見出し画像

『本当の翻訳の話をしよう』を読んだ

2021/11/16、家にて読了。

たぶん、村上春樹が訳したティム=オブライエン『本当の翻訳の話をしよう』をもじったタイトルなんだろうな。

ぼくは基本的に、複数のひとが会話をしている時は、特に口を挟まずにただじっと聞いていたい人間だ。ひとりで喋り倒すタイプだと勘違いされることも多いのだが、それは何かしらの必要に迫られている時だけだ。村上春樹と柴田元幸の対談集である本書は(柴田元幸のみによる講義録も1本収録されているが)、そうした路傍の石にでもなりたいという欲求を満たしてくれるものだった。

最近翻訳に興味が湧いていて、村上春樹の翻訳の仕事をまとめた本や、柴田元幸が責任編集を務める文芸誌『MONKEY』を拾い読みするなどしていた。今回もそのマイブームの一環である。

明治時代の翻訳に関する、柴田元幸の講義録は興味深かった。坪内逍遥が『ジュリアス=シーザー』を『自由太刀餘波鋭鋒(じゆうのたちなごりのきれあぢ)』と訳していたのには笑った。いくら浄瑠璃っぽく訳したかったとはいえ、それはないよな。しかしそれは現代だからこその感覚で、当時としては画期的な仕事だったに違いない。森田思軒のなるべく原文に忠実であろうとする訳し方と、黒岩涙香のもはや翻案に近い大胆すぎる訳し方との対比も面白かった。

本書の終盤では、村上さんと柴田先生がそれぞれ同じ英文を訳し、お互いの訳文を比較するということをしていた。違う翻訳を読み比べることも読者としてやってみたいなあとは思うのだが、如何せん体力が要る。

翻訳について知りたいと思って読み始めたが、副産物として、村上・柴田の両者による現代アメリカ文学における代表的な作家・作品談義を読めたのも楽しかった。また読みたい本が増えてしまった。ジョン=チーヴァーとかね。


この記事が参加している募集

#読書感想文

192,504件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?