見出し画像

#4 スーツの美咲

お久しぶり、美咲よ。
じつはね、突然だけど仕事を辞めることにしたの。
こんなこともあるのかって
人生何が起きるわからないわ、本当に。

これは私が仕事を辞める決意をするまでの心の葛藤を綴ったものになるわ。
なぜこの決断に至ったのか、何に悩んだのか、
未来の私が思い返せるように
道に迷った時にこの人生の分岐点に立ち帰れるように
記録しておきたいの。
かなり葛藤していたから話が支離滅裂な部分もあるのだけれど
そこもご愛嬌ということにしておいて。

改めてだけど仕事を辞める決意をしたわ。
「辞める」という言葉は衝撃が強すぎて
口にするのは抵抗があるわね。
区切りをつける、幕を閉じる、そんなところ。

決意までとんでもない時間と思考があったの。
いろんな選択肢がある中で
それぞれの選択で想定される未来とリスクを考えて
後悔したくはないという思いが強く先行して
辞めなきゃよかった
辞めとけばよかった
どっちもごめんだもの。

10年以上も働いた会社よ。
自分でいうことではないかもしれないけれど
私という人間はとても感傷的だから
この年月にかなり思い入れがあるみたいだったわ。
思い出されるのはお世話になった人たち
辛かった記憶
嬉しかった記憶
今の職場の人間関係
飲みに行ってあーでもないこーでもないと談笑したこと
後輩の育成で頭を悩ませたこと
昔の先輩と一緒に働いたこと
ある程度の仕事が分かって先輩ヅラしていたこと
お客さんと世間話で純粋に楽しかっこと
社会や経済のあれこれを体感できたこと
世の中の仕組みや流れの一部を垣間見てちょっとした優越感を持っていたこと
長い十数年だったわ
長くて濃かった
ただの一年一年の積み重ねだけれど
俯瞰して思い返すと大きく膨らんで見えるもの。

いろいろと考えても行き着くところは結局
仕事か家庭か、
超簡潔を言うとこの2択だったわ。
的確な選択肢のネーミングよね。
どちらかを優先しなければならないことがある
大切なものが複数あるということはそうこと
どちらも大切だと言いながら
選択されなかったほうを切り捨てる
いや優先するものがあれば
必然的に選択されないものが生まれるだけであって
大切であることに変わりはない
切り捨てるといった否定的なことをするわけではない
言葉遊びかしら
綺麗事かしら
選べるということは有難いこと
そして時に残酷で
でも人生の大きな分岐点であることに違いないわ。

選ばれなかった未来があるのは確か
その先を誰も見ることはない
だから本来はどっちのほうが良かったか正解だったか
誰にも比較も確認もできない
そもそもそういう論点は意味を成さない

いつだってそう
自分で選ぶことに意味がある
選んだそれを大切にできるか
選んだそれで精一杯頑張れるか
その選択がどうだったか
必要のない答え合わせを
勝手にしようとするのも自分で
答え合わせの結果がどうなるかも自分次第

選択するまでにいろんな人に相談したわ
おそらく自分の選択は決まってはいたけれど
それで大丈夫か
間違ってないか
他の考え方はないか
熟考したくて
背中を押してほしくて
相談していたんだと思うわ

何が私を悩ませたかというと
今の職場が楽しいことでだったわ
もちろんいろんな人はいるけれど
誰とでもうまくやれていると思っていたし
何より人間関係のストレスは感じていなかったの
こんな恵まれた環境はそうないわ
もちろん営業ノルマはあるし毎日多忙だし
あれやこれやとやることが増えるし
そういうストレスや嫌気がさしてくれることはあるけれど
飲みに行けばそんなことは吹っ飛んだわ

相談しやすい上司
面白くて仕事のできる先輩
何でもやってくれる頼りになる後輩
面倒ごとを引き受けてくれる他部署の方々
長年働いてきたこともあって各所にいる懐かしい先輩同僚後輩

そういうお世話になったいろんな方々との繋がりを思うと
辞めるだなんて
そんな簡単に決められない

いっそのこと最悪な職場環境だったら
悩むことなんてなかったのにね

それからお客様も良い人たちばかりだったわね
ただ私では役不足だと思っていたところもあるの
私が結構自己評価が低いタイプなのよ
私なりの精一杯の努力はしていたわ
でも今の職場に選ばれてきたわけではないというか
流れでたまたまそうなったというか
自分の中ではそう捉えている部分もあって
今の状況がずっと続くようだと
いずれプレッシャーに押し潰されるかもしれないって
そう感じていたのも事実ね

家庭のことを考えると辞めたほうが何かと丸く収まる
でも今の状況で辞めるのは勿体無い
この2つの思いがぐるぐるずっと回り続けたわ

今は楽しい
仕事もたくさんくる
新しい話もどんどんきて
前向きに受けて進めようとしている
なのに私の心の中には
辞めるかもしれないという思いがずっとあって
こんな矛盾から抜け出せなくて
ずっと嘘をついているようで
苦しかった

もう一度気持ちを整理することにしたわ

今の仕事は楽しい
正確にいうなら今の職場での仕事は楽しい
仕事内容に誇りも持っている
役職もいただいてそれなりの年収がある
年休だって取れる
福利厚生も充実している
でも仮に職場や人が悪い方に変わってしまったら
今の仕事を続けられる自信はない
それは気持ち的にも自分の実力としても
仕事に誇りはあるけど
何が何でも手放したくないということではない

家庭はどうか
最近入籍した
1年ほど前から結婚の話をしていた
まず議題に上がったのは仕事のこと
ずっと週末婚状態
お互いの家は電車を使って片道2時間半くらいの距離
選択肢は3つ
お互い仕事を変えない
私が仕事を変える
旦那が仕事を変える
とりあえずお互い仕事を変えない選択を取った
それで一旦生活してみることにした
私は平日仕事をして
営業職で職場の人数も多かったから
飲み会が多かった
週末婚状態だから旦那は家にいない
正直最高に自由だった
突然の飲み会も全部参加した
それは楽しいからだけど
家のことを何も気にしなくていいのは楽だった
そして休日は旦那が帰って来る
私は感じていなかった
寂しいという気持ちを
これは誤算だった
こんなに職場の人との人間関係が良好になるなんて
想像もしてなかったから
一方で旦那は寂しかったと思う
私が住んでいる家が2人の家だったから
毎週末帰ってきてくれてた
優しい人だから文句も言わず
一生懸命時間を作ってくれていた
私はその優しさに甘えていた

状況が変わってしまった部分もある
旦那の在宅勤務があまりできなくなったり
休日の宿直や出張が入ったりして
一緒に過ごす時間が減った
これは後から分かったことだが
旦那には緊急連絡の電話が数ヶ月に1回かかってくるようだった
工場でちょっとしたトラブルがあると
現場に部下と上司の2名で行く必要がある
週末は職場から2時間半も離れた場所にいる旦那は
緊急連絡はくるものの現場に行くことはできない
つまり使えないやつだ
今の上司は旦那の状況を理解してくれている方だが
職場の他の人たちや他の上司はどう思うだろうか
旦那の評価や出世に関わることなのではないか
これも誤算だった
旦那は多分私に言えなかったのだ
上司は理解してくれているからと私には言うけれど
問題ありだと思った
そうまでしてお互い仕事が続けられるようにしてくれていたのか
いや旦那の性格だとほんとにそこまで深く考えていなかった説も濃厚だが

旦那に寂しい思いをさせていたこと

これは私が仕事を辞めて
旦那のところに行って一緒に住むほうがいいと思った理由
私はどうやら自分のためとか自分がやりたいこととかよりも
旦那さんのためという理由のほうが心が動いた
これは押し付けがましい意味ではなく
私がそう思って私が選んだこと

もうひとつ私の中で気になっていたのは子供のこと
今年で齢30数歳
授かれるのであれば授かりたいというのが夫婦の見解であるが
よもや高齢出産といわれる年齢を目前に控え
自然の流れに身を任せてとは言っていられない状況と感じていた
これは人それぞれの考え方があるのであくまで私の話
できる時はできるし
できない時はできないのかもしれないが
能動的にことを早目に進めるくらいの圧力があってもいいと思った
だからこのまま週末婚状態を続けるのかを早目に考え直した
これは言い訳かもしれないが
今の仕事はまあまあ激務で
知らないところで蓄積されるストレスや身体的疲れも半端ない
激務かつ精神削るような交渉をする今の仕事を
母親の顔を持ちながら続けられるか不安もある
それに子供ができるまでの夫婦2人の生活も大切ではないだろうか
その時間も人生の中でひと時しかないのだから

ここまできたら
私が仕事を辞めて旦那のところで一緒に住む
という選択が自然と浮き彫りになってくる

しかも旦那は数年後には転勤して
週末婚もできないところに行く可能性が高い
そういずれ私は今の仕事をどうするか決断する時がくる
旦那の性格的に単身赴任はないと思う
いつか仕事を辞めるタイミングがくるなら
体力や気力あるうちに早目に次のステップに移ったほうが
選択肢が広がくのではないかとも思った

まあこんなことがなければ仕事を変えることもないだろう
もちろん今の会社でたくさんの繋がりがある
長年頑張ってきた分
苦労話に花が咲くし今の仕事に対する思いもある
心残りはある
勿体無いな
寂しいなという感情はある
簡単に手放せてるほど軽い気持ちではない

ここで問われた

仕事か家庭か
どちらを優先するのか
どっちも良い状況だから「優先する」という表現なのか

私は家庭を優先することを選んだ

お世話になった人たちの顔と辛かった記憶が浮かんで涙が出る

よくここまで頑張った
そしてこんなに悩ませてくるくらい
恵まれた職場や同僚に会えた今は
これまで頑張ってきたご褒美だと思っている
過去の辛かった経験
努力して培った知識
仕事をする上で自分が人として大事にしてきた気持ち
それら全部が報われるかのように
周りの人と関われていると思う
ここまでの経験は間違いなく私の人生の財産であり
これから先の自信と誇りになると思う
またみんなに会えた時に胸を張れるよう
別に道にはなるけど私も頑張り続けたい
それが自分できる恩返し

回想が長くなったわね
そんなこんなで仕事を辞めることにしたの

職場のみんなに報告するのはとても緊張したわ
なかなか言い出せなくてこれも苦労したものよ

でもみんなから温かい言葉をいただいたわ

家庭あっての仕事
お互い働いていると平日会える時間もほんの数時間だけど
それが結構大事な時間

退職の理由が嬉しいことでよかった
これまでの苦労とそこから這い上がってきた記憶が蘇るね
ここまでよく頑張ったね
みんながハッピーになるのが1番いい選択だよ

あなたが決めたことなら応援するよ 
悩んで決めたことならその選択が間違ってることはない

ああ人生ってかんじね
こんなにも嬉しい言葉に囲まれて
本当になんというか
言葉でも言い表せない思いが込み上げたわ

ごめんなさいね
感傷に浸ってしまうわ
これは私の備忘録だから

人生の大きな大きな節目だから

これから新しい道を行こうしている私へ
ここがあなたのスタート地点
これからもスーツの美咲は頑張り続けます

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?