『真っ白な嘘』を読んだ

2021/9/25、たしか電車内で読了。

フレドリック=ブラウン。SFとミステリの分野で見事な短編を量産し、星新一や筒井康隆に影響を与えたアメリカの作家だ。『真っ白な嘘』は、ブラウンの作品群からミステリの分野に絞って編まれた、全18篇の短篇集である。表紙のデザインがスタイリッシュでとても好みだ。ブラウンの作品は鮮やかなオチが特徴で、たしかに星新一に通じるものを感じる。筒井康隆は、オチというよりはストーリーテリングを継承的に学んだのかなという気がする。

以下、印象に残ったもの。

『笑う肉屋』
シンプルで意外性のあるトリックに感心した。伏線は十分に貼られていたし、筋も通っている。ぼくはハナから謎解きを諦めてミステリを読むタイプの読者だが、どうしてこんな単純なことに気づかなかったのだろう、とちょっと悔しい思いをした。ぼくのように洞察力に欠ける人間でも、一丁前に謎解きを楽しんでいる気分にさせてくれる。

『世界が終わった夜』
ダイナミックに絶望感を描く。ストーリーが転がっていくスピード感が心地いい。因果応報なので後味はさほど悪くはない。

『歴史上最も偉大な詩』
駆け出しの新聞記者はとりあえずこれを読むべきなのではないか。ジャーナリズムの基本にして見逃し易い盲点が鮮やかに浮かび上がる。具体的なエピソードも皮肉が効いている。

『むきにくい小さな林檎』
グロテスクだが、長く激しい戦いを終えたあとの哀愁漂う平穏がある。

『危ないやつら』
最高に面白い。時代はずっと後だが、分かりやすく言うなら三つ巴のアンジャッシュ。誰かにおすすめするならこれかな。

『後ろを見るな』
アイディアの勝利。本の外側にまでミステリの世界が拡張し、読者までもを呑み込む。同じアイディアで何をしても、この作品の二番煎じになってしまうだろうな。

タイムリーなことに、ちょうど1週間前に本書の続編にあたる『不吉なことは何も』が出版されたらしい。今回読んだのはミステリ短篇集だったが、SFのほうもさらっておきたいので、全集に手を出すか悩む。星新一が訳した『さあ、気ちがいになりなさい』も読みたいし…まとめて読みたい本リストに追加。

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