羊の王(未)

その日、羊の王を決める為に大勢が広場に集められました。
羊たちはこの日の為に鍛えた逞しい身体や美しい毛並みを競わせました。
そして厳正なる審査の末、一匹の羊が王として選ばれることになりました。
王となった羊はその証としてツノと尻尾を切られました。
それは耐えがたい苦痛ではありましたが、羊の王はけして見苦しく鳴いたり喚いたりはしませんでした。
なぜならどんな痛みにも耐えて動じないその風格こそが、王たる羊に最も求められる素養だったからです。
祭壇の上から眺めた広場の景色はとても見事なものでした。
羊の王は歓喜に震えながらも王らしく堂々としていました。
不意に後ろから目隠しをされた時も、両足を縛られた時も、腹に刃物が入り血が流れた時も、けして動じませんでした。
なぜならそれが、王の風格だったからです。
薄れゆく意識の中で、出来る事ならもう一度祭壇からの景色を見たかったなぁ、と羊の王は思いました。

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