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プロダクトマネジメントの本を翻訳した

1月22日に発売された「プロダクトマネジメントの教科書」という本の翻訳を担当しました。

原著は「Cracking the PM Career」です。500ページを超える分量で、一般的な書籍の2冊分以上あると思います。本書の翻訳を日々少しずつ進め、1年程かけて完成させました。本記事では、この翻訳という仕事をどのように進めていったのかを振り返ってみようと思います。


きっかけ

2020-2021年頃、コロナ禍で家にいる時間が長くなり、プロダクトマネジメントに関する洋書を結構読んでいました。そして、その都度 note に内容を簡単にまとめていました。

その中の1冊に「Cracking the PM Career」があり、それをきっかけに出版社からお声がけをいただきました。2022年7月上旬のことです。読むだけでも数ヶ月かかるような分量の多い本なので悩みましたが、PMになりたての頃に前著「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」に大いに助けられたこともあり、これも何かの縁かなと思い引き受けることにしました。

翻訳のスキルを学ぶ

翻訳という作業は初めてだったので、勉強のために以下の本を読みました。

この本を読み、「翻訳」と「英文和訳」は全く異なるものだということを理解しました。以下の例は「はじめに」に出てくるものです。

Optimists can cope more effectively with stress.
→(英文和訳)楽天家は、ストレスをより効果的に処理することができる。
→(翻訳)楽観的な人間ほど、ストレスとうまく付き合える。

上記の違いから分かるように、翻訳では 英文和訳のような日本語としての不自然さをなくしつつも、原文の意味をしっかり伝える ことが求められます。

また、翻訳前に想定読者をしっかりと定義しておく ことが重要だと書かれていたことが印象的でした。例えば、技術者向けの本と子ども向けの本とでは使う表現は大きく変わります。これを読み、「今からやる仕事は『翻訳書』というプロダクトを世に出すためのプロダクトマネジメントなのだ」と気付かされました。

試訳

翻訳スキルハンドブックを読み、翻訳の勘所を身に付けたところで、スケジュールを見積もるために10ページ程試訳してみることにしました。翻訳し始めてみると、「この作業、どこかでやったことあるぞ!?」と既視感を感じました。そして、それは 京大入試の英語 だということに気付きました。

京大入試の英語は、自分が受験した当時の2008年は、英文和訳と英作文だけというドラスティックな内容でした。英文和訳は3問中2問を占め、難解な文章の数ヶ所に線が引いてあって、それをひたすら和訳していくものでした。受験勉強では、周囲の文章からコンテキストを把握した上で適切な和訳を見つけるトレーニングを積みました。翻訳作業は、まさにここでやったトレーニングの内容でした。まさかこんなところで大学受験の経験が活きるとは!

試訳を通して、1ページに1時間程かかることが分かりました。550ページあるので単純計算で550時間。仮に本業として週40時間でやっても3-4ヶ月かかるという気が遠くなるような分量でしたが、慣れていくうちにスピードアップしていくだろうと思い、悲観的にならずに進めることにしました。

また、80-20の法則(パレートの法則)というものがありますが、翻訳作業も20%の部分に80%の労力がかかるものだということが分かりました。基本的にはスラスラ進みますが、1ページに何ヶ所か翻訳に悩む部分があり、それらの部分のよい翻訳の仕方を考えるのに大半の時間が費やされました。

翻訳作業

試訳も終わり、2022年7月中旬から本格的に翻訳作業を開始しました。その後9月に 渡米というイベント があり、その前後はあまり進められませんでしたが、それ以外は1日2-3時間くらい仕事終わりに進めました。自分は物事を習慣化してコツコツと進めるのが得意な方なので、早期に維持期に突入し、特に心が折れることもなく日々進められたように思います。

翻訳を進めている中で、その内容が本業と絡む部分も多く、いいシナジーがあったように思います。本業のプロダクトマネジメントでどう進めるか悩んでいることについてのヒントがまさに今翻訳している章に書かれている、といったことが度々ありました(過去に1度読んだのに完全に忘れている)。

2022年12月頃からは渡米前後の遅れを取り戻すべく、スピードアップして進めていきました。この頃から、休日も含め空き時間の7割くらいを翻訳に割いていたと思います。そして2023年5月上旬に一通り翻訳が終わりました。

ChatGPTの興盛

翻訳作業中、ChatGPTが公開されて一世を風靡するという出来事がありました。翻訳はChatGPTの得意分野のひとつで、DeepLと比べてもかなり自然な翻訳を出力してくれます。LLMの労働市場への影響を考察した論文でも、影響を受けやすい職業として翻訳が取り上げられています。

まだ人が翻訳するレベルまでには達していないかもしれませんが、それと同等か上回るレベルになるのも遠くない未来だと思います。翻訳の仕方に悩んだ際は最初のうちはDeepLを参考にしていましたが、途中からはChatGPTを参考にするようになりました。

翻訳のレビュー

翻訳が終わった後は、一通りレビューをしました。最初の方の章から目を通していきましたが、直近まで翻訳していた最後の方の章とは文体が全然違っていて、自分が翻訳したとは思えないようなものでした。最初の方の章を翻訳した1年前の自分は今の自分とは別人のように感じ、もはや2人で翻訳した気分です。今の自分の文体にあわせて修正していきました。

レビューは2ヶ月程かかり、7月上旬についに完成させることができました。出版社から連絡をいただいたのが一年前の7月上旬だったので、ちょうど一年かかりました。

出版

ここから出版までは主に出版社の作業で、校正、校閲、デザインなどの作業を通して本が完成されていく様は感慨深いものがありました。校正という仕事については以下の動画がおもしろかったです。

そして1月22日についに出版されました。自分は米国にいるので本屋に並んでいるのを直接見ることはできないものの、SNSで上がっている写真を見てうれしくなりました。PMのキャリアやスキルについて幅広くカバーされている良書だと思うので、まだの方はぜひ手に取ってみてください!

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