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ep14. 10ユーロもって、ワイン飲みにいく | サントリーニ島の冒険

 帰りのバス停には、一組のカップルのみが待っていた。ミュージーアムはすでに閉まっており、昼間は賑わっていたこのエリアも閑散としていた。足の裏に海からのいろんなものがくっついていたので、きれいにしながらバスを待つ。時々団体ツアーのバスが到着して、乗客を降ろしていく。この時間にレッドビーチを一目見ていくのだろうか。そうしてついに「ローカルバス」の貼り紙をフロントガラスにかかげたバスが近づいてきた。そして最初にバスから降りてきたのは、これまで何度かローカルバスの旅を共にした、運賃回収スタッフのあのお兄さんであった!私はもうこれで大丈夫だと思った。最初に彼を見た時から、その洗練された無駄のない動きに、とことん信頼感を抱いていた。

 実は二日目の日帰りバスツアーで訪れていたSanto Wine(サントーワイン)。何も飲まずにウロウロして終わったものの、建物に入ったときに漂う美しい香りで、なんとなくワインが気になっていた私は、もう一度立ち寄ってみようかと考えていた。行きのバスで目的地を乗り過ごすというゴタゴタで、偶然このバスがサントーワインに停まることを知ったのだ。しかしながら、今来たバスの後は18時台に一本。そのあとは20時であり、バス以外に足のない私は、無事宿まで帰れるかどうか少し不安があった。バスのお兄さんにその点質問すると「とりあえずバスに乗りなさい」という。

 座ってすぐにバスが動き出す。席から背筋を伸ばしてお兄さんを目で追うと、彼が近づいてくる。「それで。どこに行きたいの?」と尋ねてくれる。この数時間前に降りるバス停を逃し、同じバスに3回乗っていた私を、さすがに彼も忘れられないようだ。サントーワインでまず降りて、その後フィラに帰りたいと伝えると、サントーワインを経由してフィラにいくバスはこれ以外にもあるので「多分大丈夫」だという。そしてサントーワインで降りる場合はちょっとバス賃が安くなるらしく、お兄さんはそこも正しくバス代を請求してくれた。No.1 お兄さんが大丈夫というなら大丈夫だと思う。

 日が傾きはじめる中、私はギリギリ歩道があるかどうかの道路で、バスからポツンと降り立つ。車は結構走っているが、歩いている人はほとんどいない。サントーワインがまだオープンしているのを見つけて一安心。早速バーに行ってみるも、ミュージーアムに行ったので、帰りのバス代を除くと、約10ユーロしか持っていないことに気がつく。バーのスタッフに「ワインがあるかなと思って」と声をかけると、「正しい場所に来たよ」とニヤッと笑いながら返してくれるお兄さん。

 太陽の照らす海が見える素敵なテーブルに案内してもらった。この雰囲気にはとてもそぐわないと思いつつも「10ユーロしかないので、それで頼めるものにします」と伝えると、ちょっと驚き顔のウェイターさんだったが、十分だと思うよと言ってくれた。この島で一番よく採れているという葡萄の白ワインを頼む。グラスがテーブルに置かれると、太陽がまるでその中に入りそうな位置まで降りてきており、この太陽と海の風を浴びて育った葡萄そのものの香りがフワッとしてくるようであった。

 ひとくち口に含ませる。漂う香りは甘いのに対し、味覚では少し苦く感じられるワイン。そしてふと時計をみると、次のバスが来るまであと30分ほど。前泊の宿でお世話になったハラさんから、常に早めにバス停に着いておいた方がいいとの教えをもらっていたので、ぐびっとワインを飲み干し、美しすぎる眺めに後ろ髪をひかれながら席を離れることにした。立ち食いそばのような早さでレシートを持ってカウンターに現れる私に、もう行くんかいな、と驚きの店員さん達。金額は7ユーロしないくらいで、無事手持ちの現金で払えた私は胸を撫でおろす。

ひと気のない道にバス停ぽつり

 バス停に戻ると、太陽が葡萄畑を横から照らす位置に近づいていた。Bus Stopの看板の下に一人立つ私。ただ車が行き交う中、バスが来ると信じて待つしかない。20分ほどして、見慣れたローカルバスの貼り紙をかかげたバスがやってきた。果たしてあのNo.1 お兄さんはいるだろうかと思って乗り込むと、別のお兄さんが運賃の回収に来た。少しがっかりするも、今日はあのNo.1 お兄さんに大変お世話になった。

 バスから海を眺めていると、刻々と日が沈みはじめる。昨日まで水平線沿いに雲がかかっていたが、今日は雲のない念願のフルサンセットになりそうである。途中バスは海を離れ市街地に入り、窓からサンセットが見えなくなる。フィラの終点で降りるとすぐに、私は海を目指す。何度も登った坂道だが、足が鉛のように重く感じられて、とてもきつく感じられる。オーシャンビューのポイントに近づいた時には、満足そうな人々の群れが坂道を下ってきて、もうサンセットが終わったのだとわかった。

 それでも坂道を登り続け、海の見えるベンチに腰をおろす。すでに太陽は見えなかったが、その確かな存在感を残すピンクの空が今日も美しい。少し休んで、明日のホットスプリング(温泉)用の水着を探すべく、街のお店を覗きに行く。このツアーの代理店に、水着は色が付きにくいものがいいと言われていたのだ。しかし、どの店を見てもこれが意外と高い。明日のホットスプリングは、船から海に飛び込み、泳いで辿りつくというもの。まだ本当にチャレンジするかわからないのに、この値段で水着を買うのはもったいなく、諦めた。

 マクドナルドの隣の、Bakery(ベーカリー)という文字が目に飛び込み、入ってみる。こちらはまだ元気に営業中。夜のパン屋も珍しいが、どうやら24時間営業しているようだ。チュロスのようなドーナッツのようなお菓子を見つけて、値段を聞くと1.5ユーロだというので、残金でなんとか買える。そのドーナッツを口に運びながら宿へ戻る。イメロヴィグリで買っておいたカップ麺。今晩の宿にはケトルがあり、ついにありつくことができた。このカップ麺。大好きなやきそば弁当のような味がしてすっごく美味しい。ギリシャで初めてつけたテレビには、映画アデラインが流れていた。また少し冒険して、暗がりの部屋でみる日に焼けた肌が何か強さを意味するような気がして嬉しく、1日の疲れでぱたっと眠る。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今晩は大きな豆腐を飲み込むように食べてしまった私です。

「サントリーニ島の冒険」は、100ページを超える手書きの旅誌をもとに、こちらnoteでゆっくり更新しています。このサントリーニでの旅も残すところ二日となりました。

人生初めて泳いだ海はエーゲ海となった、一つ前の記事はこちらです。

また、これまでの記事はこちらに綴っています。お時間があればぜひ訪れていただけますと嬉しいです。