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400字小説

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400字で完結するショートショートを纏めています。 すぐ読めるものばかりですので、ちょっとつまみたい時におすすめです。
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#ショートショート

袋の鼠のマウス(子)

マウスが逃げだしてしまった。 ワイヤレスに切り替えたのが裏目に出たらしい。 画面上では矢印…

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牛の惑星(丑)

「よし、ここを牛の惑星と名付けよう」 黒い大地に降り立ち、自国旗を片手に船長は宣言した。 …

屏風の虎(寅)

屏風の虎を知っているか? そうそう、一休さんだよ。 描かれた虎が夜な夜な屏風から出てきて暴…

卯の花狩りの季節(卯)

山肌の薄化粧も近付いて踏みしめれば随分と足を取られる。 標高は二千。重くなった手足を引き…

瞳の無い龍(辰)

武の背中に彫られた昇龍の刺青を、指でなぞるのが好きだった。 逆鱗なんてものに触れたことは…

艶めくメドゥーサ指どおりなめらか(巳)

あるモデルの三姉妹が広告塔を務めた事で、そのヘアスタイルは爆発的な流行を見せた。 特殊な…

海の馬(午)

白いベッドの上から窓の外の海原を眺めていた。 打ち寄せる白波の狭間に蒼い馬の鬣が見えたような気がして、私は目を凝らした。 幻だろうか。 馬が波間をかけてゆく。 隆々とした四肢をしならせ、鬣を風に靡かせて大きくいなないている。 いつの事だっただろうか。 同じような光景を過去に見たような気がするが、判然としない。 ジグソウパズルのピースが剥がれ落ちるようにこぼれていった記憶の欠片。今の私にそれが如何程残されているのだろうか。 「辰さん…」 ベッドの脇に座る老いた女が誰かの名前を呼

羊の王(未)

その日、羊の王を決める為に大勢が広場に集められました。 羊たちはこの日の為に鍛えた逞しい…

そこにもここにもお猿がいっぱい(申)

猿はいつも暗闇に青い燐光を纏って現れる。 僕のデスクの少し先で嘲るようにこちらを見ている…

青い鳥と幸福の王子(酉)

青い鳥は疲れ果てた様子で幸福の王子の肩にとまりました。 「やぁ鳥さん。今日はどうしたんだ…

ウォーキング・ドッグ(戌)

どうやら目を覚ましたようだな新人。 手短にこの世界のルールを教えてやる。 「棒に当たるな…

ぼたんの鍋(亥)

サークルの後輩が用意した鍋の前で俺は呆然としていた。味噌ベースのスープでグツグツと煮えて…

あのバロメッツの森に(牡羊座)

…ああ、よく来たな。待ってたよ。 横になったままで悪いな。最近は起き上がるのも随分と辛い…

牛雲(牡牛座)

「あかん、牛雲や」 あの日、陰り始めた空模様に気づき、祖父は慌てて物置へ駆けて行った。 畑の農作物にシートをかけ終わるより先に、ポツポツと滴が頬を打つ。 乳白色に濁った雨。 祖父はそれに打たれながら、必死に畑を駆けずり回っていた。僕は軒下からそれを見ていた。 「どうして、こないな事になるんやろな」 祖父は病床で力無く呟いた。 逞しさで漲っていた腕はすっかり細くなっている。 「憎いなぁ、あの雲が。牛雲が…」 歯噛みする祖父の布団の裾を整え、行ってきます、とだけ声をかけ