あのバロメッツの森に(牡羊座)

…ああ、よく来たな。待ってたよ。
横になったままで悪いな。最近は起き上がるのも随分と辛いんだ。

なぁ、覚えているか。バロメッツの話。
昔二人で本を読んだよな。羊のなる木さ。
俺達は馬鹿だったから、わざわざ羊の肉を買って土に埋めたりした。そうすればバロメッツが生えてくるかも、だなんて馬鹿騒ぎしながら。
あの頃は楽しかった。本当に楽しかったんだよ。

…窓から森がよく見えるだろう。
家を建てるとき設計士に頼んだんだ。俺の寝室から森を見えるようにしてくれって。
あの日、お前の死体を埋めた場所に俺は木を植えた。森に全てを覆い隠させる為に。
数年経って驚いたよ。
木の幹に、葉に、ありとあらゆる場所にお前の顔があった。気がつけば森全体がお前の声でざわめくようになっていた。バロメッツになったんだと思った。お前の死体を種にして、それは育った。

なぁ、俺を連れて行くんだろう?
あのバロメッツの森に。

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