わっているので、クライアントに「調子はどうですか?」といった会話からカウンセリングや姿勢評価をはじめていくことがあります。

ボディワーカーとしてクライアントの心身の健康に関わっている僕が、この返答がくると要注意と気をつけているという返事があります。
それが、「大丈夫です」という言葉です。

ボディワーク、セラピーのセッションという非日常の時間での「調子はどうですか?」です。そこでは自分で自分を観察(評価)して、状態を伝えられる能力が求められます。

自分で自分を観察する

「最近、眠りが浅くて…」とか「前回のセッションから肩を調子が良くて…」とか簡単なものでいいのです。マイナスなものであれ、プラスのものであれ、普段の自分と比べてどうなのか。前回のセッション後の自分と比べてどうなのかなどなど。身体であれ、心であれ、機械ではないのですから、日々変化をし続けています。ある部分の調子はより良くなり、反対にある部分は悪くなり、また良い悪いという判断基準以外でも変わっていくものがあるかもしれません。何ひとつ変わらず、一定なはずはないのです。生きているのですから、絶対に"何か"あるはずなのです。

例えば、料理を味わうように

目の前に料理人がいる割烹などで、出された料理について感想を述べるようなイメージをしてみてください。「大丈夫です」「普通です」といった感想を料理人に伝える人はいないでしょう。「美味しいです」「少し辛いですね」などといった全体的なものから、「出汁が…」などより具体的・部分的な感想を伝えられることが出来ればできるほど、会話は弾み、より良い時間が過ごせる気がしないでしょうか。

ぼくは何もボディワーカーやセラピストに気遣いをして欲しいと言っているのではないのです。スマートフォンを触りながら、美味しいも不味いも感じず、ただただ空腹を満たすといった温度感で牛丼を食べる。そんな気分、そんな関心のなさで、自分自身の心身と向き合って欲しくないのです。

部活や軍隊ではないのだから

次に、軍隊の上官が部下に「おい、大丈夫か!」と質問にもなっていない質問をして、部下が「イエスサー、大丈夫です!」と答えるような。そんな風景を想像してみてください。部活などでもいいですし、ブラック企業でもかまいません。

「いやいや、大丈夫じゃないでしょう」
顔色が悪かったり、呼吸が浅くなっていたり、肩がすくんでいたり、部下は大丈夫じゃないことは明らかです。そういう環境に身を置いたことがある人は心当たりがあるでしょうが、興味深いことにある時点までは「大丈夫ではないが、大丈夫だと言おう(大丈夫だと言わないと怒られる)」と部下は思っています。ですが、ある時点を越えると反応的に「大丈夫です!」と返事をするようになっていきます。ストレスのかかっている状態が延々と続いているので、判断能力を失っていくのです。長い満員電車に慣れていくように、何も感じなくなってしまっているのです。自分という存在を感じる唯一の道標でもある感覚、フェルトセンスを失ってしまうと自分という存在を回復させるのには非常に大きなエネルギーを要することになります(ヨガやピラティスなどのムーブメントによる回復はもはや難しく、より治療的なボディワークが必要になります)

(そうなってしまう前に)自分の体、感覚、状態に関心を持ちましょう。それは、自分をより良くするための決定的に重要な習慣です。

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