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『八月の暑さのなかで ホラー短編集』を読んだ

2021/9/24、厨菓子くろぎにて読了。「濃和栗ん」というかき氷を求めてやってきた。11時の開店に合わせて訪れたのにも拘わらず、整理券を取り忘れたために15分ほど徒に時を過ごす。トータルで45分ほど待ったのかな、ようやくお目当てにありつくことができた。普通サイズを頼んだのだがめちゃくちゃデカいのが来て、朝ごはんを食べないでおいてよかったと思った。家を出る時刻ギリギリに起きたので、朝ごはんを食べることができなかったとも言える。くろぎは、ひとくちめが毎回新鮮に美味しい。甘露煮の栗と苦めのほうじ茶クリームを合わせようと発案したひとは誰だ。シェフを呼んでくれ。夢中で食べ進めると最後のほうには凍えるように寒くなってきて、サービスの熱いほうじ茶で暖をとりつつ完食。ホラー短編集を読みつつ食べていたので、余計に寒いのかもしれない。そういえば、かき氷を食べる時は毎回ホラーを読んでいるような気がする。前にくろぎのかき氷を食べた時は、岩井志麻子の『ぼっけえ、きょうてえ』(2021/7/22読了)を読んでいた。また限定メニューが出たら食べに来ちゃうだろうから、その時は、心温まる人情小説を持参したほうがいいのだろうか。

以前松田哲夫編の『こわい話』(2020/7/7読了)を読んだ際に、児童向けのアンソロジーもなかなか侮れないという教訓を得たので、気が向いたら児童書のコーナーにも目を通すようにしている。岩波少年文庫から出ている本書もご多分に漏れず、13篇の上質な短篇が揃っている。普通に生きていれば、あまり触れることの無い作家の作品が選出されているのもうれしい。金原瑞人の清新な訳には、子供たちも親しみ易いに違いなかろう。以下、印象に残ったもの。

『こまっちゃった』エドガー=アラン=ポー
少女小説の様相を呈している、かなり思い切った訳で面食らう。ポーはこんなのも書いたのだろうかと戸惑っていたところ、これは抄訳であるそうだ。というのも訳者によると、原作“A Predicament”はとてもつまらぬ作品であるらしく、面白いところだけを抜き出してポップに訳したという事情があるらしい。

『八月の暑さのなかで』W=F=ハーヴィー
表題作。うやむやなラストが、かえって効果を上げている。じっとりとした暑さのなかで、じわじやと生殺しにされる恐怖。

『顔』レノックス=ロビンスン
個人的に最も好きかもしれない。今回初めて読んだが、できることなら子供の時に1度目を読んで、成人してから2度目を読みたかった作品。幽玄で美しい。抒情詩の読後感に近い。

『後ろから声が』フレドリック=ブラウン
たまたま手元に越前敏弥訳があったので、金原訳と読み比べて楽しんだ。なぜこのような訳の違いが生まれるのか?と疑問に思った部分も多いので、英語の勉強がてら、原文を入手して自分の訳も作ってみたいところだ。

『ポドロ島』L=P=ハートリー
海外のホラー映画を観終わったような読後感。文章というよりは、映像的な怖さがある。ダイナミックな緊張と緩和。

『十三階』フランク=グルーバー
今でこそよくある筋立てだが、これが書かれた1949年当時では、より読者の恐怖を掻き立てたことだろう。書き方に工夫が凝らされているので、今読んでもちゃんと怖い。デパートの無機質な白さが、気味の悪さを引き立てる。

『だれかが呼んだ』ジェイムズ=レイヴァー
最後の1文のキレが凄い。短篇ってこうでなくっちゃな。

『ハリー』ローズマリー=ティンパリ
イマジナリーフレンドという題材が魅力的。ただし、それは本当にイマジナリーなのか?あちら側の世界とこちら側の世界の境界線が揺らぐ怖さ。

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