超絶個人的におすすめする歴史小説/時代小説

歴史小説が好きで、いくつか人様にイチオシしたい作品がある!…がなかなかおすすめする機会もないということで、今回noteのハッシュタグ「#私のイチオシ」に乗っかって書いてみました。

そこまでたくさんの作品を読んでるわけでもないのですが、まあそこはご容赦ください。

2020.3.16 永井路子「炎環」を追加。あと全体としてちょっと修正。

【新撰組血風録 司馬遼太郎】 角川文庫

新撰組を題材とした短編集です。
司馬遼太郎っていうと「燃えよ剣」「坂の上の雲」「竜馬がゆく」あたりが非常に有名ですが、個人的に一番好きなのがこちらです。「燃えよ剣」が新選組の副長である土方歳三を主人公としてフォーカスしているのに対し、こちらは隊員一人ひとりの考えや生き方を描いている群像劇。新撰組とは言うけど、人間の集団なんだなあと思わされます。
好きなエピソードとしては、局長・近藤勇の佩刀として名高い長曽祢虎徹の真贋について迫った「虎徹」、家庭を持ったがゆえに変質した隊士の姿を描いた「胡沙笛を吹く武士」、沖田総司の人気を確固たるものにした「沖田総司の恋」「菊一文字」、隊内における微妙な人間関係と政治を描く「槍は宝蔵院流」などでしょうか。「燃えよ剣」と一緒に読むといいと思います。

【播磨灘物語(全4巻) 司馬遼太郎】 講談社文庫

こちらも司馬遼太郎作品。司馬作品の中ではそこまで人気が高いわけではないっぽいです。
戦国時代、豊臣秀吉に仕え、竹中半兵衛とともに「二兵衛」「両兵衛」と並び称された軍師 黒田官兵衛の一代記です。
黒田官兵衛はもともとは仕えていた主家がありましたが諸事情あって織田家家臣である秀吉に仕えることになり、知り合いの裏切りによって1年以上に渡って劣悪な環境の中で幽閉されるという過酷な運命をたどります。
他の司馬作品の方がもっといい作品はあるのかもしれませんが、とにかく黒田官兵衛と竹中半兵衛の友情、そして幽閉中の官兵衛の心の移り変わりが見事なんですよ。そのシーンだけ繰り返して読みたいくらい。
秀吉死後の官兵衛の活躍についてはほぼ省略されているので物足りないという人もいるかもしれないですが、好きな作品です。

【美貌の女帝 永井路子】 文春文庫

優れた歴史小説をたくさん著した永井路子の代表小説の一つ。
飛鳥時代の女帝、元正天皇(氷高皇女)の「敗者としての栄光」を描く作品です。元正天皇は史上初の「未婚の女帝」なのですが(それまでは皇后とか天皇の母が女帝となっていた)、彼女たちと、次第に朝廷内に枝葉を伸ばしていく藤原氏との政治的戦いを丁寧に追っていきます。
持統天皇、長屋王、聖武天皇など脇役が豪華すぎるのもすごいですけど、やっぱり藤原不比等の存在感がすごくて、ちょっと藤原氏嫌いになりますw
あと長屋王の変も大きく扱われるので、やっぱ長屋王の変は作家の創作意欲を刺激するんだなーと。何回読んでも飽きさせない小説だと思います。

【姫の戦国(上下巻) 永井路子】 文春文庫

戦国時代、公家の出身でありながら大名である今川家に嫁ぎ、夫、息子たちや孫など4代に渡って政務を後見し「女戦国大名」と呼ばれた人物がいます。名は寿桂尼(じゅけいに)。武田信玄は「寿桂尼が生きている限り駿河に侵攻できない」と嘆いたといいます(実際しなかった)。
そんな彼女が今川家に嫁ぎ、政治を行うさまを軽やかに描いた作品。荒れ放題の京から「富士のくに」に嫁ぎ、嫁姑問題に悩んだりしながらもいつも好奇心を失わずに生きていた主人公。
寿桂尼のことを知識として知る人たちは彼女のことを「怖い人だったんだろうなあ」と思うんですが(私もね)、この小説では徹底して「明るく好奇心旺盛な女性」として描かれています。そしてそんな明るい生き方(悩みの多い人生だったとは思うんですが)に励まされるような感じ。
今川義元が織田信長に討たれた後の活躍ぶりがほぼ省略されているため、そのへんが読みたい人にはちょっと物足りないかも。今川氏真についてはわずかに触れられているのみです。
またこの作品はなぜか新刊では手に入らないため(本屋に置いてるの見たことない)、出版社や本屋、古本屋に問い合わせないと手に入らない可能性があります。

【王朝序曲(上下巻) 永井路子】 角川文庫

こちらも永井路子作品。私は永井路子大好きです。
平安時代の最初期、桓武天皇の即位から平城上皇による「薬子の変」の終わりまでを描く作品です。
主人公は藤原冬嗣で、藤原4兄弟以降、どちらかというとあまり繁栄していなかった藤原氏の隆盛を築いた人物だったりします。冬嗣という人物の目を通して、桓武天皇という「古代最後の皇帝」の失敗と苦悩、新しい時代の天皇であるはずの平城天皇の懊悩を見通していきます。タイトルになった「王朝序曲」は、平城天皇のあとをついで天子となった嵯峨天皇が権力闘争に興味を示さず、平安時代がおっとりした時代になったことをいいます。
奈良時代という時代の終わりと、新しい平安時代の始まりを追った作品。前半は主人公・冬嗣があまり活躍しませんが、後半はドキドキの連続です。

【炎環 永井路子】文春文庫

永井路子が続きますが、決定作と行っていい作品が「炎環」です。鎌倉時代初期を舞台に、阿野全成・梶原景時・阿波局(北条政子の妹)・北条義時の4人を主題として書かれた連作短編集。ほとんど付け入る隙がない(スキって何って話ですが)完璧な作品と言っていいと思います。
永井路子は特に鎌倉時代に詳しいことで有名でしたが、その彼女が精魂を傾けて描いた鎌倉絵巻となっています。面白いとか面白くないとかいう以前として風格からしてすべてが違う。
個人的には北条政子の妹(作中では「北条保子」)を描いた「いもうと」が一番不気味で好きですね。政子の娘である大姫の悲劇も描写されるため、女性が一番入っていきやすい(同時に一番気持ち悪いと感じる)短編ではないかと思います。

【額田女王 井上靖】 新潮文庫

万葉歌人として名高い額田女王を主人公とした小説です。
井上靖の文章は全体としてめちゃくちゃ乾いているので受け付けないという人が多いと思うんですが、ハマるととんでもない、という印象があります。文章自体は淡々としてるのにものすごい歴史のうねりみたいなものが感じられる。「敦煌」とかの作品が世間的には有名ですが、「楊貴妃伝」「淀どの日記」など女性を主人公とした作品に外れがない作家だと思ってます。
額田女王は謎の多い人物なので大胆に創作が入っていますが、彼女の生き方と、白村江の戦いなどの歴史的大事件がきちんと両立して描かれて、読みだしたら止まらない。額田女王が中大兄皇子に命じられて歌を詠むシーンとか最高に陶酔できます。

【風林火山 井上靖】 新潮文庫

大河ドラマの原作にもなった作品。武田信玄の軍師 山本勘助を主人公とし、武田信玄、由布姫(諏訪御料人)、そして激戦として名高い第四次川中島の戦いまでを描きます。
こちらは「額田女王」と比べてエンタメ小説っぽいというか、恋あり、戦いあり、みたいな感じ。作者がこの作品を執筆した際は山本勘助の実在は疑問視されていたそうで(最近やっと実在だとわかったそうです)、だからこそエンタメ系になったのかもしれないです。
山本勘助は由布姫に恋心を抱き、彼女と信玄のために尽くそうとするんだけど、由布姫の心理の描写すごいんですよねえ。由布姫がこういうキャラクターじゃなかったら私はここまでこの作品が好きじゃなかったかもしれない。
余談ですが、山本勘助は「楊貴妃伝」の高力士とキャラがかぶるので、これ読んだ後に「楊貴妃伝」読むとたぶん感想変わります。

【新源氏物語(上中下巻) 田辺聖子】 新潮文庫

恋愛小説を多数著した「おせいさん」の代表作の一つ。源氏物語を大胆に翻案しわかりやすいものにしてくれた恋愛絵巻です。
あまりの美貌ぶりに「光る君」と呼ばれた光源氏を中心として、彼の奔放な恋愛歴を描写したものなのですが、物語前半に彼が恋愛無双していたころより、中盤以降に人間関係が錯綜し始めたころががぜん面白いです。女君としては、六条御息所が出てきたあたりですね。それまでの短編集のような内容から、複雑に交差した男ごころ・女ごころの絡まり合いがとても興味深いですし、休ませずにどんどん先に読み進めてしまう面白さを持っていると思います。
仏教的な宿世の恐ろしさと言った当時の信仰や、香合わせや着物の組み合わせで人間性を見るなどの「あはれ」も丁寧に描写されています。ただ人間関係の複雑さはやはり副読本や解説があったほうがわかりやすいと思います。

【無双の花 葉室麟】 文春文庫

直木賞を受賞し、これからも素晴らしい作品を書くことを期待されながらも亡くなってしまった葉室麟の作品です。
知名度は歴史ファン以外には高くないのですが、九州の戦国武将で「立花宗茂」という人物がいます。豊臣秀吉に「その忠義、その剛勇、鎮西一」と働きを絶賛された人で、関ヶ原の戦いで西軍として戦ったために家を取り潰されてしまうのですが、あまりにも才にあふれていたため大名として返り咲いたという異例の経歴を持つ人物です。
その立花宗茂の活躍を描いた作品なのですが、時系列が若干わかりにくいのがちょっとだけ難点。朝鮮出兵以前の話もあんまり出てきません。でも本多正信など、ニヤッとしてしまう脇役が出てきたりしていい感じ。もちろん正室の誾千代も出てきます。
葉室麟、文章の円熟っぷりがすごくて、「いつかものすごい大作を書いて大河ドラマの原作とかなるんだろうなあ」って思っていたので、亡くなったのが本当に悔やまれてなりません。

【国銅(上下巻) 帚木蓬生】 新潮文庫

「情熱が銅を溶かし、大仏を造りあげた」。
このキャッチコピーがめちゃくちゃ好きで、内容をよく表していると思います。「奈良の大仏」を作り上げた人足たちの働きを淡々と描いた作品です。
長門(山口県あたり)で銅を取る仕事をしていた人足である主人公は、奈良の大仏を作るために都に向かいます。驚くほど辛い労役が毎日続き、朋輩が事故で死に、あるいは逃亡する中で、主人公は文字を勉強し、詩を学びます。
物語では大きな事件ですらも静かに描写されるため、人によってはつまらないと感じられるかもしれません。大仏作りの工程や主人公の詩作りの内容や、女を抱いたこと、市内に繰り出したことをひたすら穏やかに描きます。だからこそ人々の情熱や人生が丁寧に浮かびだす気がします。なによりも主人公が「字」を習い、詩を学ぶことで世界を描写していくさまが本当にすばらしい。最後まで読んでほしい作品です。

【裏関ヶ原 吉川永青】 講談社文庫

関ヶ原の戦い、というと美濃・関ヶ原で行われた合戦が最も有名ですが、実は日本中で関ヶ原の戦いを起点とした合戦が行われていました。慶長出羽合戦、上田城の戦い、田辺城の戦い、石垣原の戦いなど、本当に日本を二分したのが「関ヶ原の戦い」だったわけです。
そんな関ヶ原の戦い「本戦」以外の戦いに関して描いた短編集がこちら「裏関ヶ原」です。主人公たちは西軍につくか東軍につくか迷い、生き方に迷いながらも自分の信念に従って去就を決めます。
短編集ですので、全体としての大きな感動というものではないかもしれません。ですが綺羅星のような戦国時代の武将たちの生き様が交差して、こっそり泣きたくなってしまう作品です。

【宇喜多の捨て嫁 木下昌輝】 文春文庫

戦国時代の山陰に、宇喜多直家という武将がいました。謀略と暗殺を得意とした彼は、敵となる人物を殺害することで自分の版図を広げ、最終的に主君を追放して大名として落ち着きます。直家は自分の娘を敵に嫁がせ、敵が油断したところで殺害する手法を好んで使用しました。タイトルは彼の娘が「捨て石」扱いされたところから来ています。
歴史作家・木下昌輝の出世作品。宇喜多直家の歴史に対して大胆に創作を交えながらも、直家が「乱世の梟雄」として変貌を遂げていくさまを連作短編集として描きます。
直家は多面的な逸話が残っている人物で、自分の家族に対しては非情の対応をしつつも、家臣に対してはたいへん親切だったそうです。そんな彼を動かしたものはなんなのか? 読んだあとに溜息をつくような業が凝った作品です。

【和宮様御留 有吉佐和子】 講談社文庫

作品公開当時に大きな話題を読んだ作品。有吉佐和子の代表作です。
幕末、公武合体の名のもとに江戸幕府に嫁ぐことになった皇女・和宮。その和宮が実は替え玉であったというショッキングな内容です。しかも替え玉にはごく普通の庶民の京娘(主人公)がなってしまい、一切の状況説明をされないまま江戸に行くことになった主人公は徐々に精神の均衡を崩していく…という、衝撃に衝撃が続くものとなっています。
全体として乾いた文章が続き、不幸にも替え玉となってしまった主人公に対して同情的な文は基本的に出てきません。ネタバレになりますが、エンディングにも救いはなく、人によっては陰惨さを感じると思います。しかしながら内容は非常にクオリティが高く、特に和宮(主人公)の日常生活の描写の細かさは一驚に値します。御所言葉もたくさんでてきますので、雅が感じられるかも。


文章の推敲ぜんぜんしていないのでいろいろひどいのですが、イチオシの歴史小説たちをガーッと書いてみました。歴史小説は単語一つとっても現代と違うので、読んだことがない人は入っていきづらいと思うのですが、それでもなおオススメしたい面白さに満ちています。興味を持ったら、ぜひ手にとって見てくださいね。

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