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『ぼっけえ、きょうてえ』を読んだ

2021/7/22、“廚 otona くろぎ”さんにて読了。「南瓜ん」というかき氷を頂いた。濃厚だが上品な甘みの南瓜クリームの下に、甘じょっぱく煮付けた南瓜が潜んでいたのは心憎い。ただ甘いだけでは終わらぬ、大人な味わいのかき氷であった。極上の和風ホラーを読了した後に頂くにはもってこいだ。

買ったはいいが、最初のうちは表紙が怖くて読むのを先延ばしにしていた。ちなみに表紙を飾るこの幽玄な絵は、甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)作の『横櫛』である。この作品は、2021/3/23〜5/16まで東京国立近代美術館で開催された『あやしい絵展』のチケットにも印刷されていた。ぼくはこの展覧会を観に行った後、机の上にチケットを放置していたのだが、ふとこの事実に気づいて仰天した。実際に鑑賞した際にも、なにやら紙面から女の顔がぼうっと光って見えて恐ろしかったのを思い出す。

かき氷にありつくのを待っている間、ぼくは『ぼっけえ、きょうてえ』を読み耽っていた。どことなく不気味な響きのあるタイトルは、岡山弁で「とても、怖い」という意味を持つ言葉だそうである。ホラー作品にそんな題名をつけるのはある種ひとを食ったようなところがあり、なるほど岩井志麻子という奇抜な作家がやりそうなことである。正直なところ、ぼくがこれまで岩井志麻子に持っていたイメージといえば、テレビ番組「有吉反省会」で豹のコスプレをし過激な下ネタを言う女性だというその一点だけであった。ところが、初めて彼女の本を読んでみると、その認識を改めざるを得ない。土俗的でおぞましい日本の怪異譚を見事に書き切る、上質なエンタメ作家ではないか!

もともとぼくは、閉鎖的なコミュニティーを舞台とした怪談に、言い知れぬ魅力を覚える性質である。ひと同士でのどろどろした関係ほど怖いものは無い。岩井志麻子の怪談の良さは、“濃い”ところだ。濃いというか、もう濃ゆ〜いといったほうがいいかもしれない。情念から血、作者のキャラまで全てが濃すぎる。だから怖い。表題作は、巧みな語り口でその濃度を伝えている。『依って件の如し』では、「ナメラスジ」や「ツキノワ」といった民俗語彙が効果的に用いられている。

全編を通して感じたのは、「背中から何かが」というモチーフだ。怪異は背中から忍び寄る。京極夏彦の解説の理屈っぽさも、岩井志麻子の怪談と不思議に相性がいい。ぼくらは、得体の知れない怖いものを理屈っぽく説明してもらうことで、安心したいのかもしれない。

正統後継作であるという『でえれえ、やっちもねえ』もこの夏中に読みたいけれども、読めるかな。

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