【読書記録】類/朝井まかて


あまりにも大きな父、森鷗外の息子「類」

タイトルにもなっている「類」は森鴎外の息子である類(ルイ)のことです。

夏目漱石と並ぶ大文豪森鷗外ですが、その娘、妻、息子の類たちの華やかな生活、そこから森鷗外の死や戦争がきっかけで経済的に没落していく様子が描かれています。

こう書くと艱難辛苦のにおいがしそうですが、そんなことはなく、長女森杏奴は文筆家として成功していますし、一番後世に残っている森茉莉は今でも読み継がれる小説家ですよね。

長男であり類とは腹違いの兄である於兎(おと)も出版していますし、実は妻の志げも小説を書いていました。

このように森鴎外一族は芸術と文学の才に溢れ、世間離れした言わば上流階級の一家だったのです。

なにものにもなれなかった類

今となっては森鷗外と森茉莉以外の著作を目にする人は少ないでしょう。

しかし当時は森家は類以外みな文筆の世界で脚光を浴び、新聞に評論が掲載されたり、醜聞が報じられるレベルの一家だったのです。

そんななか、画家を志すも目が出ず、文筆の世界でも数作発表するものの、生きているうちにこれといった大きな賞やベストセラーも生み出せず一生を終えた類にフォーカスした物語が朝井まかてさんの描く『類』です。

妻に懇願されるまで働くという発想がなかった類

鴎外の印税や財産を分け合って生きていたため、一日中絵を描いたり文筆に打ち込んだりして、そもそも「労働する」という発想が類にはまったくありませんでした。

しかし4人の子供を抱え、戦後の生活がうまく立ち行かなくなり、妻に懇願されようやく働きに出ます。

しかしそこでもうまく仕事ができず、お坊ちゃん育ちがアダとなってしまいます。

なんだか羨ましいぐらいの呑気さ、贅沢さなのです。

でも全然非難する気は起きない。

むしろ愛らしさを感じてしまう。

皆が尊敬し、パッパとよぶ森鴎外からの愛情をたくさん受け取って育った、育ちの良い人だけが醸し出せる何とも言えない善良さがあるのです。

ワタシ的読みどころ

一番感心したというか嬉しかったのが、森茉莉さんのキャラクター造詣です。

もう、まさに私が著作からイメージしていた森茉莉がそこに!!

嫁に行っても一日中芝居や買い物にでかけて家事を一切しない、深夜まで起きて小説を読んだり書いたり、時間の感覚がまるでない。

人がお土産を持ってきても人数を数えて分けるということをしない、自分が気に入ればそのまま全部でも食べようとしてしまう。

通れば人が振り向くような洒落もの。

言葉使いや動作、エピソードなど、「森茉莉に会えた!」と思えるような描写ばかりで、森茉莉ファンの私としてはとてもテンションが上がる小説でした。

森茉莉エピソードはまた今度にするとして。

とにかく『類』は鴎外や森茉莉が好きな方にはきっとご満足いただける小説だと思います。

興味を持った方は是非ご一読ください。 

さぁ次は何を読もうかな・・・。

※Amazonアソシエイト審査中です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?